今年の初詣でに大槌町の小鎚神社に向かった。小鎚神社は平安初期に創建された由緒ある神社だ。震災では鳥居のすぐ下まで津波が押し寄せ、また周囲の山を炎に囲まれたものの、宮司さんや避難していた人々の夜通しの消火活動で、社殿と境内、さらに江戸時代から伝えられる四基の神輿も無事だったという。
目下、大槌町はかさ上げ工事の真っ最中。かつてのメインストリートも含めて、多くの道が付け替えられている。以前に通り掛かった時にはちょうど神社前にも工事が入っていて、お参りできるのかどうか心配だったが、現場の中に仮設の通り道が作られていたおかげで無事に参拝することができた。お正月に合わせて開帳されていた見事なお神輿も拝ませていただけた。
初詣でを終えて境内からの階段を降りながら、「かさ上げが進んだら、景色も一変するんだろうな。神社と町が同じ高さになってしまうのだろうか」などと考えながら鳥居をくぐると、不思議なモニュメントのようなものが目に飛び込んできた。
高い。そして大きい。褐色の矩体の上に白い円盤状の物体が積み重ねられ、さらにその上には黒光りする金属。どことなくプリミティブな香りも漂わせながら、ようやく雪が消えた新春の青空の下にすっくと伸び上がるように立っている。
何だろう…。
褐色部分には紙が貼りつけられ、何やら落書きのようなものもある。彫刻とか現代アートとか宗教に関するモニュメントとしては少し違和感もある。
見るとすぐそばにもう一基、こちらはちょっとずんぐりとした、しかしやはりかなり迫力のある円柱状の物体。
これは一目見てすぐに解った。下水用マンホールの立坑だ。
本当ならば地面の下にあるはずのものだが、埋め立て造成している住宅地で同じような物体を見たことがある。高さは地面から出ている部分だけでざっと3メートルほど。
だとすると、褐色の矩体のもうひとつもマンホールの立坑なのかもしれない。
フェルトペンで落書きのように書かれた文字は「小廟坂線」と読める。小廟坂は大槌町の地名だ。どうやらこちらは地面の下に電線を通す電力用のマンホールらしい。
ようやく謎が氷解したものの、「すっきり!」というわけにはいかなかった。
いずれ地中に埋まるはずのマンホールの立坑がここにあるということは、かさ上げの後にはいま自分が立っているこの場所も土の中に埋もれてしまうということだ。津波が押し寄せ、数多くの悲劇を引き起こした場所であるにしても、これまで長い長い間、大槌に暮らす人々の歴史を刻んできた空間が、永遠に地中に埋没してしまうということだ。
土地の人間でない自分ですら、何とも整理できない複雑な気持ちになってしまうのだから、地元の人たちはこの光景に何を思うのだろうか。
その後、震災の前年に行われた小鎚神社の例大祭の動画を見つけた。活気にあふれるお神輿と、人の息遣いが伝わってくるような町並みが画面の中にあった。
大槌祭り 小鎚神社(2010年)
YouTube
<sakanayamapさんがアップロードした小鎚神社の祭りの動画です>
かさ上げ工事が進む中、現在の大槌の町なかでは人に出会うことはまれだ。この動画に映された道の多くもすでに埋まっているのかもしれない。でも、動画の中で町を練り歩く人々の様子を見ていると、積み上げられる盛土の上に新しい町を造っていくのは、ブルドーザーやパワーショベルではなくて、神輿を担いでいたのと同じ人々なのだということを思う。当たり前のことだが、そう思う。その当たり前を現在の町の姿から見出すことが難しいのが苦しい。
おそらく参道のほとんどが埋められてしまうだろう。神社の周りの風景も一変することだろう。それでも小鎚神社の神さまは、変わっていく町をこれからも見守り続けてくれるはず。
未来を、ともに、祈りたい。
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