数値が上昇したのは本当に雨のせい?
雑固体廃棄物減容処理建屋北サブドレン――。まるで呪文か早口言葉のような建屋外のサブドレン(井戸)水の測定結果で、セシウム134、セシウム137の濃度に有意な変化が見られたと、東京電力が6月11日付「日報」で公表した。
まずは、雑固体廃棄物減容処理建屋がどこにあるのかマップで確認。続いて日報に記載されたサンプリング実績を引用。
<最新のサンプリング実績>
雑固体廃棄物減容処理建屋北サブドレン水:6月10日採取分
・セシウム134:170 Bq/L(前回は検出限界値(約10 Bq/L)未満)
・セシウム137:460 Bq/L(前回は検出限界値(約20 Bq/L)未満)
東京電力のデータページを確認すると、6月10日採取分以外は「ND」が並ぶ。
NDは検出限界未満ということで、その数値はセシウム134が約0.01Bq/cm3、セシウム137が約0.02Bq/cm3とのこと。(単位がcm3であることに注意)
どこまで「ND」が続くのか、東京電力のアーカイブページで遡って調べてみた。
5月4日にセシウム134:21 Bq/L、セシウム137:74 Bq/Lという数字が初めて登場。ちなみにこの日の浪江町の降水量は、気象庁のアーカイブスによると0ミリだった。
測定結果が上昇した原因は、降雨が影響したものと考えられる。今後も引き続き監視を継続する。
測定値が急上昇した原因について、東京電力は「雨のせい」と言う。過去に遡って調べてみた。
2011年5月30日のセシウム137は「75Bq/L」
雑固体廃棄物減容処理建屋北サブドレンというサンプリング場所の測定データは、どれくらい過去まで遡れるのか調べてみたら、原発事故が発生した2011年の5月30日が初出だった。
原子炉建屋が相次いで爆発してから2カ月半しか経過していない時点でのデータは次のようなものだった。
2011年5月30日(浪江町の1日降水量は112.0ミリ)
セシウム134:74Bq/L
セシウム135:75Bq/L
NDではないが、2014年6月10日の数値よりもはるかに低い。以後2ケタの数値が6月に入っても続き、6月20日にはセシウム137でNDが登場する。
ちなみに、セシウム134とセシウム137の数値が似通っているのは、134の半減期が約2年で137の30年に比べて短いため、3年以上経過した今日では134だけが半分以下になっているためだと考えられる。
初の100ベクレル超えは7月
7月には数値がカウントされる日とNDの日がほぼ半々になる。しかし――、
7月21日(浪江町の雨量:前日76.5ミリ、当日24.0ミリ)
セシウム134:160Bq/L
セシウム135:160Bq/L
この日初めて100ベクレル超を記録した。今回も大雨の後だった。
その後数値は2ケタに戻り、8月はほとんどの日がND。数値がカウントされたのはセシウム134で1日、セシウム137で3日。もっとも高い数値で29Bq/Lだった。
2011年9月、580ベクレルを記録
この傾向は9月中旬まで続く。そして9月22日から約1週間、非常に高い数値が記録される。
9月22日~9月29日
セシウム134:510 460 400 370 350 310 150 140(Bq/L)
セシウム137:540 580 470 430 430 360 160 170(Bq/L)
9月21日には24時間雨量が204.5ミリという大雨が降り、翌22日も10.5ミリの降水量を記録した。しかしそれ以後29日までは連続した0.0ミリだった。
この先2011年いっぱいは数値がカウントされる日が増え、NDの日は減少する。それでも、測定される数値は2ケタの前半がほとんどという状況が続く。
これまで高い数値を記録した時には、当日あるいは前日の降水量が高かった。9月から12月までは、降水量と測定結果の関連を見てみる。
●そこそこ降った割に出ない
10月5日:56.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
10月6日:33.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:38Bq/L
●降ってないのにかなり出る
10月18日:0.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
10月19日:0.0ミリ セシウム134:73Bq/L セシウム137:94Bq/L
10月20日:0.0ミリ セシウム134:42Bq/L セシウム137:35Bq/L
●少ない雨量と少な目の数値が連動
10月22日:25.0ミリ セシウム134:26Bq/L セシウム137:37Bq/L
10月23日:0.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
10月24日:5.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
10月25日:0.5ミリ セシウム134:26Bq/L セシウム137:ND
●数値との連動が読み取れない
11月18日:0.0ミリ セシウム134:45Bq/L セシウム137:32Bq/L
11月19日:19.5ミリ セシウム134:32Bq/L セシウム137:59Bq/L
11月20日:0.0ミリ セシウム134:29Bq/L セシウム137:28Bq/L
11月21日:0.5ミリ セシウム134:36Bq/L セシウム137:38Bq/L
11月22日:0.0ミリ セシウム134:47Bq/L セシウム137:57Bq/L
11月23日:0.0ミリ セシウム134:30Bq/L セシウム137:35Bq/L
11月24日:0.0ミリ セシウム134:37Bq/L セシウム137:58Bq/L
11月25日:0.0ミリ セシウム134:32Bq/L セシウム137:41Bq/L
11月26日:0.0ミリ セシウム134:23Bq/L セシウム137:36Bq/L
●かなり降ったが数値は微増
12月2日:0.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:47Bq/L
12月3日:43.5ミリ セシウム134:25Bq/L セシウム137:ND
12月4日:0.0ミリ セシウム134:24Bq/L セシウム137:ND
このように見ていくと、100ミリに満たない降水量と数値の連動性は薄そうだ。
もうひとつ言えるのは、2011年9月に高い数値を記録した後は、セシウム濃度は漸減していることだ。その後、雨量にかかわらずほとんどがNDという状況が続く。
2012年の傾向
●100ミリを超える降雨でもND
5月2日:1.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
5月3日:155.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
5月4日:33.5ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
5月5日:6.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
●6月19日まで半年にわたってNDが続いた後、いきなりの100ベクレル超え
6月19日:87.5ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
6月20日:48.5ミリ セシウム134:68Bq/L セシウム137:100Bq/L
6月21日:0.0ミリ セシウム134:11Bq/L セシウム137:200Bq/L
6月22日:12.5ミリ セシウム134:77Bq/L セシウム137:86Bq/L
雨が多めに降った直後は数値が上がり、その後漸減していくパターンが見られる。6月下旬の雨の後NDが支配的になるのは8月に入ってからだった。しかし、不可解なのは7月7日には91ミリの降雨があり、しかも前後4日間の積算で129ミリ降っているのに、その間には数値の有意な変動は見られなかった。
●まとまった雨から時間差をおいて数値が上昇するケースもある
10月3日:72.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
10月4日:60.5.0ミリ セシウム134:32Bq/L セシウム137:40Bq/L
10月5日:0.0ミリ セシウム134:31Bq/L セシウム137:51Bq/L
10月6日:0.5ミリ セシウム134:39Bq/L セシウム137:66Bq/L
10月7日:11.0ミリ セシウム134:28Bq/L セシウム137:65Bq/L
10月8日:0.0ミリ セシウム134:20Bq/L セシウム137:51Bq/L
この雨の後はセシウム137に関しては年末までNDが支配的な状況にはならなかった。
2013年~2014年前半の傾向
1月に入ってからセシウム137もNDが続くようになる。
●降雨の翌日数値が上昇し、その次の日にはND
4月3日:71.5ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
4月4日:0.0ミリ セシウム134:19Bq/L セシウム137:45Bq/L
4月5日:0.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
4月6日:12.5ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
4月7日:30.0ミリ セシウム134:32Bq/L セシウム137:81Bq/L
4月8日:0.0ミリ セシウム134:31Bq/L セシウム137:64Bq/L
6月15日には1時間最高40ミリ、24時間雨量66ミリという激しい降雨の日もあったが梅雨の6月から夏を越えて9月16日までNDが続いた。
NDが途絶えた9月17日の降水量は0.0ミリ。
この時は2日前の15日から55.5ミリ、49.0ミリの雨が降った後にセシウム137で56Bq/Lを記録した。
●タンクエリアの堰から水が溢れるほどの10月の降雨では、セシウム濃度が上昇
10月15日:33.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
10月16日:118.0ミリ セシウム134:70Bq/L セシウム137:160Bq/L
10月17日:0.0ミリ セシウム134:74Bq/L セシウム137:180Bq/L
10月18日:0.0ミリ セシウム134:79Bq/L セシウム137:190Bq/L
10月19日:0.0ミリ セシウム134:62Bq/L セシウム137:140Bq/L
10月20日:102.5ミリ セシウム134:51Bq/L セシウム137:170Bq/L
10月21日:0.0ミリ セシウム134:97Bq/L セシウム137:190Bq/L
10月22日:10.5ミリ セシウム134:100Bq/L セシウム137:220Bq/L
10月23日:15.0ミリ セシウム134:83Bq/L セシウム137:160Bq/L
10月24日:7.5ミリ セシウム134:80Bq/L セシウム137:170Bq/L
10月25日:9.0ミリ セシウム134:56Bq/L セシウム137:150Bq/L
このデータを見ると、たしかに雨との関連があるように考えられる。
しかし汚染物質が雨とともに増加する理由が分からない。
セシウム137の数値がカウントされる状態は年明けまで続き、2014年1月下旬からようやくNDが支配的な状況になってきた。
2月15日、90.5ミリの降雨を記録した翌16日には、セシウム137は73Bq/L。その後2日でNDに戻った。
●4月の雨と100ベクレル超え
4月4日:88.5ミリ セシウム134:45Bq/L セシウム137:140Bq/L
4月5日:0.0ミリ セシウム134:28Bq/L セシウム137:100Bq/L
4月6日:3.0ミリ セシウム134:46Bq/L セシウム137:96Bq/L
4月7日:0.0ミリ セシウム134:26Bq/L セシウム137:100Bq/L
4月8日:0.0ミリ セシウム134:28Bq/L セシウム137:59Bq/L
そして今回の数値と雨の関係
●今回6月の降雨と測定結果
6月7日:40.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
6月8日:17.0ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
6月9日:24.5ミリ セシウム134:ND セシウム137:ND
6月10日:4.5ミリ セシウム134:170Bq/L セシウム137:460Bq/L
6月11日:13.5ミリ セシウム134:62Bq/L セシウム137:170Bq/L
雨は3日前から降っていた。しかしこの雨は積算しても100ミリを超えるような雨ではない。それでもセシウム137で460Bq/Lという、2011年9月に迫る高い線量が記録された。
東京電力は「測定結果が上昇した原因は、降雨が影響したものと考えられる」とする。
たしかに測定結果に降雨が影響するという表現は正しい。ただしそれは、雨が降れば測定値が上がるという「正の相関」があるということを意味するのものではない。
事故の後、この観測ポイントの測定結果が記載されるようになった2011年5月30日から昨年秋の台風による大雨までの2年半ほどの期間は、雨が降って上がることもあれば、降っても変化しない、降ってないのに上がるなど、雨と測定値の関連は必ずしも明確とは言えなかった。つまり、「上がったり、下がったり、変化しなかったりといった様々な形での影響がある」と言えるということだ。
たしかに2013年10月の豪雨と高い線量は、正の相関を示唆するものではあるが、この状況は1年にも満たない期間でのこと。より少ない雨量ではるかに大量の放射性物質を記録した今回が、同じ背景による同様の現象と考える妥当性はない。
地下の状況は変化していると考えた方が、むしろ正しい気がする。
「雑固体廃棄物減容処理建屋北」のデータを3年分追いかけてみて、地下水の状況がどれほど複雑なのかが少し分かったような気がする。そのことは、それほど離れていない観測点である「焼却工作建屋西側」のデータの動きと、雑固体廃棄物減容~のそれがまったく無関係に見えることからも明らかだ。
もちろん監視は重要だ。東京電力は毎日データを継続的にあげている。このこと自体はありがたいのだが、測定結果の変動についてのもっと具体的な調査は出来ないものなのか。もう一歩踏み込んでほしいという感想をもった。
データばかりの長い話におつきあいいただき、ありがとうございました。
文●井上良太
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