2016年、福島第一原発のアジェンダ

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12月18日、原子力規制委員会で「第38回特定原子力施設監視・評価検討会」が開催された。主に事故原発の汚染水対策について話し合われた模様だ。この検討会に提出された資料は、福島第一原子力発電所の現状と今後の課題、進捗予定について示すもので、いわば2016年に向けての事故原発のアジェンダを示すものだ。

 第38回特定原子力施設監視・評価検討会の開催のお知らせ | 原子力規制委員会
www.nsr.go.jp  

事故原発でいま何が起きているのか、2015年時点でのまとめとして、資料のリンクを紹介する。資料のテーマは以下の8項目だ。

・至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果
・検討用地震動・津波に関する検討状況
・1号機放水路における放射性物質濃度の上昇について
・福島第一原子力発電所構内における主な貯留水・溜まり水の状況(2015.12時点の取り纏め状況)
・廃棄物処理建屋間連絡ダクトの溜まり水調査の状況について
・放水路の放射性物質の低減について
・敷地境界における線量評価の現状と年度末に向けた取り組みについて

至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果

 至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果 | 東京電力 平成27年12月18日
www.tepco.co.jp  
至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果 | 東京電力 平成27年12月18日
至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果 | 東京電力 平成27年12月18日

この資料では、福島第一原発の立地や、地層構造、地下水の流れといった基本情報のおさらいから、汚染水対策の現状を解説している。

至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果 | 東京電力 平成27年12月18日
至近の地下水挙動ならびに陸側遮水壁閉合に関する検討結果 | 東京電力 平成27年12月18日

海側遮水壁の完成と、サブドレン・地下水ドレンの運用の結果、地下水位が均等な分布になっていることが示されているが、タービン建屋から海岸にかけての水位が高くなっていることが気になる。資料にはこうも記されている。建屋への地下水の流入量はサブドレン稼働前の300トン/日から200トン/日に減少しているが、建屋周辺には850トン/日の地下水が流入している。そのため汚染水の発生(汚染されたエリアに地下水が流入することで生じる)はサブドレン稼働前よりも増加していると。

地下水の流入を抑制するために遮水壁やサブドレン・地下水ドレンをつくったものの、実際には大量の地下水流入が続いている。東京電力は水位差が均質になって管理しやすくなったと説明しているが、地下水を汲み上げ続けなければ汚染水が地面から溢れ出しかねない、非常に危険な状況になっている。

土壌を凍結して地下水流入を行う陸側遮水壁については、完成することを前提に、地下水位管理の方針が説明されているが、建屋近傍への地下水流入が止まらないことからも明らかなように、陸側遮水壁は未だ地下水を堰き止めるには至っていない。

また、海側遮水壁の鋼管矢板が歪んだ件についても、健全性の評価と対策が紹介されている。

検討用地震動・津波に関する検討状況

 検討用地震動・津波に関する検討状況 | 東京電力 平成27年12月18日
www.tepco.co.jp  

この資料では、今後地震や津波が発生した際の事故原発の健全性についての検討項目が示されている。

検討用地震動・津波に関する検討状況
検討用地震動・津波に関する検討状況

廃炉まで30~40年を要するとされる以上、次なる大地震や巨大津波によって事故原発が被害を受けない保証はない。まして、1号機から3号機は運用開始から40年を経ている上、2011年の地震や津波、さらに建屋の爆発などで大きなダメージを受けている。廃炉完了までの期間、いかに健全性を確保するかは非常に重大な課題だ。

検討用の地震動として、東日本大震災で記録した地震動よりも高い数値が設定された。また津波対策の検討では26.3mという最高水位が設定されている(東日本大震災では15.5m)。その結果、耐震評価では原子炉建屋、タービン建屋など主要な建屋の健全性は確認されたことになっている。一方津波に対しては、海側の低い場所の建屋(タービン建屋や廃棄物処理建屋)などは評価基準をクリアしていない。サブドレン・地下水ドレンの汲み上げ井戸などでも大きな被害が生じることが予想される。

1号機放水路における放射性物質濃度の上昇について

 1号機放水路における放射性物質濃度の上昇について | 東京電力 平成27年12月18日
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1~4号機のタービン建屋海側に設置されている放水路、とくに1号機放水路の放射性物質濃度が下がらない。2号機・3号機については濃度が高まる傾向にある降雨後にセシウムで3,000Bq/L程度だが、1号機放水路は数万Bq/Lを記録している。

対策として、セシウムを吸着するゼオライトを設置したり、モバイル式浄化装置で溜まり水の浄化を進めているが、データを見る限り顕著な効果は見られない。

1号機放水路における放射性物質濃度の上昇について
1号機放水路における放射性物質濃度の上昇について

資料では、放水路への流入源についての調査内容が詳しく紹介されているが、このことは取りも直さず1号機放水路の汚染源が未だ不明ということを意味している。事故から5年近くが経過した今日も、原発には知られざる汚染源が残されているということだ。

福島第一原子力発電所構内における主な貯留水・溜まり水の状況(2015.12時点の取り纏め状況)

 福島第一原子力発電所構内における主な貯留水・溜まり水の状況(2015.12時点の取り纏め状況) | 東京電力 平成27年12月18日
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福島第一原子力発電所構内における主な貯留水・溜まり水の状況(2015.12時点の取り纏め状況)滞留水がある建屋に接続しているトレンチ等 溜まり水調査結果
福島第一原子力発電所構内における主な貯留水・溜まり水の状況(2015.12時点の取り纏め状況)滞留水がある建屋に接続しているトレンチ等 溜まり水調査結果

主な貯留水・溜まり水の状況が3枚の地図で図示されている。原発敷地内に大量の汚染水が溜まっていることが直感的に実感できる図だ。とくに、滞留水がある建屋にトレンチ(トンネル)等があることを示す2枚目は、今後の汚染水流出の危険性を示すものとして注目される。

廃棄物処理建屋間連絡ダクトの溜まり水調査の状況について

 廃棄物処理建屋間連絡ダクトの溜まり水調査の状況について | 東京電力 平成27年12月18日
www.tepco.co.jp  
廃棄物処理建屋間連絡ダクトの溜まり水調査の状況について
廃棄物処理建屋間連絡ダクトの溜まり水調査の状況について

汚染水が溜まっているのは原子炉建屋やタービン建屋だけではない。タービン建屋から汲み出された高濃度滞留水の処理を行っている廃棄物処理建屋にも大量の汚染水が貯蔵されており、施設内の主な建屋間はトレンチやダクトなどでつながっている。ダクトなどの中にたまった高濃度汚染水が外部に漏洩する恐れがあり、東京電力では監視を強化しているという。

排水路の放射性物質の低減について

 排水路の放射性物質の低減について | 東京電力 平成27年12月18日
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原発敷地内を縦横に走る排水路は、汚染物質を拡散するルートとなる危険がある。排水路の線量低減のために行われている措置について紹介している。

線量低減のための施策として、道路清掃、排水路の清掃などが行われているが、暗渠のような場所ではバキュームなどの機械力を使えないため、人力による清掃が行われている。あらためて大変な仕事だと思う。

排水路の放射性物質の低減について
排水路の放射性物質の低減について

興味深いのは、この資料の9ページから11ページに示された「上流部の現状調査」。セシウムを含む排水をろ過することで、どの程度セシウムを除去できるかが紹介されている。排水を採取した場所によって、イオン状のセシウム(水に溶けた状態)と粒子状のセシウムの割合は異なることが分かる。

敷地境界における線量評価の現状と年度末に向けた取り組みについて

 敷地境界における線量評価の現状と年度末に向けた取り組みについて | 東京電力 平成27年12月18日
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原発敷地との境界でどの程度の線量があるかを概説し、線量低減に向けての取り組みを紹介している。

敷地境界における線量評価の現状と年度末に向けた取り組みについて
敷地境界における線量評価の現状と年度末に向けた取り組みについて

敷地境界線量の評価は、以下の3項目を足し合わせて評価している。

・直接線・スカイシャイン線に起因する線量:
構内に設置した施設及び構内に散水した水からの直接線・スカイシャイン線が最大となる地点に24時間・365日間立ち続けると仮定した評価

・気体に起因する線量:
放射性雲からの影響が最大となる地点に24時間・365日間立ち続けると仮定した評価

・液体に起因する線量:
排水している最も濃度が高い液体廃棄物を約2ℓ/日・365日間飲み続けると仮定した評価

敷地境界における線量評価の現状と年度末に向けた取り組みについて | 東京電力 平成27年12月18日

スカイシャイン線とは、地上から発せられた放射線が空気に乱反射して降り注ぐもの。平成26年度では、敷地最大境界線量1.44mSv/年で、目標値2mSv/年を達成したという。27年度の目標値は1mSv/年。目標達成のため、タンク内の汚染水処理を進め、タンクエリアからの直接線、スカイシャイン線の低減をはかっている。現時点での敷地最大境界線量は1.34mSv/年で、本年度中の目標達成は可能という。

【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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