[X-6ペネ]地獄の門からただれ落ちたのは何なのか?

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原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社
原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社

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東京電力は2号機の圧力容器の真下、燃料が融け落ちたと考えられる箇所への調査準備に着手した。6月29日付で発表された『「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について)』には、事故の核心部に迫る調査計画が記されている。

 「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日
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格納容器の貫通部の扉に孔をあけ、メルトスルーの現場へロボットを送り込む

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 1ページ
「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 1ページ

もっとも技術的に難しいとされている2号機で、その事故の核心部にロボットを送り込もうという意欲的な計画なのだが、この資料は何しろ略語が多いので一般人には読みにくい。見出しからいきなり「PCV」だ。もともと読ませる気がないとしか思えないほどだ。分かりにくい用語を調べて翻訳を試みてみよう。

PCV:格納容器 (Primary Containment Vessel)
ペデスタル:原子炉本体の基礎。圧力容器の真下
X-6ペネ:ペネは「ペネトレーション」、貫通部のこと。X-6はその名前
CRD:制御棒駆動装置(Control Rod Drive)
RPV:原子炉圧力容器 (Reactor Pressure Vessel)核反応容器

上の資料の図を見ながら説明すると、黄色と紫色で描かれたX-6ペネの蓋に穴を開けて調査装置(ロボット)を格納容器内に送り込む。X-6ペネの内側には、圧力容器の真下にある制御棒駆動装置にアクセスできるスロープ(青緑色で表示)があるので、それを利用して原子炉基礎の内側の制御棒駆動装置のフロア(プラットホーム)までロボットを到達させ、原子炉圧力容器などがどのように破壊されているのか、核燃料がどこにあるのか、線量はどれくらいか、といった状況を調査しようというのである。つまり、これまで誰も見たことがない「メルトスルーの現場」を、ロボットの目を通して見に行こうというのである。

毎時1,197ミリシーベルトの高線量

この計画の最初の一歩が、X-6ペネの現場確認だった。

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について)「撤去前 遮へいブロック全体」 提供:東京電力株式会社
「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について)「撤去前 遮へいブロック全体」 提供:東京電力株式会社

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ペネトレーションは放射能を閉じ込めるための格納容器に開けられた穴。つまり本来あってはならないもの。しかし作業をするためには穴が必要という二律背反な事情のために設けられた、外界と放射能の世界を結ぶ道。放射能が外に出ないようにX-6ペネの前には、コンクリートブロックが積み上げられていた。まずこれを撤去しなければならない。

ブロックがどのように撤去されたのか、資料には詳細は記されていない。1ページ目には「(1)X-6ペネ前の遮へいブロックを撤去する⇒遠隔操作ロボットによる撤去。」と明記されているものの、どんなロボットなのかなど具体的な記載がない。ブロック撤去後に写真撮影と線量測定を行ったロボットについては、名前・写真入りで説明しているのだが。

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 3ページ
「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 3ページ

ともあれ、調査ロボット「PackBot」によって、X-6ペネ付近の線量測定と写真撮影が行われた。その結果判明したのは――

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 4ページ
「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 4ページ

X-6ペネ周辺の線量が総じて高いということ。そして、ペネの蓋に近いとこでは、わずか数時間の滞在で致死線量に達する「1,197mSv/h」≒毎時1.2シーベルトという極めて高い空間線量であることが判明した。

そして、この事実についての東京電力の見解がこうだ。

13箇所の測定を実施し、最大で1197mSv/hが確認された。
なお、PCV内部からの直接線線量は約100mSv/hと事前に評価している。
⇒高い線量については、ペネ周りの汚れからと考えていることから、
除染および遮へいを実施していく。

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 4ページ

遠い廃炉に向けて通らなければならないドアなのか、それとも地獄の門なのか

調査ロボット「PackBot」の撮影画像は、X-6ペネの周りの天井や壁面(いずれも格納容器の壁面の一部)が、大きな損傷を受けていないことを示していた。

原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「天井部」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社
原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「天井部」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社

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原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「壁面」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社
原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「壁面」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社

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X-6ペネの蓋(取っ手とヒンジがついたハッチのような形状をしている)も、「表面に多少の錆があるが大きな損傷は見られない」と東京電力は記している。

しかし画像をよく見ると、ペネトレーションの下に焼けただれたような何かが垂れている。東京電力の資料は、ペネトレーションの蓋に着いていた密閉用のOリングか、制御棒駆動系の交換機用ケーブルの被覆材などではないかとの推定を記している。

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 5ページ
「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 5ページ

しかしながら、たとえOリングや被覆材といったありふれたモノであったとしても、事故を起こし核燃料がメルトスルーした原子炉の格納容器の内側から、外の世界にただれ落ちてきたものであるのに違いはない。

原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「X-6ペネ」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社
原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「X-6ペネ」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社

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まるでケルベロスの血反吐のようにも見える。

原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「床面」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社
原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部 A2調査(X-6ペネ周りの状況について) 「床面」撮影日:2015年6月26日 提供:東京電力株式会社

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目を凝らして、これら2枚の写真を見ていただきたいのだが、画面にピンクや緑、青、赤など様々な色のノイズが出ているのが分かるだろう。

ノイズの数は、壁面や天井を写した写真よりもはるかに多く感じられる。地獄の番犬は血反吐を吐いて死んでしまったのではなく、人類がまだ誰も覗き見たことのない格納容器の内側に潜んで、猛烈な念のようなものを発し続けているのかもしれない。

東京電力は、X-6ペネを通常のやり方で開くのではなく、遠隔操作の孔あけマシンを使って格納容器内部への通り道を作る方針だという。

 「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日
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神曲

廃炉のためにこの扉は必ず開かれなければならないものなのだろう。しかし、廃炉に向けての前進を期待するのと同時に、溶融した物質や放射能ノイズを見ると、X-6ペネという扉が地獄の門のようにも思えてくる。そんなことがあってほしくないと思っているのだが。

蛇足ながら――。

我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり

義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛我を造れり

永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、
しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ

アリギエリ・ダンテ Alighieri Dante 山川丙三郎訳 神曲 LA DIVINA COMMEDIA 地獄 | 青空文庫

しかしながら――。

最大で1197mSv/hが確認された。
なお、PCV内部からの直接線線量は約100mSv/hと事前に評価している。
⇒高い線量については、ペネ周りの汚れからと考えていることから、
除染および遮へいを実施していく。

「原子炉格納容器内部調査技術の開発」2号機原子炉格納容器内部A2調査(X-6ペネ周りの状況について) | 東京電力 平成27年6月29日 4ページ

この目算に「分からないことに対する謙虚な姿勢」、つまり科学の精神は貫かれているのだろうか。

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