「日報」が公開される時間前ですが、「東京電力報道各位一斉メール」に「福島第一原子力発電所 多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止について」の続報2,3が公開されました。ALPSの運転について東京電力のスタンスを示すものですので速報します。
本日分の「東京電力報道各位一斉メール」本文は文末にも引用します。
2通のメールのアウトライン
▼多核種除去設備(ALPS)B系の不具合について原因の調査結果を提示
(以前からトラブルが報告されてきた前処理装置がうまく働かず、ストロンチウムを含む炭酸塩などが多核種除去装置の後工程にある吸着塔に溜まり、ついには出口に達したといった説明です)
▼トラブルを多発させている装置ではなく(この装置についてはこれまでも数々の改修が試みられている)、後工程の吸着塔で炭酸塩を検知した時に運転を停止して原因調査を実施する。
▼Jエリアタンクなどの処理水タンクに移送する時には、サンプルタンク水の測定を行い異常がないことを確認した上で実施する。
▼多核種除去設備(ALPS)のうち健全性が保たれているA系とC系を運転再開。目的は「汚染水が流入した系統の浄化運転」
原因
【要点まとめ】前工程で沈殿させて取り除くはずのストロンチウムが、機械の不具合で後工程に流れ込み、最終的にに薬品で溶かされ放出。
大きな要因のひとつとして「クロスフローフィルター」という装置が名指しされています。
ALPSという装置の最大のウリは14もの吸着塔を通すことで、指定された63核種のうちトリチウムを除く62種類を高いレベルで分離できることです。ただ、その前段階で、汚染水の中の物質を鉄と炭酸塩に反応させて、沈殿させて取り除くという工程を行います。
微量の核種まで取り除く繊細な吸着塔に通す前に、汚染水の中に大量に含まれていて、後工程の吸着塔で邪魔になる元素をまず取り除こうという仕組みだと考えられます。
不具合の元凶と名指しされたクロスフローフィルターには、バックパルスポッドという空気で動くピストン状の弁のようなものが付いていて、動作時には弁を閉じてフィルター側に水圧を掛ける構造になっています。この装置の不具合や改良についてはこれまでにも報じられており、おそらく今回の事故原因の大元もここにあったと考えられます。
フィルターそのものの構造は明確ではありませんが、吸着塔で邪魔になるマグネシウムやカルシウムとともに、大量のストロンチウムも炭酸塩となって沈殿するようです。
炭酸塩となって水から分離されたストロンチウムなどは、前段階で取り除かれるはずなのですが、クロスフォローフィルターの不具合によって後工程の吸着塔まで流れ込んでしまい、
吸着のじゃまになるものまで流れ込んだので、吸着塔で分離除去することができず、汚染物質が溜まっていき、
おそらく沈殿物に近い形で装置の川下領域まで流れて行ったストロンチウムが、水質を中和するために注入される塩酸によって溶け出して多核種除去設備(ALPS)B系出口から放出された――。
東京電力ではそのようなシナリオを想定しているように読み取れます。
対応策は大丈夫?
クロスフローフィルターに不具合が起きうることを織り込んだ対応策です。
もしも前工程で沈殿させるはずのものが吸着塔に流れ込んだら、その段階で検知してプロセスを停止させると言っているのです。
またクロスフローフィルターは、運転が再開されたA系,C系にも当然装備されています。運転中の2系統の不具合についても監視を続ける必要があります。
対策として挙げられた三番目、「Jエリアタンクなどの処理水貯蔵用のタンクに移送する際には、サンプルタンク水の測定を行い異常がないことを確認した上で実施する」というのは、当然かつ正当な対応だと考えます。
しかしポイントは、そんなことがこれまでなぜできなかったのかという問題です。単純に作業の簡素化ということだけではなく、システムの構造的に貯め置いて確認してから送るというプロセスがとれない可能性があるのかもしれません。現時点では東京電力の説明不足のため否定できません。
サンプルタンクを、ABCの処理系で分けて使うのかどうかも、メールでは触れられていませんが重要な問題です。
ALPSのA系とC系を運転再開した意味
【要点まとめ】管路の取り換えやタンクの除染は今のところ行わない方針に見えます。汚染水が入ってしまったタンクは、当初目的の処理水用ではなく汚染水用として使用するようです。
現在のところ、B系の出口からサンプルタンク、長い管路を経てJ1エリアのD1タンクまでが汚染されたことが報告されています。
A系とC系を「汚染水が流入した系統の浄化」のために運転するということは、設備を取り替えることはせず、現在のところ健全に運転されている2系統の処理水で、サンプルタンクや管路を浄化、つまり流し続けることで放射性物質の濃度を薄めていこうという作戦のようです。どれくらい運転を続けることで汚染度合が低減するのか、またジョイントやバルブ、蛇腹部分のような複雑な形状の部分の浄化にどれくらい有効性があるのか、東京電力の今後の情報公開に期待します。
タンクエリアで接続しているタンクのバルブは、平常時は「開」とする開運用がとられているそうですから、汚染したタンクは1基のみではなく、J1エリアの複数のタンクである可能性があります。(東京電力からの発表待ち)
汚染されたタンク群からALPSに汚染水を送水し、処理水をタンクに戻すという形の循環で処理水や施設の汚染度を下げる方策も考えられましたが、ALPS本来の任務である原子炉建屋やタービン建屋の高濃度汚染水の処理を最優先する考えであるように見受けられます。
しかし、B系の不具合が多の系、さらには増設される系で発生しないという保証はまったくないので、「汚染水が増え続けるのを上回るスピードでの多核種除去設備(ALPS)の運転」は非常に厳しい状況だと言わざるをえません。
しかし、このまま汚染水が増え続ければ事故原発は破滅的な状況に置かれることになりかねません。
専門家による化学的なアイデア、プロセス技術者の智慧の結集など、ありとあらゆる可能性を追求してALPSの健全運転を一日も早く実現してほしいと切に希望します。
福島第一原子力発電所 多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止について(続報2)
多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止についての続報です。
多核種除去設備B系出口水に高い放射能濃度(全ベータ)が確認された件における原因調査結果および今後の対応について、お知らせいたします。
【原因調査結果】
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・多核種除去設備(ALPS)B系前処理装置のクロスフローフィルタ(※)の不具合(不具合状況は調査中)により、透過した炭酸塩(多量のストロンチウムを含む)が、除去装置の吸着塔内に残存し、時間をかけて下流に流れ、水質が中和される塩酸注入点以降で溶解し、多核種除去設備(ALPS)B系出口まで到達し、放射能濃度が上昇したものと推定しています。
※クロスフローフィルタ
後段の吸着塔でストロンチウム吸着を阻害するイオン(マグネシウムやカルシウム等)の炭酸塩を除去するフィルタ
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【今後の対応】
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・クロスフローフィルタを透過した炭酸塩が吸着塔に捕獲された場合は、吸着塔の差圧上昇が生じることから、今後当該差圧が上昇した際には、透過した炭酸塩によるものかを確認し、炭酸塩の透過による場合は多核種除去設備(ALPS)の処理運転を停止し、原因調査を実施する運用とします。
・また、処理水タンク(Jエリアタンク等)への汚染拡大防止のため、処理水タンクへ移送する都度、サンプルタンク水の測定を実施し、異常のないことを確認した後に移送を行う運用とします。
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本日準備が整い次第、多核種除去設備(ALPS)A系およびC系の運転を再開し、汚染水が流入した系統の浄化運転を開始する予定です。
【参考】
多核種除去設備の系統図は、下記資料の48ページをご参照ください。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/l140218_03-j.pdf
以上
福島第一原子力発電所 多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止について(続報2)|東京電力 平成26年3月24日
福島第一原子力発電所 多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止について(続報3)
多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止についての続報です。
多核種除去設備(ALPS)につきましては、汚染水が流入した系統の浄化運転を行うため、本日(3月24日)午後0時59分にA系、同日午後1時にC系の運転を再開しました。
運転再開後の運転状態に異常はありません。
以上
福島第一原子力発電所 多核種除去設備(ALPS)B系の不具合ならびに全系統停止について(続報3)|東京電力 平成26年3月24日
以上、「報道関係各位一斉メール」平成26年3月24日分の内容をもとに、多核種除去設備(ALPS)B系の不具合について考察しました。
構成●井上良太
追記:東京電力から詳細な情報が開示されました
3月24日、報道配布資料として「一斉メール」よりも詳細な情報が東京電力のホームページで公開されました。
新たな情報として、
◆ A,C系による浄化運転のうち、A系の運転は1週間をめどに一旦停止し、吸着塔1,2,4の吸着剤交換、クロスフローフィルターの酸による洗浄、新型バックパルスポットへの交換が行われる。(1ページ)
◆ 原因の推定では5つの仮説を検証したこと。(2ページ)
◆ クロスフローフィルターを通過した沈殿物が流れ込んだことが原因と考えられる吸着塔内で圧力変化が起きていたこと。(3ページ、6ページ)
◆ 第1吸着塔での圧力変化は1月中旬にすでに発生していたこと。(15ページ)
◆ J1エリアの処理水受入タンクのうち汚染されたのは、Dエリアの9基で、受け入れ可能量は1500立方m。AC系による浄化運転の排出先として使用される。(14ページ)
などが読み取れます。事故原因の内容は、ほぼこの記事で考察したとおりですが、沈殿物の形で前工程から後工程へ流れ込んだストロンチウムなどを含む炭酸塩が、かなりの長い期間にわたり吸着塔内を移動していき、3月17日に測定値が上昇した頃にいっきに出口に到達したというストーリーになっています。
サンプルタンクは「受け入れ・分析用」と「移送用」の運用を検討しているとのこと。各系ごとの独立運用は行われないようです。
また、資料には吸着塔内部にこびりついた炭酸塩と考えられる付着物などの写真や、タンクエリアの配置などのイラストも紹介されました。
追記●井上良太(2014年3月25日)
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