JRいわき駅に到着するとインパクト満点の顔ハメ看板がお出迎えしてくれる。
いわきを代表する観光施設「スパリゾートハワイアンズ」のダンサーたちの顔ハメパネルだ。「ハダカのおもてなし」というコピーもさることながら、あでやかなフラの女性は顔ハメ部分だけで、ムキムキの男性とフラおじさんに囲まれて記念撮影しましょうというアイデアはとても秀逸。震災で大きなダメージを受けたいわき市の心意気が伝わってくる。ダンサーたちの笑顔をよく見てほしいから、アップでもご紹介。
そんないわきの町なかは、駅の立体コンコース(ペデストリアンデッキ)から眺める限りでは、震災の影響はほとんど払拭されているようにも見える。しかし、町を歩けば駅近くの繁華街の中にもぽつりぽつりと空き地が見られる。多くは間口が狭くて奥行きがある空き地だから、いわゆる町家づくりの建物があった場所だと見て取れる。ブロック敷きの歩道のあちこちにも微妙な段差がある。
そんないわきの駅近くを歩いていて、ちょっと不思議な光景に出会った。大通りのビルに入居しているコンビニから出て来る人が、最後の一歩を「ぴょん」と跳ぶのだ。
コンビニだけではなく、映画館の出入り口でもぴょんと跳ぶ人の姿があった。人数を数えて統計をとったわけではないが、けっこうな割合の人、とくに若い人達が、建物から出る時にぴょんと跳んでいた。
理由は自分で歩いてみればすぐ分かる。
建物の最後の1段と道路の間のギャップが、他の段と比べて微妙に広いのだ。歩幅が違った感じでちょっと歩きにくい。足元を見ないでいたらつまづきそうにもなる。
上下の写真はいわきの中心部にある映画館の段差。帯状に白っぽく見えるのは、後から段差を埋めた跡だろう。このステップの1段目は他よりかなり高い。
震災の年、初めていわきを訪ねた時から気になっていた駅前コンビニの段差はかなりショッキングだ。段差の落差は建物によって、また同じ建物でも場所によって違っているから、ギャップの存在に慣れた人たちはぴょんと跳ぶようになったのだろう。
海岸からかなり内陸に位置するいわき駅周辺は、3月11日の大震災でも津波の被害はなかった。しかし1カ月後、4月11日に福島県浜通りを震源にしたマグニチュード7.0の地震の被害は、震源が直下だっただけに甚大だった。
「3月の震災も大変だったが、この辺では4月の地震がさらに大きな痛手だった。何しろ、大震災からの復興をがんばろうという気運が削がれてしまったから」
「また大きい地震が来るんじゃないかと思うと精神的に苦しくてね」
「スパリゾートハワイアンズは被災地の希望の星となるべく、早期再開に意気込んでいたんだが、4月の地震で断層ができてプールまで壊れてしまって、再オープンは翌年まで延期になったんだ」
いわきの町なかに今も残る建物と道路の段差も、あるいはこの地震や、関連して発生した震度6クラスの余震によるものなのかもしれない。
もちろん、町なかにたくさん段差があるのは安全ではないが、沈下してしまった道を再生するのは大規模な工事になる。県内にはまだまだ他に復興のためのリソースを傾注したい地域が広がっている。
だからなのだろう。もうあと数カ月で震災から5年になるにも関わらず、町の中心街には震災の爪痕が残されたままだ。
だけど、そんなギャップを町の人たちはぴょんと跳ねて越えていく。センチメンタルな見方かもしれないが、ぴょんと跳ねる人たちの姿に、いわきの人たちの強さ、レジリエントな力と呼んでもいいような逞しさを感じるのだ。
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