トレンチをめぐるこれまでの紆余曲折
東京電力福島第一原子力発電所のタービン建屋地下には、津波の溜まり水に加えて原子炉を冷却した高濃度の汚染水が溜まっている。さらにタービン建屋から海側へはトレンチと呼ばれる立坑とトンネルがつながっており、タービン建屋地下の汚染水が海に流出することが懸念されてきた。トレンチだけで約5000トンの汚染水が溜まっていると考えられている。
東京電力はこれまで、汚染水を海洋に流出させないために複数の措置をとってきたが、汚染水が海側に移動するルートを遮断するため、トレンチの閉塞を計画。タービン建屋とトレンチの接続部を凍結止水工法で塞いだ後、トレンチ内の汚染された溜まり水を抜きとり、その上で充填材などでトレンチを埋める方向で作業を進めている。
その間、凍結止水工法がうまくいかず、隙間からタービン建屋水が出入りし続ける状況もあり、暑いさなかに大量の氷やドライアイスを投入したが、それでも凍結しないといった事態もあった。東京電力は凍結に加えて隙間に間詰め材を投入して閉塞する工事を行い、11月17日には、はじめてトレンチ内汚染水の大量汲み上げを行った。
(トレンチの構造については、下記の立体パース図をご参照ください。)
11月17日の記者会見で明らかになった、止水不十分の可能性
17日に行われたトレンチの水の抜き取りは、トレンチとタービン建屋間の凍結止水の効果確認が目的だったとされている。記者会見資料によると、作業は9時39分から15時22分に渡って行われた。東京電力が公開した記者会見の動画を見ると、説明に立った白井功原子力・立地本部長代理は記者からの質問に答えて次のように発言している。
「今回トレンチから抜いた水の量は約200トン。完全に止水されていれば、トレンチの水位は約80センチ低下するだろうと聞いている」
これに対して、15時22分に終了した時点での水位を尋ねる質問が相次いだが(記者会見は17時30分から開催されている)、白井氏は「現在の評価を行っている段階。評価結果がまとまった段階でお知らせする予定」と繰り返した。
しかし、会見終了間際になって作業終了後の水位が白井氏の手元に届いたようで、一転して作業終了後の水位が公表されることになった。
16時現在ということで立坑の水位について連絡がございましたので、お話ししたいと思います。
数字としましては2,763。
これ、16時現在ということで移送を終了した直後の数値ではないです。16時現在といった値となります。
水の抜き取り作業が始まる前、11月17日7時時点での2号機トレンチ立坑水位は、
O.P.+2,975mm だった。止水が完全なら、ここから80センチ低くなるので、
O.P.+2,175mm まで下がることが予想されたが、実際は作業後38分時点で、
O.P.+2,763mm だった。
つまり、80センチ水位が下がる分の水を汲み上げたのに、実際には20センチ強しか水位が減らなかったことになる。その分、タービン建屋からの流入が続いているのか、トレンチの破損部分から地下水が大量に流れ込んでいるのか、いずれにしろ水の流入が続いていることが明らかになった。
さらに、翌日11月18日午前7時の水位データでは、前日比で9.5センチの水位低下にとどまっている。
トレンチ内部に溜まっている水についての放射能分析は昨年に実施して以降行われていないということなので、水を抜いた後に水位を戻してきた水の出所も分からない。抜いた水の約9割が1日で戻る状況では、これまで長い時間と費用をかけてきた止水工事は何だったのかということになる。
この先どうなるのか?
東京電力の当初の計画では、タービン建屋からトレンチへの滞留水の流入を止水した上でトレンチ内の溜まり水を抜き、トレンチ全体をグラウト(充填材)で埋めるとしてきたが、水が止まらないかったことから、計画変更を余儀なくされることになる。
会見で白井氏は記者の質問に答えて、水があっても施工できる流動性の高いグラウト材の開発を行っているという点を強調した。
水があった状態でもグラウトを打設するというのは当初から考えておりましたので、これぐらいであれば問題なく行われると思います。
ただその実際にやるときの難易度と言いますか、監視のしやすさですとか、そういったところに影響が出て来るかなと思いますけれども。そういった点も含めて評価させていただくことになろうかと思います。
白井氏は水位の変化について、現在評価中であると繰り返すばかりで、評価は口にしなかった。
今後直近のスケジュールとしては、11月21日金曜日に開催される原子力規制委員会の「第29回特定原子力施設監視・評価検討会」で、「海水配管トレンチ建屋接続部止水工事の進捗について」がテーマとして取り上げられることになっている。
監視・評価検討会の前日、11月20日に開かれる定例の記者会見で詳しい説明を希望する記者の声が相次いだが、白井氏は「会社として検討したい」と語るのみだった。
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