海辺の地をゆく 「いわき市・薄磯海岸」2012年11月3日

iRyota25

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日本の渚百選にも選ばれた薄磯海岸は、いわき市平薄磯の塩谷崎の北に続くビーチ。夏には海の家が立ち並び、多くの海水浴客でにぎわう福島を代表する海水浴場だった。岬には木下恵介監督の映画「喜びも悲しみも幾歳月」の舞台となった塩屋埼灯台。岬は美空ひばりの「みだれ髪」にも歌われた。さらに薄磯海岸はロックバンドくるりの「ばらの花」、「glory days」のミュージックビデオが撮影された場所でもある。

2012年11月3日(603日目)の福島県いわき市・薄磯

南に塩屋崎、北には漁港のある富神崎。東は白砂の浜辺の向こうに美しく広がる太平洋。初冬でもまぶしいほどの光があふれる薄磯海岸の浜辺から陸地を振り返ると、そこには津波に流され、ほとんどの建物が消滅してしまった薄磯の町が広がっている。残っているのは建物のコンクリート基礎ばかり。がれきや被災した建物の多くが撤去された現在、ほとんど人気のない廃墟のような空間が静かに広がっている。

▲遠く塩屋埼灯台が見える。

▲基礎だけを残してほとんどが破壊された薄磯の町。残された基礎に百合の花がペイントされていた。

▲薄磯では残された建物の一部や防波堤に、たくさんのペイントが施されている。多くはボランティアによるものだという。

▲桜、秋桜、ひまわり、忘れな草。。。型を使ってたくさんの花が描かれている。

▼花が描かれた壁の上にはワンカップが置かれていた。(撮影のためラベルが見えないように向きを変えました)

ひとの生活が消滅してしまったように思える薄磯の町並みを歩いてゆくと、がれきの中に記されたメッセージがあった。

“ We will stand strong again ”

店舗はおろか自販機すらなくなった薄磯の町だが、人の姿が消えてしまったわけではない。この日も大型バスがやってきた。海岸の北側・富神崎のふもとあたりに停めたバスから下りてきた人たちが、砂浜や町並みを歩いていた。他県ナンバーの自家用車でやってくる人も多い。この町にやってきた人の多くが、メッセージに込められたものをきっと持ち帰っていったはず。消えてしまった町の中に、若者たちの手で新たに描き込められたメッセージを。

▲描かれた花だけでなく、生きた花も咲いていた。

▲複数のボランティア団体が薄磯で花を咲かせる活動をおこなっている。

▲たくさんの枯れたひまわりが立っていた。何本も何本も。咲いていた頃にはきれいだったことだろう。「花なんか咲かせてなんになる」という疑念が湧かないわけではないが、このひまわりの種が、来年もこの地で多くの花を咲かせることを願う。

▲海水浴場の南端近くにある豊間中学校。あれから603日。グラウンドはがれき置き場。

もういちど、あの場所に足が向いた。何もなくなったように見える薄磯の町に、持ち帰るべきものがたくさんあることを教えてくれた場所。

We will stand strong again !

●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

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