暑そうだ……。動画の冒頭でつぶやいた。ブーンと低く唸り声を上げ続ける巨大な機械が並べられた、鉄板敷きの地面を初夏の眩しい日差しが照りつける。そんな中を動きまわる白いタイベック(防護服)と全面マスクでフル装備した人々。。
これが東京電力こだわりの凍土遮水壁
東京電力のホームページに「凍土遮水壁実証試験の状況」が公開されています。
地面に設置されたお釜のような銀色の物体が、おそらく凍結管の頭の部分。ここから地中に凍結管が伸びている。それにしても冷媒を通すクリーム色の管の危うげなこと。プラスチックタンクに重機がぶつかって穴があいたり、先日のH4エリアでの水漏れで、漏水したホースには踏まれた痕跡が残されていたり。とかく踏みつけトラブルが多数発生する事故原発。冷媒のホースがトラブラないよう祈りましょう。
「凍結プラント」とのキャプションが付けられた写真には、何気なく放射線注意の札が写っています。雰囲気(空気中)の放射線量として記入されていたのは、
0.040mSv/h
居住地などで使われるマイクロシーベルトに換算すると40μSv/h。
高いです。
暑い中、タイベックに全面マスク着用なのも致し方ありません。
タイベック着用の男性がハンマーを当てているのが凍土遮水壁。ピンクのリボンの先にあるのはデジタル温度計で、ビデオでは「-3℃」を表示していました。(壁の近くは少しは涼しいのでしょうか)
ともあれ、凍土壁の内側・外側と言われても分かりにくいので、位置関係をビデオのキャプチャでご説明。
上の写真は凍土遮水壁を外側から見たところ。手前の穴には水が溜められています。要するに地下水に見立てられたもの。階段が設置された奥の穴との間には、銀色のお釜状の凍結管の頭の部分。そこから下に凍結管が地中に垂直に伸ばされていて、穴と穴の間の壁の部分が凍らされて凍土壁になるわけです。実証試験のキモは、外側の穴の水が凍土壁で守られた奥の内側の穴に染み出すかどうか……。
動画には解説も何もつけられていませんが、最初は内側の穴の底にうっすら水が染みだしている様子が見えていましたが、冷却プラントを起動すると見事に水が止まりましたという模様をPRしているようです。
えっ! いまだに成立性を検証中??
5月20日に別の参考資料として発表された「凍土遮水壁の概要」には、この巨大冷凍遮水装置がどんなものなのか、具体的数値も若干紹介しながら概略をまとめています。
ポイントをいくつかピックアップします。
◆(凍土遮水壁の)事業期間は、建屋内止水処理が完了する約7年後まで
◆凍結プラント仕様案では冷凍能力は1台261kW、出口温度は-30℃
◆凍土遮水壁の総延長は約1,500メートル
◆凍結プラントは30台を計画(プラント1台で50メートル担当⇒1台故障で大穴の危険性が大。しかもプラントは高台の1カ所に集中的に設置)
◆6月着工。凍結開始は平成26年度末。27年度前半には凍結完了の予定
5月19日に開催された廃炉・汚染水対策現地調整会議にの参考資料「凍土式遮水壁の進捗状況(東京電力)」によると今回の試験は「凍土方式の遮水壁の成立性を検証する」実証試験のひとつで、これを含めて4つの実証試験が予定されているようです。
実証試験1:現地における凍土方式遮水壁の成立性(長期間供用前提)⇒今回分
実証試験2:埋設物存在箇所の施工技術の成立性
実証試験3:高地下水流速下での施工技術の成立性
実証試験4:閉合区域内の地下水位コントロール技術の成立性
今回の実証試験1は、とにかく土を凍らせて水をせき止めればまず成功という第一歩。この先まだまだ検証すべき課題は山積なのです。しかし、4つの試験で求められているものは机上の理論が成立するかどうかを問うているに過ぎません。現場では、現場ならではの問題があると思うのです。
重要な問題として、複雑な冷媒配管のしまい方と、他の配管配線との取り合いという、現場での施工やその後の運用の問題があります。凍土遮水壁の工事を始める前に、検討なりガイドラインなりを是非ともきっちりと詰めてほしいと思います。
事故原発の敷地内は、ただでさえ汚染水や処理水、雨水やバイパス水など多種多様な水を移送するパイプが走り回り、さらに事故後に仮設で設置された電源なども数多く、パイプや電源の破損トラブルが頻発しています。同じ敷地内にあって、ただでさえ管路が敷設可能な限られた場所を取り合うことになるのですから、トラブルを起こさない、あるいはトラブルが発生してもすぐにリカバリーできる体制を整えていただきたいと、強く希望します。
文●井上良太
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