養殖マダイは「ただいま進化中」??

iRyota25

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魚料理のお店の玄関に立つオブジェの鯛は天然物?
魚料理のお店の玄関に立つオブジェの鯛は天然物?

ボクがマダイの鼻に興味をもったワケ

マダイの養殖モノを見分ける話の続きです。

鯛釣りをやる人や市場関係者なら、パッと見ただけで瞬時に天然物か養殖物か見分けてしまいます。まるでヒヨコの雌雄鑑別師みたいに一目で鮮やかに見分けるのです。それが不思議だったので、毎週末のように西伊豆でタイを狙っている釣り師の先輩に聞いてみました。「どこで見分けてんの?」

マダイの養殖施設のある伊豆の海でタイを狙う人たちにとって、完全に野生の天然モノと養殖の生簀から逃げ出した半養殖モノとでは、釣れた時の「価値」が違うそうです。「あいつが釣った60センチのは生簀から逃げたヤツ。オレのは55センチだけど正真正銘の天然モノ」なんて会話が戦わされるくらいです。天然と養殖の見分けは釣り師の沽券に関わることなんですね。

それくらいの重要事だから、きっと見分けるポイントがあるに違いないと思って聞いたのですが、返って来たのは「う~ん。だって、見りゃ分かるじゃん」というそっけない答え。別の日に沼津の市場で働いている知人にも聞いてみましたが、「色が違うとか言うけど、最近の養殖物は黒っぽくないのも多いからな。体高とか体色、尾の張りとか全体的に見てるかな」。

結局、パッと見た目で判別できる人の頭の中には、たくさんの天然マダイを目にしてきた経験から「天然マダイ的なるものの共通イメージ」が作られているのでしょう。天然モノと養殖モノの鑑別はやっぱり職人技なんだ。――と考えるしかなかったのです。

まさかとは思うけど、そこは進化の最前線?

ところが昨年のこと、知り合いの養殖業者の出荷の手伝いをしている時に、社長さんが「タイの鼻で見分ける方法」を教えてくれたんです。片側に2つあるあずの鼻の穴がつながっていたら養殖マダイっていう見分け方ですね。でも、同じマダイなのに鼻の穴の数が違うなんて不思議なので、理由を聞いてみると、

「オレもいろいろ調べているんだけど、理由がよく分からないんだよね。でも養殖タイは人工種苗(注1)が多いから、そういう形質が遺伝している可能性はあるかもな」

つまり、養殖マダイは人間の手で天然マダイと隔離された環境で何世代も繁殖していくうちに、本来のマダイのグループとは異なる形質を持つグループに変化している可能性もあるということなのです。実はマダイには、鼻の穴の数だけではなく、鼻のあたりの形まで変異したものもいて、ちょっとコブダイみたいに見える個体も少なからず存在します(見た目があまりに違うタイプは切り身で流通するだけなので、たぶん魚屋さんやスーパーで見かけることはありません)。もしかしたら鼻の穴の数だけではなく、頭部の形がぜんぜん違うニュータイプが養殖マダイの中から現れるかもしれません。その辺も含めて考えると、養殖マダイの鼻って、進化について調べる上で結構おもしろい研究テーマになるかもしれません。

ちなみに、出荷を手伝いながら鼻の穴の数を調べてみたら、鼻の穴が1つにつながった養殖マダイは全体の7割強でした。

鼻孔に注目。こちらは養殖マダイ
鼻孔に注目。こちらは養殖マダイ

帰りに1.5キロのタイを1枚おみやげにもらって帰りましたが、美味しかった。半身は刺身、残り半身は松皮造りに。もちろん頭はあら煮にして、目の周りや頬、てっ辺まで美味しくいただきました。

今のところ養殖マダイもちゃんと真鯛の味が楽しめます。やっぱり鯛は魚の王様です。

(注1)種苗とは体長5センチほどの幼魚のこと。ごく小さい幼魚を海で獲ってきて、生簀などで大きく育てるのが天然種苗による養殖。鮭の人工受精みたいに、人為的に卵を孵化させた種苗を使うのが人工種苗。養殖アジはほとんどが天然種苗。マダイでも一部天然種苗のものがあるらしい。ちなみに、養殖マダイの鼻の穴がつながる原因に、栽培初期の栄養バランスを挙げる意見もある。

 【前編】天然マダイと養殖マダイは「ハナ」で見分ける
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こちらはクロダイですが鼻の穴は2つ
こちらはクロダイですが鼻の穴は2つ

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