「原子力ドンキホーテ」の著者、藤原節男さんからメールをいただきました。内容は福島第一原発事故の原因を巡る考察です。藤原さんが注目するのは、全電源が喪失した場合にも、高温・高圧になった圧力容器内の水蒸気を冷却して水に戻し原子炉を冷却する非常用設備「アイソレーションコンデンサ(非常用復水器、IC、イソコン)」です。以下に全文を引用します。(引用文中のURLは、別枠でリンク表示しています)
やや専門的な用語が並びますが、内容はいたってシンプルです。
・非常用復水器は電気が失われた時にも原子炉を冷却できる装置である。
・しかし、福島第一原発の2号機以降には非常用復水器がない。それはなぜ?
・非常用復水器の配管内で水素爆発が起きる可能性が指摘されている。
・蒸気を冷やすための管の中に水素がたまったことで、冷却が機能しなかった可能性がある。
このような前提に立って、事故時の状況を考察する文章です。
非常用復水器に関する考察
各位(拡散希望)
from 藤原節男(原子力公益通報ドンキホーテ)
件名:福島1号アイソレーションコンデンサ(非常用復水器)機能がなくなっていた。
頭書の件、2011年3月11日に始まった福島原発事故において、福島1号アイソレーションコンデンサ(非常用復水器、IC、イソコン)が、原子炉内大量水素ガス発生のため、機能しなくなっていたと推測できます。これを以下に解説します。
(注1)アイソレーションコンデンサ(非常用復水器)はIC、イソコンとも呼ばれる。
(注2)水素ガス滞留は、BWR関係者が周知の問題です。
藤原節男さん(原子力公益通報者、原子力ドンキホーテ)からの手紙
(1) なぜ、イソコンが福島1号にしか設置されていないのか。
沸騰水型原子炉(BWR)冷却系統設備の概要
http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/shingikai/800/28/003/3-1.pdf
を参照方。
BWR出力運転では、原子炉で発生した蒸気が発電用タービンを経由して復水器で冷却、凝縮し、水に戻り、再度原子炉に巡廻する。このプロセスに異常が起きた時に原子炉で発生した蒸気を水に戻し、再度原子炉に入れるために、福島1号では原子炉建屋4階にイソコンが設置されている。
非常時にイソコン側に切り替えると、水タンク内の伝熱管に原子炉の蒸気が流れ込んで、冷却、凝縮して、復水となる。その復水が、重力によって原子炉に戻る。つまり、ポンプ(外部電源)が無くても機能するのが、イソコンの特長である。原子炉の蒸気を冷却すると、水タンクが高温になって沸騰を始め、水位が低下するが、外部からの水補給だけで、炉心からの蒸気を復水し続けることができる。福島1 号にはイソコンが設置してあった。しかし、2号以降では設置していない。なぜだろう。表向きは、2号以降出力が増加するのでイソコンでは十分機能しないと考え、RCIC(原子炉隔離時冷却系)を設置したとされている。RCICは原子炉の蒸気でポンプタービンを回し、外部タンクからの冷却水を注入するもので、1号イソコンよりも大出力対応である。なぜ、イソコンが福島1号にしか設置されていないのか。その理由は、出力増加だけではなかった。一番大きな理由はイソコン稼働中に原子炉からの水素ガスが水タンク内伝熱管に滞留して、蒸気凝縮機能が損なわれるからであった。
BWRでは出力運転中でも、水の放射線分解によって、原子炉から水素ガス、酸素ガスが発生する。水素ガス、酸素ガスが蒸気と共にいろいろな配管の上部に入り込む。蒸気が凝縮する場所では非凝縮性の水素ガス、酸素ガスが滞留して、これまでも、いろいろな機能不全、水素ガス爆発事故があった。このBWRの重大欠陥(水素ガス滞留)が如実に現れたのがイソコンであった。BWR関係者は周知の問題である。「GE設計の最初のマークⅠではイソコンを設置していた。しかし、浜岡原発では、イソコン配管で水素爆発事故があり、すべて撤去された」との説がある。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No87/ohigashi0430.htm
http://members.jcom.home.ne.jp/u33/i%20think%20120312onjinnkantuba8.htm
藤原節男さん(原子力公益通報者、原子力ドンキホーテ)からの手紙
(2) 福島原発事故では、福島1号イソコンが、原子炉内大量水素ガス発生のため、機能しなくなっていたと推測する。以下に【福島1号事故経過状況】を示す。この状況はイソコン稼働中に原子炉からの水素ガスが水タンク内伝熱管に滞留して、蒸気凝縮機能が損なわれたからであると理由付けができる。
【福島1号事故経過状況】
以下のURL参照
http://speech.comet.mepage.jp/2011/mint_692.htm
地震直後に1号機では炉心の水位が下がらないのでECCS(緊急炉心冷却装置)が作動していなかった。炉心の圧力が上がったのでイソコンが稼働し始める。8分後に炉心の温度低下が1時間あたり55度を超えたので熱ストレスを避けるために運転員が手動でこれを止めたという。電源喪失でイソコン配管破断の信号が出て自動で非常用復水器への弁が閉じてしまう。再度手動で弁を開け炉心の温度変化によって開閉を繰り返した。水タンクの温度が上昇し蒸発による容量が減ったので水タンクに水を注入しようとしたら水タンクへの給水ポンプが故障していて給水できなかった。水タンクの蒸発に対して当初、消防ポンプを使って水を補充していた。
以上を時系列にまとめると以下のようになる(東電5/17頃発表資料)。
3月11日
14:46 地震発生
14:52 非常用復水器が自動起動
15:00 手動で弁を閉鎖。非常用復水器停止。
15:35 津波到達、全電源喪失
18:10 作業員が手動で弁を開き、非常用復水器起動
18:25 手動で弁閉じ、非常用復水器停止
21:30 手動で弁開け、非常用復水器起動
3月12日
01:48 復水器に給水するポンプの故障を確認。非常用復水器永久停止
追伸)
NHKスペシャル「3.11あの日から2年 メルトダウン 原子炉"冷却"の死角」(2013/3/10)
http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65846760.html
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/310-c5ec.html
は、事故原因究明よりも事実歪曲に加担しているのではないのか。福島1号機ICに水素ガスが充満して、水蒸気凝縮機能がなくなっていたことを意図的に隠しているのではないか。もしくは、失念しているのではないか。
また、3号機使用済み核燃料プール核爆発の可能性、および定検中4号機がなぜ水素爆発したのかについても、東電の事故情報隠ぺい、証拠隠ぺいにより、今もって、事故原因究明が不可能となっている。
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藤原 節男(Fujiwara Setsuo、原子力公益通報者、原子力ドンキホーテ)
藤原節男さん(原子力公益通報者、原子力ドンキホーテ)からの手紙
要再認識。事故原因は解明されていない
原発事故の原因はまったく解明されていません。外部に出てくるデータは限られているうえ、そもそも原子炉周辺の線量の高い場所には人間が近づけないとされています。センサーも多くが機能しなくなっている模様です。原子炉内部の状況や事故の原因は「想像するよりほかない」というのが真実だと思います。
想像は「ためにする」ものであってはなりません。さまざまな可能性を科学的に検証するだけでなく、市民が理解し納得できることが不可欠です。
事故の原因はまったく解明されていない――。
このことを私たちは再認識する必要があるのです。
もっと知りたい人へ。藤原節男さんの情報リンク
●構成:井上良太
最終更新: