下船渡駅のすぐ近く、国道45号線沿いの萬来食堂は地元で人気の老舗食堂。ラーメンを中心に定食や丼物がメニューにはずらりと並ぶが、大船渡さんまらーめんプロジェクトに最初から参加してきた食堂としても知られている。
ということで、萬来食堂のさんまらーめん、『さんまうめ〜めん』を注文!
待つことしばし、運ばれてきたのは見た目からしてビックリのラーメンだったのだが、ラーメンより先に驚かされたのは、お店の奥さんが「はいどうぞ」と新聞を持ってきてくれたこと。それも地元の岩手日報。ラーメンを待っている間に、地元の新聞を読んでねというニクイ心配りだ。
で、本題のさんまうめ~めんである。さんまらーめんプロジェクトの参加店の中には、出汁にさんまを使っただけで見た目はふつうのラーメンにしか見えないラーメンを出しているところもあるが(もちろんそれでもしっかりさんまにこだわった逸品なのだが)、萬来食堂のさんまうめ~めんにはしっかりさんまが入っている。
しかも、さらにビックリなのは梅干しとレモンまで入っていること。ラーメンに梅干し、ラーメンにレモンという組み合わせ自体めったにお目にかかれないものだと思うが、さんまうめ~めんには両方が入っているのだ。いったいどんな味なのかまったく想像もつかない。とにかく食べてみなければ…
と、口に運んでもっと驚いた。
甘いのだ!
麺食いの端くれとしてこれまで多くの麺を食べてきた。「旨味が凝縮されていて甘いほど」というラーメンに出会ったこともある。しかし、さんまうめ~めんは正真正銘甘いラーメンなのだった。
その甘さが絶品なのだ。甘さの元は自家製のさんまのうま煮に相違ない。骨まで食べられるくらいにじっくり煮込んださんまから、魚の旨味だけでなく煮魚特有の甘さがスープに溶け出しているのだ。とろみがあって甘いスープに梅干しの塩気とレモンの酸味が相まって、絶妙な味わいを醸し出す。お口の中に味のハーモニーが広がっていく。
甘いラーメンなんて、と引いてしまう人もいるかもしれないが、さんまうめ~めんの甘さは常識を完全に覆すもの。これはもう発明、大発明というほかない。
もしかしたらこれは、もはやラーメンではないのかもしれない。さんまうめ~めんとしか呼びようのない、甘くて美味しい新しい麺。
冒頭の写真でラーメンの隣に白ご飯があったのを思い出してほしい。別にラーメンライスを注文したわけではない。さんまうめ~めんにはもれなくご飯がついてくるのだ。さんまのうま煮とご飯、さんまうめ~めんのスープとご飯がまたよく合う。
完食後、ご主人とちょっと立ち話したのだが、さんまうめ~めんは震災の前に開発したものなのだという。さんまの水揚げが本州一の大船渡では、「さんまは買う物ではなくもらう物」といわれるほど身近な食材だ。「そうは言っても、商品としてお店に出すからにはいいさんまを選んで仕入れなければなりませんから」「今年はさんまの獲れる海が遠い上に、形も小さめですから大変です」など、あたたかさにあふれる表情で、しかも実に丁寧な言葉でお話ししてくれた。ちなみに骨まで食べられるさんまのうま煮の作り方は企業秘密なのだとか。
料理ができるまで新聞でも読んでてねというさりげないやさしさ。地元の代表的な食材を徹底的においしく仕上げるこだわり。そしてあたたかさにあふれるトーク。萬来食堂は甘くておいしくて懐かしい場所。世界にたったひとつだけのさんまうめ~めんを食べるだけでも、大船渡を訪ねる価値は十分あると思ったのだった。
最近では、NHKの特集ドラマ「列車コンで行こう」のために特別に開発した『NEOさんまらーめん』も新たなメニューに加わっている。常連客に人気のホルモン味噌ラーメンやチゲラーメンもご主人のオリジナル。萬来食堂のご主人は中華の発明王だ。
萬来食堂
大船渡市大船渡町宮ノ前9-2
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