土壌調査に名を借りたフェーシング計画なのでは?

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東京電力は4月13日付の報道配布資料として「福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について」を発表した。「開始」である。これまでやっていなかったということである。

いわば過去の漏洩箇所マップ。改めて見るとずいぶんたくさんあるものだ。さらに小規模な漏洩はこの他にも少なからず起きている。画像は「福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について|東京電力 平成27年4月13日」より
いわば過去の漏洩箇所マップ。改めて見るとずいぶんたくさんあるものだ。さらに小規模な漏洩はこの他にも少なからず起きている。画像は「福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について|東京電力 平成27年4月13日」より
 福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について|東京電力 平成27年4月13日
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地下水バイパスの海洋排出は、すでに1年近く行われているのに

地下水バイパスが開始されてもうすぐ1年、海洋への廃棄回数も60回に迫る中、これまで土壌の調査が行われていなかったというのがまず驚きだ。

地下水が原発建屋に浸入する前に汲み上げて、海に廃棄する地下水バイパスの汲み上げ井戸は、H4とかH6といった、これまでに大規模な汚染水漏洩が発生した場所の海側に位置している。何カ所も観測用の井戸を掘ったり、汲み上げた水の測定を行うなど、汚染度の高い水を海に排出しないための手段は確かに講じられてきた。しかし、観測井戸や汲み上げ井戸での汚染濃度の動きは、複雑で分かりにくい。いったい何に起因するのか明確に説明されたことはない。漏洩で汚染された土壌の調査は当然行われてしかるべき措置だが、それがこれまで行われてこなかった。

東京電力は、漏洩事故が発生するたびに汚染された土壌は除去したと説明してきた。それが、これまで大々的な土壌調査が実施されてこなかった理由だと思うが、今になってなぜ土壌調査なのか。意味がわからない。

これが一点だ。そして、もうひとつ指摘したいのは今回土壌調査を開始する理由だ。汚染水の漏洩や、この3月に発生したタンクエリアの堰の水位低下(汚染水が混ざった雨水が地中に浸透した恐れがある)を受けての調査かと思ったら、そうではないらしい。

調査の前から原因をほぼ断定

2015年3月、H4エリア外堰内水位低下に伴う調査により、外周堰の外部にて高線量箇所(土壌)が確認されたが、過去の汚染水漏えい時の汚染土壌が残っていると推
測している。

福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について|東京電力 平成27年4月13日

今年の3月の外周堰からの漏洩の影響は「ない」。原因は「過去の漏洩」と「断定的に推定」しているのである。ならば何を調査するのか。あるいは本当にやりたいことが他にあるのか。

発表された資料のテキスト部分は、「経緯」「土壌調査の目的」「土壌調査方針」「高線量箇所発見後の対応」の4部構成だが、読んでみて気づくことがある。

「福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について|東京電力 平成27年4月13日」より
「福島第一原子力発電所 過去の汚染水漏えい箇所に関する土壌調査開始について|東京電力 平成27年4月13日」より

本文中に「調査」という言葉が登場するのは4カ所。
一方、「回収」や「フェーシング(舗装などで地表を覆うこと)」という言葉は合計で8カ所登場する。
ちなみに「土壌」の登場回数は7回だ。
「調査」の4カ所のうち2カ所は見出しで、もう1カ所は過去の調査を指している。すなわちこの文書は、土壌の回収やフェーシングに関する事柄を言わんとしているものと外形的には判断できるだろう。

内容を見てみても――。
「経緯」の結論は、「現在、汚染土壌を回収し、今後フェーシングを予定」。
「目的」は、「回収等の措置をとり下記に資する」。
「方針」は、堰の外まで漏洩した現場のうち、特に汚染度の高いRO濃縮塩水(多核種除去設備で処理する前の高濃度汚染水)が数十リットル以上漏れた場所に限定。東京電力が「雨水」と呼ぶ水については汚染度に関わらず除外と記す。
「高線量箇所」が見つかったら、フェーシングを行う。回収困難な場所では「速やかにフェーシング」。

やはりこれは「調査」ではなく、「汚染箇所を覆う」ことが目的なのだということが見えてくる。(あくまで個人的な感想ではあるが)

今年の3月に堰の水位が低下したで周辺を調査してみたら、あるはずのない汚染土壌が見つかったので早急に汚染土壌を回収して覆い隠してしまおう。名目は高線量の土壌に汚染された水が排水されないように、そしてまた、作業員の被曝低減のため――。

しかし、土壌の表面が覆われてしまうと、それ以上の調査は困難になる。何らかの形ですでに地中に放射性物質が浸透していることは、周辺の観測井戸や地下水バイパスの水の測定結果からも明らかだ。そんな状況で、フェーシングによって地面に蓋をしてしまうと、汚染水が地中でどのように移動していくのか、ますます分かりにくくなる。

だからといって、地表のフェーシングをしない方がいいというわけではない。フェーシングが完了した後は、降雨時の雨水の動きはこれまでとは比べ物にならないほど急激になるだろう(都市の排水と同じ理屈)。雨が側溝に落ち、側溝から排水路に集められ、あっという間に海に流れ出すことになる。そこに万一の場合のリスクが高まることになる。雨水として海に排出される途中で、放射能測定を行う設備をつくってからというのが、構内をフェーシングする上で必須だろう。その上でということであればフェーシングは廃炉に向けての合理的な施策だろう。しかし、現状はそうなっていない。

実態が、調べて見つかった高線量箇所に蓋をしていくということならば、「調査」と銘打つのではなく、なぜ「汚染地帯のフェーシング計画」という発表にならないのか。

そこにあやふやで、どうにも納得出来ない何かを感じてしまうのである。

蛇足:「雨水は除外」に要注意

フェーシングを進めたいという理由を理解するのは困難ではない。地中に一旦入ってしまったら雨水だろうが何だろうが地下水だ。どれだけ汚れているのか測定してからでなければハンドリングできないし、いちいちタンクにも貯めなければならない。しかし地中に染みこむ前の水ならば、雨水だからという判断を押し通してそのまま海に流すことだってできるということなのだろう。しかし、3月末に発覚した「汚染された雨水」の問題では、これまでのその対応こそが大きな批判にさらされていることを理解していないのか。

たとえ雨水であっても線量が高いものは汚染水として扱うのが常識的な判断なのは言うまでもない。しかし事業者側は、「空から降ってきた水で一度も地下に入っていないものは雨水」という解釈を、どうしても捨てたくないらしい。

その現れが、土壌調査方針にある「雨水は除外」という言葉でだ。フェーシングを実施するのであれば、この辺は汚染水で汚れたエリアだ、ここは雨水だと区別するのはナンセンスだ。全面的に舗装した方が作業として効率的だし、フェーシングの機能も高いはず。それでも、あえて「雨水は除外」と明記している。

これは、フェーシング箇所を減らそうなどというケチな理由ではないと思う。

調査後のフェーシング施工が実際にどのように行われるのか、要注目である。

【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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