息子へ。被災地からのメール(2013年2月2日)

iRyota25

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2013年2月2日 宮城県石巻市

今回のメールは電器屋さんの系列店のお話。部分と全体という、ちょっと深めの話です。

どういうわけだか、東北でいろいろ話を聞いて回っていると、電器屋さんに懇意にしてもらうことが多い。家電製品を買う時には、自分たちは大型のチェーン店に行くことが多いけれど、東北には町の電器屋さんが健在だ。もちろん、東北にも大型チェーンはたくさん進出しているよ。それでも、なぜかがんばっている電器店がたくさんあるように感じるんだ。

何軒かの電器屋さんと仲良くなって、いろいろお話を伺いながら気づいたことがひとつある。それは、電器屋さんって、ただ単にモノを売るだけのお店じゃないんだってこと。(と書いてから考えた。つき詰めていけば、電器屋さんに限った話じゃないかもしれない。対面販売のお店って、どこもモノを売るだけの場所じゃない!)

たとえば、お店にやってきたお客さんとお喋りする。もちろん売上はゼロ。たとえば、リモコンの調子が悪いのよねって言われて、お客さんの家にいってリモコンをチェック。原因は電池切れだと判明して電池交換。売上は単3電池2本で200円くらい。

たとえば、冷蔵庫の中が冷えすぎてるから何とかして! とヘルプ要請の電話がかかってきて、お客さんちの冷蔵庫の温度調節つまみを調整。売上はゼロ。

ちょっとオーバーな説明だけど、そうしたコマゴマとしたやりとりを連綿と続けて、そう、まさに連綿と続けていく中で、「テレビの映りが良くないから、新しいのに買い換えようかな」という話に結びついていく。

町の電器屋さんはそんな商売を続けてきた。もちろん、「いつか100インチの薄型テレビを買ってもらえるかもしれないから」なんてことを考えて、戦略として細かいサービスを続けているわけじゃない。お客さんにとって何でも相談できる人であり続ける。お客さんが何か困った時に、すばやく課題を解決する。その行為そのものが町の電器屋さんなんじゃないかと、父さん、最近、思うようになった。たぶん間違いない。

あ、たいへん。この話、かなり長くなりそうだから、メールではちょっと駆け足でまとめていくね。

そんな町の電器屋さんは、たいていが大手家電メーカーの看板を出した系列のお店だ。なかでも系列店の運営に力を注いできたのが、大阪に本社があるP社(ちょっと前までN社だったところ)。今から25年くらい前には、全国に何千もあるお店のCI(コーポレート・アイデンティティ。その頃の一般的な使われ方としては、お店のマークとか名前とかデザインを、統一感があって、おしゃれなものにリニューアルするという意味。1980年代後半に大流行した)を実施した。

外観を一新するだけじゃなくて、その頃から町の電器屋さんの強力なライバルとして力を付けてきていた大型家電量販店に対抗するための、あの手この手が取り入れられた。電器屋さんを集めての販売研修しかり。価格の安さだけが武器の量販店に対してサービス面の強化しかり。

でもね、その頃から25年間の家電店戦争の歴史を概観すると、急成長する家電量販店に対して、衰退の一途をたどる町の電器屋さんという、あまりにも好対照の絵が見えてくる。

実際に、いまでもがんばっている東北地方の町の電器屋さんだって、どこも経営は大変らしいよ。元締めである家電メーカーにしてみても、量販店の存在はどんどん大きくなっているから、量販店向けと町の電器屋さん向けの卸し価格の差は、もうとうの昔にリカバー不可能なくらいに開いているらしい。量販店はますます安く仕入れられるようになって、さらに値引き販売が可能になる。町の電器屋さんはサービス面をアピールするだけでは戦えないくらい値段の差が大きくなっているってこと。

25年前、N社は町の電器屋さんの商売が、もっとうまくいくように「テコ入れ」を行った。それは、最初に紹介したような町の電器屋さんのビジネスが、その町で暮らす人たちにとって欠かせないものだと考えたからだろう。顔が見える付き合いで、町のたくさんの人たちとつながっていく強みを評価していたからだろう。

でも、同時に、量販店に向けては「価格競争」で他社製品に負けないために値引き戦略に重きを置かざるを得なかった。

この状況がね、いまの東北と日本の関係にダブっているところがあるように思ったんだ。

「復興!」という言葉は勇ましいし、頼もしいけれど、震災前から人口が減少して、高齢化が進んでいた地域だ。復興といっても、経済が右肩上がりにガンガン伸びていくという図は、ちょっと想像しにくい。むしろ、経済的にはそんなに成長しなくてもいいから、人と人がつながって、顔が見える関係の中で、幸せな地域ができていくって方が、東北の復興としてふさわしいように思っている。まるで町の電器屋さんがやってきた商売のあり方が、電器屋さん以外にも広まっていくようなイメージ。

でも、東北も日本の一部であるわけだから、日本全体の経済の動向から無縁でいられるわけはない。売れればいい!売らなきゃダメだ!どんどん売れ!もっと儲けろ!みたいな流れにさらされたら、町の電器屋さん的なビジネスは淘汰されちゃうかもしれない。

でも、高齢化が進んで、人口が減少していくのは日本全体も同じこと。東北はその先取りをしているようなものなんだ。経済がゆっくり縮小しながらも、それでも幸せを求めるような未来が望ましいのは日本全体で見たって同じこと。

東北の被災地では「変わらなきゃ!」って声に出して言う人が増えている。でも、変わらなければならないのは、東北だけじゃなくて日本全体なんじゃないか。

そんなことをね、今夜も電器屋さんと話ししながら考えた。

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