イラクの少女サファアはなぜ白血病に?【平和のための戦争展より】

iRyota25

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この夏、静岡県三島市で開催された「平和のための戦争展」の展示の中に、こんなパネルがありました。「広がる核被害――少女サファア」。

フォトジャーナリスト森住卓(たかし)さんが1998年4月、イラクのバグダット・マンスール小児教育病院で撮影した写真とのこと。写真のタイトルは「白血病の少女 サファア」、有名な写真なのでご存知の方も多いでしょう。撮影当時、彼女は8歳だったそうです。彼女が生まれた直後、湾岸戦争(1991年)が起きた計算になります。

湾岸戦争で米軍は数百トンの劣化ウラン弾を使用したといわれています。戦車対戦車の戦闘で、相手の装甲を高い確率で破壊するために米軍の戦車は大量の劣化ウラン弾を使ったのです。劣化ウラン弾は相手戦車に命中すると、ナノ秒単位で装甲と弾体そのものが液体のように溶融しながら相手戦車の装甲を貫通します。貫通した後は非常に高温の火災を引き起すため、戦車や周辺を放射能汚染するとされています。

湾岸戦争の後、イラクでは多くの子供たちがガンや白血病で亡くなり、先天性異常児も数多く生まれました。また、劣化ウラン弾を使用したアメリカ軍兵士の多くが「湾岸戦争症候群」に苦しんでいます。

サファアさんたちの白血病、そして米兵たちの湾岸戦争症候群と劣化ウラン弾の間の因果関係は明らかなっていません。しかし、劣化ウラン弾で撃破された戦車などが核汚染されたのは事実です。イラクで多くの人々が白血病やガンで亡くなったり、帰還兵たちが脱毛や下痢、倦怠感、記憶障害に苦しめられているのも事実です。

平和のための戦争展のパネルに森住さんのこんな言葉が紹介されています。

この事実と劣化ウラン弾の使用された事実との間にどのような因果関係があるのか?
……
これまで取材してきた経験からこれからイラクの人々の上に起こる悲劇を考えると背筋が寒くなる。
                  (森住卓『核に蝕まれる地球』から)

平和のための写真展

サファアさんはどうしているのだろう

自分の忘れっぽさが致命的に思えてくる――。

劣化ウラン弾のこと、戦場となったイラクに暮らす人々に深刻な被害があったこと、帰還した米兵に放射線症と疑われる人々が数万人もいることなど、ニュースとしては知っていたのに、平和のための戦争展で森村さんが撮影したサファアさんの笑顔を目にした瞬間、そのことを「思い出した」のです。つまり「忘れていた」のです。

サファアさんは今どうしているのでしょうか。

そのことが気になってネットで検索してみました。検索するのが恐いという気持ちもありましたが「サファア」と日本語で検索すると、日本国際ボランティアセンターのページが表示されました。

 JVC - サファアの微笑み - イラク・ヨルダン現地情報
www.ngo-jvc.net  

そこには、2004年のサファアさんの姿があったのです。

5年たった今、彼女は元気に学校に通っているという。
イラクでは白血病になると1年くらいで死んでいく子どもが多い。サファアは、治療が成功した例だ。

JVC - サファアの微笑み - イラク・ヨルダン現地情報

安堵しました。このリポートは日本国際ボランティアセンターのスタッフが森住さんに案内してもらって実現したのだと記されています。

そこで森住さんのホームページを詳しく調べてみると森住さん自身、この前年の2003年6月に「I found Safaa」という記事をネットにアップしていました。トップページに刻まれた言葉は「Crime Against Humanity」。

 Children of the Gulf War UK Exhibition
www.chimerafilms.net  

「I found Safaa」には、サファアさんがイラク戦争(注)を自宅で生き延びたこと。3年前に白血病が再発し、森住さんが写真を撮った後、肩まで伸びていた髪の毛を再び失うことになったこと。彼女は学校に行くことを望んでいるが、医師の勧めにより自宅で過ごしてきたこと。彼女が将来は医師になりたいと思っていること。そして、いつか日本に行ってみたいと望んでいることが紹介されています。さらに「Safaa's letter」として彼女の直筆の手紙も掲載されています。

(注)アメリカが中心となって、湾岸戦争から12年後の2003年3月19日に攻撃を開始し、5月1日に大統領ブッシュ(子)が「大規模戦闘終結宣言」を行った戦争。この戦争でも大量の劣化ウラン弾が使用されたとされる。

しかし私が検索する限り、それ以上の情報は見当たらないのです。国際ボランティアセンターの記事にあるように、サファアさんは白血病を克服できたのでしょうか。その後のイラクの混乱を生き延びているのでしょうか。大人になったサファアさんが、自分と同じ白血病に苦しむ人たちを救いたいと夢見た医師への道を歩んでいてくれるのでしょうか。そう信じたい。そうであってほしいと切望します。
(しかし、切望するしかできないのです)

サファアさんの写真を見て思ったことをもう一度書き留めておきます。

忘れっぽさを克服しなければ何も変えることはできない。世界中で同じように絶望的な出来事が繰り返されていくだけだろう。

サファアさんを忘れていた自分が恥ずかしい。

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