「次の次」の手が見えない1号機のピンチ

iRyota25

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東京電力は7月25日、報道関連資料として「ジェットポンプ計装ラックからの窒素封入試験」に関する資料を公開した。

 福島第一原子力発電所1号機ジェットポンプ計装ラックからの窒素封入試験について|東京電力 平成26年7月25日
www.tepco.co.jp  

「ジェットポンプ計装ラック」で検索すると、2012年に水漏れを起こした際の4号機ジェットポンプ計装ラックの画像がヒットした。

ジェットポンプ計測用ラック(福島第一原発4号機のもの)
ジェットポンプ計測用ラック(福島第一原発4号機のもの)

photo.tepco.co.jp

写真は華奢(きゃしゃ)な感じの細い配管だが、ジェットポンプそのものは、原子炉圧力容器の中での冷却水の流れを調整するかなり大柄な装置で、圧力容器の外側にある再循環ポンプによって駆動している。その動きを計測するためのラインだから、この華奢な配管も圧力容器内部につながっている。ならば、この配管を窒素封入に使えるのではないか。うまくいくかどうか実験してみよう、というのが東京電力が公開した資料の趣旨だ。

ちなみに、原子炉の圧力容器に窒素を封入する理由は、震災直後、2011年3月に相次いで発生し、最悪の状況を引き起こした水素爆発を防ぐため。窒素を原子炉に詰め込むことで水素を外へ追い出そうという算段だ。

なんでいまさら窒素封入の新ラインを探すか?

水素爆発を防ぐための処置だから、原子炉圧力容器への窒素封入作業は現在もずっと続けられている。現状で窒素封入に使われているのは、圧力容器のてっぺんにあるRVH系(原子炉圧力容器頂部冷却系)のラインだ。このRVH系を別の用途に使うかもしれないから、「押し出される形」で、窒素封入の新たなラインを探さなければならなくなった。

つまり、窒素封入の新ラインの試験を行うということは、「原子炉圧力容器内の冷却」と「水素爆発を防止する」という2つの至上命題を実現するための「手札」が極めて「手薄」であることを示しているのだ。

7月25日に公開された「窒素封入」をテーマとした資料に先立つこと半年以上前、1月30日に経済産業省「廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第2回)」で示された資料「福島第一原子力発電所1号機原子炉注水系に関わる対応について」には表題のとおり、注水系の問題としての視点から同じ課題が論じられている。

 「福島第一原子力発電所1号機原子炉注水系に関わる対応について」資料3-1:循環注水冷却 | 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第2回)
www.meti.go.jp  
 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第2回)
www.meti.go.jp  

圧力容器へのアクセスはごく限られている

話を整理しよう。
燃料が融け落ちたと考えられる圧力容器の内部は、想像を絶するほど高い線量に侵されていることだろう。とても生身の人間が入って対処できる状況ではない。そこで事故後も「生き残っている」ラインを利用して、融け落ちた燃料を冷やすための冷却と、水素爆発を繰り返さないための窒素封入が行われてきた。

しかし、炉心冷却用に使っているスプレイ系(CS系:コアスプレイ系)という給水ラインが、目詰まりを起こして将来使えなくなる危険性が発覚した(原因は不明。事態が発覚したのは1年前の2013年7月)。

シャワーのように燃料の上から水を掛けるスプレイ系の冷却の代わりになるのは、RVH系(原子炉圧力容器頂部冷却系)しかない。となるとRVH系が担っている窒素封入を別のラインで行う必要がある。気体の封入であればたとえ細いラインでも数があれば可能だろうと目を付けたのがジェットポンプ計装ラインだったということらしい。

しかし、廃炉・汚染水対策チーム会合の資料には、もっと深刻な状況が記されている。

圧力容器内に水を入れるために使用可能なラインが、もはやほかにないかもしれないという恐るべき現状だ。

「福島第一原子力発電所1号機原子炉注水系に関わる対応について」資料3-1:循環注水冷却 | 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第2回)」より
「福島第一原子力発電所1号機原子炉注水系に関わる対応について」資料3-1:循環注水冷却 | 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第2回)」より

廃炉・汚染水対策チーム会合の資料では、6つの候補が示されているが、いずれも作業エリアの線量レベルが極めて高い。測定が行われている中でもっとも低いRVH(圧力容器頂部)系でも4~6mSv/h。CA(コアスプレー)系の弁修理が必要な格納容器内に至っては100mSv/h。線量の高さが障壁となって、新たなアクセスルートの開拓は困難な状況だ。

さらに6候補のそれぞれが置かれた状況も苦しい。高い線量下での弁修理、大掛かりな工事、格納容器内での弁操作など、必要とされる措置のハードルはどれも極めて高い。SLC(ホウ酸水注入)系やCRD(制御棒駆動)系は、溶融した燃料が溜まっている可能性がある圧力容器底部の系だから、もとより利用できる可能性は低い。

現在、原子炉冷却はシャワーのように冷やすスプレイ系と、風呂に水を溜めるようにして冷やす給水系の2系統で運用している。そのうちのスプレイ系に利用されているコアスプレイ(B系)が利用できなくなったら、その代替はRVH(圧力容器頂部)になる。現在窒素封入に使われているRVHの代わりに、JP(ジェットポンプ)計装ラインが使えるかどうかの試験を7月末から開始するというのが、7月25日に発表された資料の意味するところ。

コアスプレイ系の不具合発覚からの対応が遅いという声も聞こえるが、それよりなにより、JP(ジェットポンプ)計装ラインを窒素封入系に使ったら、もうそのほかには手札がなくなってしまうことの方が、いっそう恐ろしく思える。

生身の人間がアクセスできない圧力容器内部の状況を知るために、本来ならセンサやカメラ、小型の調査ロボットを入れる「アクセスライン」も確保したいところだが、現実はそれどころではないのだ。

「冷やす」と「爆発を防ぐ」という、事故原発をぎりぎり維持していくためだけで、事故の本当の現場である圧力容器内へのアクセスは、事実上閉ざされている。

地下水バイパスや多核種除去設備(ALPS)、凍土遮水壁やタンク増設は、非常な困難に晒されてはいるが、改善に向かう余地が残されているように感じられないわけでもない。しかし、もっと原発事故の核心に近い場所では、打てる手が次第に狭められて、もはや「次の次」が見えない状況に追い込まれている。

文●井上良太

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