2月末、2号機原子炉建屋に付随する施設の屋根に溜まった汚染水が、降雨の際に1~4号機前を通るK排水路という暗渠から直接海に流れ出ていたことが発覚する。東京電力は10カ月前からこのことを把握していながら発表せずにいた。その結果、東電に対する猛烈な非難の声があがった。サブドレン水(建屋近くの地下水)を浄化して海に流す計画も頓挫した状態だ。
この件で、東京電力はK排水路からの水が外洋に流れ出さないための措置をとってきたとされたが、ポンプ8台が全部停まって、排水路の水が堰を越えて外洋に流出するという考えられない事態が4月21日に発生した。
東京電力の対応
東京電力は「報道関係各位一斉メール」として第一報を発表。
21日付の日報にも記載。
また、4月17日、ポンプを稼働した際の施設の写真(上の3点)と、今回の事件の経緯を説明する報道配布資料を発表した。その後、「報道関係各位一斉メール」でK排水路水の分析結果などを発表した(後述)。
ここでは東京電力が発表した写真入りの資料「福島第一原子力発電所におけるK排水路からC排水路への移送ポンプの停止について」を見ながら、事件の経緯を考える。
発生場所
東京電力の資料は読みにくい。その原因のひとつは、読む人が現場がどこなのか、K排水路やC排水路がどんなものなのかを知っていることを前提にして書かれている点にある。そこで、資料のページ構成を逆にして、現場がどこなのか、から見ていくことにする。
今回の事件が発生したのは地図中に赤丸で示された付近。この地図は北が左なので、事故原発の敷地の南側、防波堤で囲まれた港湾の外、太平洋に直接面している場所だ。
発生場所はどんな施設なのか
次に示すのはK排水路の「将来図」。高濃度に汚染された雨水が外洋に直接流れ込まないように、水路を途中から取り替えて、C排水路などと同様に港湾内に排水する計画を示している。
計画図だからこの新しい「K付替排水路」はまだない。現状は、紫の破線で示されたK排水路が上方向に曲がって尽きるあたり、海の直前で堰き止められていたらしい。のちほどの資料から明らかになるが、この場所は地下水バイパスの排水口が設置された暗渠だと考えられる。
事件は仮設のラインで発生した
次の1枚がこの資料の核心部なのでよく読んでみよう。
図の上にはこう記されている。
K排水路の本格付替えに先立ち、暫定的にK排水路の排水をC排水路に移送する。4月17日 13:33運転開始
前のページに示したように新たなルートをつくるまでの間、暫定的にK排水路の汚染された水をC排水路に回すラインのポンプが故障したのだということが、ここまで見てきてようやく分かる。拡大と書かれた矢印で示された下の2点の図を見ると、平面図では海のすぐ近くに仮の堰が作られて、そこにK排水路の汚染された水が貯められていることになっている。貯めた水を8台のポンプで汲み上げる。汲み上げた水はC排水路のパイプに直接穴をあけることは無理なので、80メートルほど上流側にあるC排水路の減勢枡まで移送して流し込む。しくみはそういうことだ。
今回の発表では堰がどんな場所なのか、ポンプの上から見下した写真しか掲載されていないが、意外なところに現場写真が掲載されていた。
昨年5月21日、井戸から汲み上げた地下水を外洋に排出する「地下水バイパス」が初めて実施された時の写真である。上の資料と見比べると、まさにこの場所で「ビンゴ!」だろう。地下水バイパスは、直接的にはK排水路に流されていたというわけだ。
そしてK排水路の汚染が発覚して問題になった後、環境に大きな影響はないと確認された水を海に流す「地下水バイパス」の排水口のすぐそばに隣接して、堰が設置され、汚染された水が貯めこまれていたということなのだ。
流れ出ることはないという前提だったのかもしれないが、若干汚い例えをするならば、水道水の取水口のすぐ上流に囲いを作って下水、つまりウンコ水を貯めていたようなものだ。
仮に設計として問題がないとされようとも、実際の運用上や安全意識という点でこれは大問題だ。飲んでも問題ないレベルに近い水を流している場所に隣接して、しかも上流に、2月に発覚して大問題になったほどの汚染水を貯めていたのだから。
そして21日の朝
ところがポンプが稼働して5日目の朝、ポンプが動いていないことが発見される。K排水路の汚染された水はすでに堰を越えて海へ流れ出ていた。
運転開始:
2015年4月17日(金)13:33~
運転開始以降、1日に3回実施(8:00、12:00、14:30)
4/20 14:30
巡視点検(移送ポンプ・発電機共に異常なし)
4/21 8:45
巡視点検 移送ポンプ停止を確認
ポンプの運転は1日3回。3回目から翌日の初回運転までは17時間30分も時間があいている。つまり、1日のうちで最も水が溜まっていると考えられるのが、朝8時の運転時であることは小学生でも分かる。
しかし、巡視は運転開始時ではなく8時45分である。45分に確認したら「仮堰を越流して外洋に流出していた」というのだ。
どうして水位管理をしていなかったのか。仮設の設備だからということは説明にも何にもならない。
どうして電源が発電機1基だけだったのか。何かあれば汚染水が直接海に流れだす場所であることは誰でも分かる。汚染水が海に流出することについての意識が極めて低いと言わざるを得ない。(そもそも電力会社なのに電源が発電機というのもおかしな話に思える)
最大の問題は事件まで数日間の降雨量
事故原発からほど近い場所にある、気象庁の「浪江」観測ポイントの記録によると、ポンプの運転が始まった4月17日から19日までの降水量は0ミリだ。20日は5.5ミリ、21日は1.5ミリ。20日以降1時間毎の降水量データは、
<4月20日>
1時~12時:0.0mm
13時:1.0mm
14時:2.0mm
15時~17時:0.5mm
18時~23時:0.0mm
<4月20日>
1時~3時:0.5mm
4時以降終日:0.0m
NHKは4月21日のニュースで、「ポンプは1時間に14ミリを超える雨が降ると、容量を超えて停止する仕組み」と伝えているが、ポンプ稼働後で最も多くの雨量だったのは4月20日13時から14時間の2.0mmに過ぎない。
1時間に14ミリの雨まで大丈夫と言いながら、2ミリの雨で溢水したということなのだ。
地下水バイパスの写真をもう一度みてほしい。こんな溝に仮堰を設けても、蓄えられる水の量はたかがしれているだろう。
堰の設置場所にしろ、1日に17.5時間も水を貯める時間帯をつくる運用方法にしろ、ポンプの電源が発電機1基という点にしろ、東京電力は、K排水路の汚染された水を、絶対に海洋に流出させることなく処理するのだという姿勢では取り組んでいないと断ぜざるをえない。ひどい話だ。
港湾内に流せば安全なのか
今回のK排水路からC排水路への移送も、計画にあるK付替排水路も、汚染された水を港湾内に排出することになっている。港湾内ではシルトフェンスが張られるなど汚染拡大を抑える措置はとられてはいるものの、潮の満引きで毎日大量の海水が、港湾内と港湾外との間を行き来している。シルトフェンスも海に垂らしたカーテンのようなものにすぎないから、汚染の拡散をブロックするものではない。
港湾内に捨てるから大丈夫、というような姿勢を打ち出していること自体、大問題だ。
「続報:移送再開」
福島第一原子力発電所 K排水路からC排水路へ水移送ポンプの停止について(続報:移送再開)
本日(4月21日)午前8時45分頃、K排水路の水をC排水路へ移送しているポンプが停止していることを確認しておりましたが、発電機の故障と判断し、発電機を予備のものに取り替え、準備が整ったことから、午後8時9分ポンプを起動し、移送を再開しました。
なお、ポンプの起動状態に異常はありません。
発電機が停止した原因については、引き続き、調査中です。
なお、K排水路および南放水口のサンプリング結果は、以下の通りです。
<K排水路>【4月21日 午前7時00分採取分】
・セシウム134:20Bq/L
・セシウム137:67Bq/L
・全ベータ:110Bq/L
<南放水口>【4月21日 午前7時40分採取分】
・セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:1.1Bq/L)
・セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:1.3Bq/L)
・全ベータ:検出限界値未満(検出限界値:15Bq/L)
<参考>
■告示濃度限度
セシウム134 : 60 Bq/L
セシウム137 : 90 Bq/L
ストロンチウム90 : 30 Bq/L
トリチウム : 60,000 Bq/L
■WHOの飲料水水質ガイドライン
セシウム134 : 10 Bq/L
セシウム137 : 10 Bq/L
ストロンチウム90 : 10 Bq/L
トリチウム : 10,000 Bq/L
K排水路からC排水路へ水移送ポンプの停止に関する公表資料については下記をご参照ください。
福島第一原子力発電所 K排水路からC排水路へ水移送ポンプの停止について(続報:移送再開)|東京電力 平成27年4月21日|東京電力
「WHOの飲料水水質ガイドライン」はおろか「告示濃度限度」をも超える汚染水が海洋に流出したこととが確実になった。流出し薄められた後の海水の測定結果が検出限界値未満であったかどうかは問題ではない。
K排水路問題への取り組みを見れば東京電力の本気度がわかると考えてきた。2月に書いた記事でそう指摘した。しかし、ここまで杜撰な対応がありうるとは思わなかった。想像をはるかに超えていた。東京電力に事故原発を任せる方針は考え直した方がいい。
追記として、事故原発に勤務されているというハッピーさんのTwitterを引用。
ハッピー @Happy11311 · Apr 21
8台のポンプが一斉停止。電源は、全て一つの発電機から…。発電機の燃料が無くなったり、故障すれば全て止まるのは当たり前のこと。なぜバックアップ電源もつけなかったんだろ?なぜ複数のポンプをグループ分けして、複数の発電機を使わなかったのだろ?
続:なんで、こんな簡単な危険予知が出来ないんだろう?誰が計画したのだろうか?誰もこのトラブル想定を指摘しなかったんだろうか?仮設だから?、低線量、低レベル汚染だから?海に流さないと約束したんだから、いくら低レベル汚染だからと言って許される問題じゃないはず。
終:世間からは杜撰な管理と言われるだろうし、このように同じような低次元のトラブル起こしてるから東電に管理能力が無いって言われるんだ。これが、もし雨水とかの低レベル汚染じゃなく、超高汚染の水だったらきちんと管理したはず。でも、レベルの問題じゃなく全て真剣に管理するべきだよ。
最終更新: