東北の友人たちが言うことには。その3「ストーブは反射型がいい」

iRyota25

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女川町だって、何の備蓄もしていなかったわけじゃないのよ。
ただ、女川は緊急物資を公民館の地下にしまっていたっていうんだ。

公民館は町役場の隣にありました。女川駅や4階建ての生涯教育センターのすぐ近くでした。津波はね、駅も役場も呑み込んで、生涯学習センターの屋根裏まで達しました。私たちは3月11日の夜を、かなり山手の方で、1階がやられた民家の2階に上げてもらって過ごした後、翌日に高台の運動公園にある総合体育館に避難したんだ。たくさんの人たちが集まっていたよ。赤ちゃんもいた。こどもも年寄りもたくさんいた。でも、そこには緊急物資は何もありませんでした。

「自分たちが住んでいる自治体に掛け合って、住民の人数分の緊急物資をひと揃えまとめて保管しておくようにするんだよ!」

女川の石田志寿恵さんが、いつもに増して強い口調で言いました。

「最近はニュースで、避難する時の物資はできるだけ個人で準備なんて言ってるけど、最初の数日分はしっかりまとめて備蓄しておかないとダメだ。緊急物資って食料だけじゃないんだよ。助けが来てくれるまでの3~4日を生きのびるために必要なものを、津波の危険がある町なら、標高が高くて安全な土地にある頑丈な建物の一番上の方にしまっておくこと。」(もちろん、津波の危険がない町でも、建物の倒壊、液状化、火災などの危険を考えて、いちばん安全な場所に数日分の備蓄をしておくことが大切です)

女川町で最大の避難所となった総合体育館での経験を石田さんが話してくれました。

救援が来てくれるまでの数日間を生きのびるために、飲み水や非常食、防寒具やテントなどが必要だということは誰でも想像できるでしょうが、避難した直後に石田さんがとった行動は、ストーブを持ってくることだったそうです。

「何しろ、避難所には小さなこどもや赤ちゃんがいたから、食べ物を絶やすことはできない。そう思って、何人か若い男性に声をかけて、ストーブと灯油、それからお湯を作ったり煮炊きに使えそうな道具を避難所に持って上がったんだ。」

お湯を沸かせばミルクを作ることができる。さらに、お米があればご飯を炊くことだってできる。

「ご飯は炊いても、たくさんの人に分けたから、ほんの小さなおにぎりにしかならなかったけどね。それでも、口に入れるものがあるだけで気持ちが少し落ち着く。ストーブはとにかく貴重なんだ。ただ暖をとるだけじゃなくて、煮炊きができることが大切。そのためには、小さくてもいいから反射式の灯油ストーブがいいな。筒型とかサロン型は煮炊きにはいいが、周りが暖まらない。ファンヒーターみたいなのは電気がないと動かないし、煮炊きができないから使えなかったなあ」

他の避難所では、家庭用のストーブではなく、ジェットヒーターしかなかったところもあったと聞きます。その避難所では、電気が復旧するまで使えなかったことのほか、音がうるさい、暖かいところと寒いところの差が大きい、そしてやっぱり煮炊きに使えないということで不評でした。

ヤカンをのせることができる、昔ながらの反射式の石油ストーブが、避難所では一番使い勝手が良かったのです。

「支援が入ってくるようになっても、冷たいおにぎりとパン、何週間かしてからようやく冷えたお弁当を届けてもらえたような状態だったから、私たちはお年寄りや小さい子たちには、お粥とか重湯にして食べさせていたんだよ」

被災直後のみならず、長引く避難所生活の中でも、煮炊きできる道具は極めて重要だと石田さんは強調します。プロパンガスとコンロや鍋なども、もちろん役に立ちます。

「食器もね、使い捨てのものだとゴミがたまって大変なことになる。ゴミ処理だけじゃなくて、衛生的にも虫が湧いてよくないからね。だから洗って使えるプラスチック製の食器と樽があるといいよ。」

樽?
そうです。食器を洗う時に、いくつか並べて流しの代わりに使うのです。その他にも水を使う機会は何かと多いので、水をためることができる樽が重宝するのだそうです。

ストーブや樽の話は、実際の避難所生活を経験されたからこそ指摘できることだと思います。

日本中のどこで発生してもおかしくない大災害に備えるためには、経験した人の言葉に耳を傾けるのと同時に、災害が発生した際に自分たちがどんな状況に置かれるのかを、自分事として考えることが大切だと思います。


さてここで、最後にひとつ問題です。

あなたは小学校の体育館に避難しているとします。季節は真冬。とっても寒い夜が続いていましたが、今日ようやくひとり一組の布団が届きました。使い捨てカイロもひとりに2つずつ配給されました。冷たい床の上に布団を敷いて、できるだけ温かく一晩を過ごすためには、カイロをどう使うといいでしょう? いろいろ想像してみてください。


答えは石田さんから――。
「掛布団の両方の肩のところに貼るの。この方法はね、避難所で近くだったおばあさんに教えてもらったんだ。直接カイロを体に貼ると、どこに貼っ着けても熱くて眠れなかったんだけど、肩のあたりを温めると全身がぽかぽかなんだよ。」

お役所が作ったものや市販のマニュアルには載っていない「避難所生活の知恵」は、まだまだたくさんありそうです。

そんな話を教えてくれる東北の人たちと日本中の人たちが友達になれるといいですね。

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文●井上良太

最終更新:

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  • P

    pamapama

    避難グッズなどを挙げてみようというとき、「季節」を見落としがちだなとよく思います。特に寒さ対策を怠ると命にも関わりますね。石油ストーブはまさに目からうろこでした。真剣に購入を検討しようと思いました。