不審感が止まらない「凍土式」陸側遮水壁の閉合スケジュール

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「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要という資料が発表された。土を凍らせることで地下水が建屋に流入しないための壁、陸側遮水壁。その設備が完成したにもかかわらず、原子力規制委員会からは運用に関する「Go」は保留された。これに対して東京電力が凍土式の陸側遮水壁の運用計画を策定し発表したもののようだ。

 「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日
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「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日」オレンジのラインは海側遮水壁を示し筆者の加筆による
「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日」オレンジのラインは海側遮水壁を示し筆者の加筆による

地下水の流れをブロックする遮水壁には、陸側と海側の2種類がある。陸側は建屋を取り囲むように設置したパイプにマイナス30℃の凍結液(プライン)を流すことで、地下の土壌を凍結させて止水するもの。海側は陸と海を鋼管の杭で遮る壁(上の図中ではオレンジ色で示している)

陸側遮水壁の運用は海側ラインから

ここで少しややこしいのは、凍土式の陸側遮水壁を海側と陸側に分けて運用することになったということ。上の図で水色が海側ライン、赤が山側ラインとされている。

地下水が建屋に流入して汚染水が増えるのを抑制する目的で造られたのが遮水壁だ。せっかく施設が完成したのだから、まとめて運用すればいいものだが、今回発表された計画では、陸側遮水壁の海側ラインを先行して運用。凍土による壁を造りつつ、陸側ラインも様子を見ながら運用。ただし陸側ラインは完全には凍結させずに地下水の通り道を7カ所開けておく。ここまでが「第一段階」。

「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日
「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日

発表された資料のスケジュール表を見ると、海側ラインは一気に凍結させるが、山側ライン北側、山側と慎重に作業を進めていくように見える。凍結と検証を同時進行で進めつつ、運用開始から約100日後には第二段階、第三段階の計画を別途立てて申請するのだという。

「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日
「陸側遮水壁の閉合について」実施計画変更認可申請の概要|東京電力 平成28年2月22日

上の図は運用が次の段階に移行する100日前後のイメージと考えて良さそうだ。山側ラインに赤丸で示されたポイントが、わざと凍結させずに地下水の流れを維持する場所。約100日後を第二、第三段階への運用移行時期に設定しているが、3月から運用をスタートすると梅雨の頃に運用の第二段階に突入することになりそうだ。雨が多く地下水量の変動が激しくなる時期にクリティカルな運用が求められるタイミングを合わせてきて大丈夫なのだろうか。

「なぜ」が止まらない

発表された資料から読み取れるのはこの辺りまでが限界だ。

どうして凍土方式の陸側遮水壁(陸側遮水壁)の設備工事が完了したのに、フルで運用しなかったのか、遮水壁の運用で本当に心配されているのが何なのか、多くの疑問に対してほとんど何も答えていないに等しい。

ニュースとして伝えられるのは、凍土式の陸側遮水壁で建屋地下の遮水を行った場合、建屋内と地下水位の調整がうまく行かず、建屋内の高濃度に汚染された水が地下水側に溢れる恐れがあるということだった。

しかし、海側ラインを堰き止めた状態では、降雨時などに地下水位が急激に上昇することもあるだろう。そのことは現在海側遮水壁で陸地と海の地下水の連絡が遮断されたために、海近くの地下水位が上昇していることからも容易に想定できる。

海近くの地下水位の上昇は、これまで地中の特定の場所にとどまっていたかもしれない汚染物質を流動化させ、海側遮水壁内側の広い範囲で汚染濃度が上昇している。同様なことが建屋周辺で起きれば、たとえ建屋内の汚染水が逆流する最悪の事態に至らなくても、建屋周辺のフォールアウトやトレンチに溜まった高濃度汚染水などが地下水と混ざり合って、サブドレンから汲み上げた水の海洋排出が困難になる事態も想像できるだろう。なのになぜ、建屋周辺の地下水閉止を拒むかのような計画を立てているのか。

もうひとつ疑問なのは、凍土式の遮水壁は本当に機能するのか。試験凍結では捗々しくない結果が続いていたのに、設備が完成したからということだけで機能が急に向上するのだろうか。

凍ったり、うまく凍らなかったり、つまり地下水が停まったり急激に流れ込んできたりといった形で地下水の挙動が読みにくくなれば、建屋内の水位コントロールがますます難しくなるという判断でもあるのだろうか。あるいは、地下水を止めてしまうと何か困ったことが生じかねないのか。

凍土式遮水壁に規制委委員会からの「Go」が出されなかった時、ネットでは実は核燃料は建屋基礎よりもさらに深いところまでメルトスルーしていて、地中にある燃料デブリを冷却しているのが地下水だからという観測までが飛び交った。

まだ誰も融け落ちた燃料デブリがどこにどのような形で留まっているのかを見てきた人はいないから、さまざまな観測や想像が続出するということなのだろうが、今回の運用プランも含めて、陸側遮水壁をめぐってはあまりにも不可解な点が多い。

今後の運用は、地下水を減らすという本来の目的のみならず、運用次第では汚染水の増加や、建屋内汚染水が外の環境に流出する危険も伴うことになる。理解するのに十分なだけの情報公開を望みたい。

【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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