いわき市久之浜の景色は、数カ月前から一変していた。町には縦横に走る真新しい道路が整備され、あちこちで住宅の新築工事も進められている。
海からほんの数メートルの所に立つ稲荷神社の周りにも、ぴかぴかの舗装道路が完成していた。
しばらく工事中でなかなか近づくことができなかった稲荷神社に、久しぶりに詣でたら、境内にこんなメッセージを見つけた。
平成23年3月11日、未曾有の東日本大震災が発生し、町は大きな被害を受け尊い人命まで奪い去りました。しかし、この神社は回拝柱と鳥居が倒されただけですみました。奇跡の神社です。
先人たちは、町並みを大火が続き、疾病で多くの人々がなくなる度により所を求め、神頼みをしてきました。そのため、この神社は鬼渡神社・秋葉神社、そして稲荷神社と多くの名前を持っています。
私たちは、先代に支えられて生きています。どうぞ、これからも人のために価値ある人として他人を支え続け、強く生きて下さい。
あなた様へ
拝礼
平成28年3月月命日
神社総代
久之浜稲荷神社からのメッセージ
「あなた様へ」との一文が突き刺さる。そして「3月月命日」との日付の表記もまた。
この場所で多くの人たちが命を奪われ、大切な多くのものを失った。災禍は地震と津波にとどまらなかった。しかし、ここには多くの人たちがやってきた。原発災害の不安をよそに、老いも若きも男性も女性も、たくさんの人たちが訪れて、何とかしたいと活動した。
助けたいとの思いが空回りしてスピンアウトしてしまった人の話を聞かないでもない。震災から時間を経るにつれ、できることが見つからないと足が遠のいた人もいる。
道が造られ家が建ち始め、町は再生に向かっているが、ここで暮らす人たちが、将来に対してまったく何の不安も持っていないなんて言える人などいないだろう。しかし——
私たちは、先代に支えられて生きています。どうぞ、これからも人のために価値ある人として他人を支え続け、強く生きて下さい。
久之浜稲荷神社からのメッセージ
「あなた様へ」との言葉。久之浜の人たちからのメッセージを私は重く受け止める。
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