田園風景の中、そそり立つ巨大クレーン
春風が爽やかな仙台平野。鳴瀬川沿いの道路を走っていくと、唐突に巨大なクレーンが姿を現します。新しい町の土地造成が進む高台と大河を渡る橋梁をつなぐ、JR仙石線の工事現場です。
JR東日本の仙石線は仙台と石巻を結ぶ重要路線。東日本大震災で沿岸を走る部分が大きな被害を受け、とくに被害甚大だった東松島市の東名から野蒜にかけての区間は500m~600mも山側に線路を移設た上での復旧が進められています。
そして今、鳴瀬川橋梁の近くで巨大クレーンを使って行われているのは驚きの工事!
地図の右上に「高架橋工事現場」と記したあたりが大作戦の舞台です。
移設工事の概略は、津波避難が大きかった平野部から、現在高台移転用地の造成工事が進められている高台に線路を付け替えるというもの。東名から山に入って造成地を抜けたところで鳴瀬川に掛かる橋につなげる計画です。
ですが、もともとの仙石線は、田んぼの中から鳴瀬川の土手に向かって上り勾配で造られていました。ところが今度の新路線は、高台から鳴瀬川橋梁に向かっての下り勾配。高架橋の高さが足りない! ということになってしまったのです。
切り刻まれ、それでも再利用される橋げた
ふつうなら、高さの足りない高架橋は解体して、イチから造り直すところですが、この工事区間で採用された作戦は「一旦、橋げたを取り外し、完成後の高さになるように作った仮設の支保工(支え)を設置。橋げたを戻した上で橋脚を高く伸ばす工事を行う」というもの。工事を行う会社でも「経験がない」というほどの驚きの工法なのです。
写真は橋げたを取り外した後、緑色の支保工を設置し、その上に橋げたを戻した状況です。支保工の中に中途半端な高さの橋脚が見えます。橋脚延長工事を待つばかりといったところ。
橋げたは橋脚のスパンにあわせて、かなり細かく切り刻まれているようです。現場には取り外した橋げたがひとつ、仮置きされていました。まくら木を敷設するあたりの構造も撤去して、鉄筋がむき出しにされています。
こんなとんでもない工事で活躍するのは、350トン吊りという巨大クレーン。クローラー(キャタピラ)のデカさもさることながら、キャビンの後ろに付けられた黒い物体、これカウンターウェイトというオモリですが、これがまたデカいこと。
ちなみにクレーンの下に敷かれている鉄板の幅は約1.5m(工事用敷き鉄板の標準的なサイズ)、長さはたぶん約6mってヤツだと思います。クレーン本体、キャタピラーの幅、吊り上げるモノが重すぎる時、バランスをとるために取り付けられる重しの大きさからも、工事のスケールのHugeさが伝わってきます。
鉄道建設に多くの実績を持っている施工会社ですら「経験したことがない」という工法が採用された理由、それは一日も早い仙石線復旧を目指しているからにほかならならないでしょう。さらにコンクリートや鉄筋などの資材を節約することで、地域全体の復興への影響を抑えるという考えもあったのだと思います。
復興に向けて難工事にチャレンジする仙石線。来月には路線の主要工事を完了して、駅舎などの設備工事に入る予定とか(早い!)。近いうちにまた応援に出掛けます。
がんばれ、仙石線の工事現場!
写真と文●井上良太
最終更新: