生まれて始めて、墨塗りの教科書の実物を見ました。
と書いたのは誤報でした。平和のための戦争展の最終日、もう墨塗りの教科書をもう一度見たくて訪ねた時、それにしてもどうしてこんなにキレイに残っているのだろうと思って伺ってみると、「これは復刻版なのよ」とのこと。
本文やイラストはもとより、欄外の章タイトルまで消された墨塗りの教科書。教科書の最後のページの奥付(おくづけ:著者、発行者、発行日、連絡先など書籍の基本データが記されるページ)にはしっかりと「昭和17年8月25日発行・定価金20銭・本巻挿入ノ写真ハ昭和17年6月 陸軍省 海軍省ト競技済・著作兼発行者 文部省」とまで記されていても、復刻版は復刻版。
「本格的な空襲を受けなかった三島には、古いお宅や蔵もたくさん残っているのでどこかに残っていないかと探しているのだけれど、なかなか見つからないのよね」
終戦時に女学生だったというスタッフの方が残念そうに教えてくれた。
義務教育だった国民学校(現在の小学校)の教科書ばかりでなく、女学校の教科書でも墨塗りが行われたものがあったらしい。また、物資欠乏の極みだった当時、教科書に使われる紙は質の低い更紙で、墨を塗るとページの裏に墨が滲み、さらに墨でページがくっついて使い物にならなかったという話も教えていただいた。
墨塗りの教科書こそなくても、戦前に使われていた実物の教科書は展示されていた。墨塗りの災禍を受けなかったということは、この教科書の持ち主は敗戦よりも前に国民学校を卒業していたわけだ。70年以上の歴史を経た教科書ということになる。
驚くほどいい状態で保存されてきた教科書もある。
戦前の歴史教育の生き証人ともいうべき教科書もある。
だからこそ、それにつけても墨塗りの教科書を見てみたい。どうしてもこの目で見たいと気持ちをスタッフの方に伝えたら、「私たちだって見たいのよ」と彼女はさらに力を込めて、見返すような強い眼差しでそう言った。
どなたか墨塗りの教科書の実物をお持ちの方はいませんか。墨塗りの教科書をお持ちの方を知っていらっしゃる方はいませんか。70年の時間を越えて、実物を通して歴史を語ってくれる生き証人。蔵の中から探し出していただいて、いまの日本の若い方々に歴史を知ってもらうために役立てて頂くわけにはいきませんか。
ぜひともご協力いただけますよう、お願いします。
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