福島の原発事故の後、ふたたび繰り返された原発事故。ヤマオカ原発がメルトダウンし、大量の放射性物質が環境に放出された。「放射性物質が大量に漏れ出したものではありません」「20キロ圏内の方々にただちに健康被害を与えることにはなりません」――。福島の時と同様に繰り返される政府の発表。進む汚染。マスコミにも伝えられることのない健康被害。戦争よりも悲惨な現実。
でもそれは、ある平凡な家族の物語。
映画「朝日のあたる家」に描かれているのは、ある平凡な家族の物語に他ならない。どんな人たちの身の上にも起こりうる、あまりにも不幸な出来事。収束どころか、いまなお苦しみが継続している福島の人たちの現実が、静岡県の架空の原子力発電所事故になぞらえて描き上げられている。
いつ自分のこととして起きたとしてもおかしくない。他人事ではないのだ。福島原発で被害を受けた多くの人たちの声が、ありありと迫ってくる。
映画「朝日のあたる家」(太田隆文監督 2013年)を薦めます。
原発への賛成や反対を訴えるものではなく、すべての人に観てほしい作品です。
映画「朝日のあたる家」予告編 NO1
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「朝日のあたる家」原作・脚本・監督:太田隆文
キャスト:並樹史朗、斉藤とも子、平沢いずみ、橋本わかな、山本太郎、いしだ壱成ほか ロケ地:静岡県湖西市
「二度と商業映画を撮れなくなるぞ!」
太田隆文監督は、同業の先輩たちからそう言われた。映画会社やビデオ会社などの企業に企画を持ち込んでもスポンサーが付かなかった。原発=タブーであることを監督は身を持って感じたことだろう。監督はブログにこう記す。
でも、僕は何を言われても、福島を見つめることが大切だと思えた。もちろん、映画でなくても、それを訴えることはできる。でも、どんな手段で伝えるより、映画というメディアを使うことが一番伝わる。次第に「殺されても作るべき作品!」そう思えてきた。
偶然にも(?)僕は映画監督という仕事をしていた。毎回、遺作と思ってかかる。だったら、二度と映画が撮れなくても、遺作なんだからいいや!と思えた。遺作に相応しい題材だ。
そして映画で福島の現実を伝えることで、誰もが「答え」を見つけると思った。数値で議論することより、子供たちの未来を考えることで、日本人が進むべき方向が見えると考えた。
「親子に伝える大切なこと」
僕の映画のテーマだ。「ストロベリーフィールズ」も「青い青い空」も同じ。それを避けて、今後も商業映画を撮るのなら無意味。だから「朝日のあたる家」を作った。
「踏ん張る」とは、太田監督が「朝日のあたる家」に取り組んだ姿勢に対してこそ相応しい言葉だろう。
長女・あかね役、平沢いずみの言葉、健二役のいしだ壱成の迫真の演技…、この場でいろいろ語りたいところだが、ぜひ劇場に足を運んでご覧いただきたい。
【現在の上映スケジュール】
ジョイランドシネマ沼津(静岡県沼津市):12月14日(土)〜27日(金)
新潟シネウインド(新潟):12月14日(土)〜27日(金)
札幌シアターキノ(北海道):2014年2月22日(土)〜28日(金)
映画「朝日のあたる家」の家族の姿は、すべて実際に福島で起きたことを描かれています。たくさんの家族の物語を、平田ファミリーに凝縮する形でストーリーが組み立てられられたそうです。福島の現実を再現する上で作品の監修をつとめたのは、はままつ東北交流館の佐藤大さんでした。
「福島のことは終わってなどいない。いまも続いている。そのことを知ってほしい」
福島から浜松に避難しながら活動を続ける佐藤さん、佐藤さんの元に寄せられたたくさんの人たちの声、役を演じた役者さんたち、そして太田監督が書き下ろした映画の中の言葉。すべてがシンクロして迫ってきます。
●TEXT:井上良太
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