2016年秋、電柱だらけの大槌町

iRyota25

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大槌町で「希望の灯り」が灯されているのは、大槌川と小鎚川の間にある高台、城山公園。ここからは大槌の町を見渡すことができる。

2012年11月11日に灯された大槌の希望の灯り。台座には「ひょっこりひょうたん島」のイラストも刻まれている
2012年11月11日に灯された大槌の希望の灯り。台座には「ひょっこりひょうたん島」のイラストも刻まれている

数カ月前には国道45号線から町に続くメインの道路は工事中。町方と呼ばれる津波被害が大きかった地域では宅地の区画整備が進められていた。

9月の大槌祭りの日に行ってみると、メインとなる道路は完成し、その他の道路工事もかなり進展していた。そして今現在、この町で一番目立っているのは電柱だ。

真っ平らな土地と垂直の電柱。区画整備が終わった宅地の平面から空に向かって屹立する電柱が独特の光景をつくり出していた。

城山から町方へ下りると、今年引き渡しが行われた災害公営住宅のベランダに洗濯物が干されていた。6階建ての公営住宅に寄り添うように立てられた新築住宅もある。公園もある。

それでも生活の雰囲気が感じられるのは広い造成地のごく一部。少し離れた場所では建築中の住宅もあるが、まだ建築ラッシュという状況ではない。

被災地で住宅を建てるのはとても大変になっているという話をよく聞く。3年前に新築することができた人は「10月中旬に地鎮祭をして、正月には新居に入っていたよ」というが、最近着工した人は「正月なんて無理。年明けいつ頃になるかもまだ分からない」という。それだけ作業員や資材が逼迫しているということだ。

震災遺構としての保存が決まったかつての町役場周辺も、道路は美しく整備され、宅地造成も終わっている。しかし造成地には雑草が生えているところもある。道と区画だけができ上がった土地に電柱が林立している。

しかし、上の写真のこの道では、1年前には仮の道への付け替え工事が行われていたと記憶する。ラインが引かれ、歩道も縁石も整備され、その上電柱まで立てられたこの道はもう仮の物ではない。やがてこの土地に住まう人たちが行き交うことになる道。人と暮らす町の復活は未だながら、新しい町の建設は確かに進んでいる。

建物のない土地に電柱だけが立ち並ぶ光景は、違和感すら与えるものかもしれない。しかし電柱だらけの大槌町の空気の中で、将来の町の姿が醸されていることは間違いない。

新築する家の設計に没頭している人もいるかもしれない。新しい町で祭りやコミュニティをどうするか話し合っている人たちもたくさんいるだろう(大槌は地域の祭りがとても盛んな場所だ)。子どもの将来と町の未来を重ね合わせて考える人もいるだろうし、人口が減少する中で、どうやって商売を続けていくか考え込んでいる人もいるかもしれない。そして、ほぼすべての人が将来設計や再建資金のことで頭を悩ませていることだろう。悩みながらも、この町で暮らしていくことを前提に、明日を描いているのだろう。

そんなふうに考えると、電柱ばかりが立ち並ぶ景色が少し違って見えてくる。今だけしか見ることのできないこの光景が、かけがえのない、尊いものに思えてくる。

大槌町の「希望の灯り」

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