4人がけの座卓に5つも並んだ天ざる蕎麦が壮観だ。いつもなら冷やしたぬき蕎麦とミニカツ丼といったボリューム満点の組み合わせに走りがちな若者たちも、夏祭り前の景気付けにと揃って天ざるを注文。お隣と肘がぶつかるのを気にしながらも美味しくいただいた。
蒸篭から蕎麦がはみ出していたりして、写真から雑な印象を与えてしまったとしたら、それは気のせい、誤りだ。陸前高田のやぶ屋は震災前から美味いと人気の店。震災後、仮設商店街「栃ヶ沢ベース」に出店してからも、震災前と変わらぬ味にこだわって蕎麦を打ち続けてきた。その言葉どおりであることは、連日ランチ時に行列ができることが如実に物語る。定休日には、知らずに訪ねてきた人たちがランチ難民になってしまうほどだ。
上の写真は天ざる蕎麦大盛り。見た目以上に食べでがある。
蕎麦は白くてなめらかな更級系。つゆは香り高くてやや甘め。地元の醤油の味わいを生かしたものだ。
天ぷらはさくさくで量もたっぷり。偶然、毎日エビを捌いているというやぶ屋の店員さんと知り合ったのだが、やぶ屋の天ざるが美味しい理由がよく分かった。のどごしのいい蕎麦のようにつるつると理解できたなんて言うと冗談みたいだが、その方の人柄から、事故で体が不自由ながらも丁寧な仕事を貫いていることがまっすぐ伝わってきた。
震災前と変わらぬ味を心して蕎麦を打つ——。
震災は町に生きる人々にとって、そして町そのものにとって筆舌に尽くせぬほど大きな不幸だった。しかし、それでも震災前と変わらぬ味を心して蕎麦を打ち続けるやぶ屋の蕎麦を食べることができる陸前高田の人たちは幸いだと思わずにいられない。
蕎麦を打つご主人も、毎日手が痛くなるほど大量のエビを捌く店員さんも、そしてお客として店に並ぶ人たちも共通の何か、震災前と変わらぬ心をもって、やぶ屋という空間で時をともにしている。
2016年夏。陸前高田の人たちと同じ座卓で、4人がけのところをサイズ大きめの男が5人で美味しい天ざるをズズッとすすることのできた自分の幸いを思わずにはいられなかった。
やぶ屋
陸前高田市高田町字栃ヶ沢26-1 TEL:0192‐55-2053
※ やぶ屋さんはいつも行列ができる人気店ですが、お客さんの回転が速いので少し待てば美味しい蕎麦を食べることができます。混雑している際は、お早めの食事をお願いしたいと思います。営業時間は11時から。15時までの営業ですが、無くなり次第終了とのことです。
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