[21世紀 日本の風景]原発がこの目で見える丘

iRyota25

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福島県浜通り、事故原発の地元の方にご案内いただいてドライブした。同乗の方の「原発が見える場所、お願いね」の要望にお応えいただいて向かったのは海とは反対の山の方。てっきり海沿いにクルマを走らせるものと考えていたので、山の中腹、周囲が見渡せる丘のようにも思える場所ででクルマが泊まったのには少し面食らった。

しかし、外に出てみると……

はるか彼方に見えるのは、紛れもなく東京電力福島第一原子力発電所だ。一番右側には集中廃棄物処理施設の太い集合排気筒が見て取れる。そこから左、北に向かって、3・4号機の排気筒、1・2の排気筒、少し離れて5・6号機の排気筒が並ぶ。背の高い排気筒の場所が分かれば、建屋はその下に位置しているからすぐわかる。

カバーが付けられた4号機や、破損が少なかった2号機の上部はよく見えた。たくさんの大型クレーンが建屋にたかっている様子も手に取るように見渡せた。

距離は15kmくらいとのこと。これだけ距離があれば写真に撮影しても画像が陽炎のように揺らめいてしまう。2011年の事故当時、水素爆発の瞬間が撮影された場所の1つもここだという。どうりであの水素爆発の映像に映された建屋が、ゆらめくように見えたわけだと、変なところで納得したりした。

カメラではぼんやりとしか写っていないが、原発建屋と自分との間に遮る何物もなく、厚さ15kmほどの空気の向こうに、収束に向けて汗や涙、そして悲鳴すら交じるような現場がある。

これまでは、事故原発のニュースを見聞きしても、どこか遠い場所の出来事のようにすら思ってしまう自分がいた。原発関係のニュースには細かなところまで目を通していたつもりではいたが、心のどこかに、フィクションであってほしいという気持ちすらあったかもしれない。

10数kmという距離は遠い。でも、マラソン大会ならショートコースの距離にちょっと足せば届いてしまう距離。フルなら往復してなお余りある距離。この場所は、生きている人が足を伸ばせる生活圏なのである。

そこで、今日も東京電力が日々発表しているようなことが行なわれている。そして同じように海の側に10数km離れた海上から、やはり事故原発を見つめている瞳が何十も何百もあるということだ。

言葉にされなかったり、あるいは誰が言葉にする人がいたとしても、それが伝えられていかなければ、それはまるで「なかったかのこと」のようにされてしまう。

でもそれは現にここにあった。

テレビ受像機やパソコンの液晶モニタとか、スマホの小さな画面とかではなく、輝く緑の山の斜面が切り取られたかのような谷地の先、陸の自然が海の自然に接するちょうどその辺りに、白いべんべを着せられて、なあんにもなかったんだべやってな口ぶりで、それでもクレーンだのに囲われて、そこに確かにありました。

連れてきてもらってほんとに良かった。貴重な経験だった。ここから廃炉作業の何が見えるってもんでもないけれど、できることならニッポン中の人たちを連れて、もちろん順繰りでいいんだからさ、ニッポン中の人たちに見てほしい景色だと思ったんだ。

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