息子へ。東北からの手紙(2016年3月18日)「二杯目のお茶の温かさ」【神戸・新長田】

iRyota25

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神戸・新長田、大正筋のアーケード街を歩いていて「南三陸さんさん商店街」の青いのぼり旗を見つけた。いや本当は、コーヒーの温かさを探してこの商店街を何往復も歩き回っていたのに、ほぼまる2日、気づかずにいた。さんさん商店街のロゴマークに見慣れていたせいか、何度も視界に入っていたはずなのに。

さんさん商店街ののぼり旗があったのは、大正筋商店街の「お茶の味萬」さん。中に入って、どうしてのぼり旗があるのか尋ねてみたら、ご主人は東北の大震災以後、何度も東北各地を訪ねているとのこと。とくに震災以前からの知人がいた南三陸には10回以上も訪問しているのだと教えてくれた。

そんなご主人の自慢の一品が、店頭に並べられた「ほんのきもち」という商品。

1つ100円のプレゼント用お茶パック。パッケージには「ありがとうございます」とか「よろしくお願いします」「こころを込めて」といったメッセージ入りのイラストが描かれている。中は緑茶やほうじ茶、日本製のお茶を使った紅茶のほか、玉露飴もある。

「お礼を気にしなくてもいい、ちょっとしたプレゼント。それでいて、気持ちが伝わるもの」

阪神淡路大震災を経験し、10年掛けてようやく店を再建し、いまも苦労が多い中、東北の被災地を巡ってきた経験が、この商品に結びついたのだという。被災地に行って誰かに会ったり話をしたりする時に、手ぶらでは申し訳ないが、相手にお返しを気にさせるようなものだと心苦しい。そんな気持ちが結晶したのが「ほんのきもち」。

このお茶のんで温まってねと一言添えて手渡す。パッケージの言葉で場が和む。風邪引いてる時とかインフルエンザが流行ってる季節には、お茶だけではなく玉露飴がよろこんでもらえるのだとか。

さりげないやさしさと思いやりがいいなと思った。神戸の震災を経験された人だからこその商品だと思った。何パックか購入した。

神戸を発つ前夜、ホテルで荷物を整理しながら「もう少しほんのきもちがほしいな」と思って翌日お茶の味萬を再訪した。店頭でほんのきもちを選んでいたら、ご主人がお店から出てきたので、「昨日買った分では足りないなと思って」と話しかけると、「そんなことだろうなって思ってましたよ」と笑顔で迎えてくれる。

「さあ、お茶いれてるから入って」と店内に招いてもらう。実は前日会った時には、ちょっと硬い表情と言葉だったご主人が、今日は玉露飴みたいに和やかな感じ。

「1回目に会う時は相手がどんな人なのかよく分からない。でも2回目に会ったら仲間ですからね」

前日につづき2杯目になる緑茶、温かかった。

再建なった新長田の商店街だが人通りはまばら。ほんとうの復興は道半ばかもしれないが、「ほんのきもち」の温かさが町を明るくしてくれるに違いない。神戸でも、そして東北でも。

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