汚染源はどこにある? 東京電力はタンクからの漏洩はないとするが、周辺の地下水観測孔で非常に高い線量が検出された理由は不明のまま
3月13日(金曜日)に公開された「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」。前日からの変化や変更点から、事故原発がおかれている現状を考えます。
「汚れた雨水」が流出したタンクエリアの続報。濃度が比較的低い内周堰内の溜まり水分析結果を公表。東京電力は「汚染水タンクからの漏えいはないものと判断」とする。今回の流出場所近くの地下水観測孔E-9で、流出した「雨水」をはるかに超える高線量が記録された経緯は不明
<H4内周堰内雨水>(3月10日午後5時10分採取)
全ベータ :8.5×101Bq/L
セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:1.1×101Bq/L)
セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:1.7×101Bq/L)
<H4北内周堰内雨水>(3月10日午後5時10分採取)
全ベータ :9.6×102Bq/L
セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:1.0×101Bq/L)
セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:1.7×101Bq/L)
<H4東内周堰内雨水>(3月10日午後5時10分採取)
全ベータ :4.4×102Bq/L
セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:9.9×100Bq/L)
セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:1.6×101Bq/L)
引き続き、当該外周堰からの流出について調査を実施する。
「内周堰内に溜まった雨水の分析結果」と上記の分析結果を比較したところ、放射能濃度に有意な変化が見られないこと、また、汚染水タンク水位に有意な変化がないこと、タンクパトロールにおいて異常が確認されていないことから、汚染水タンクからの漏えいはないものと判断。
また、上記の内周堰内の分析結果と、「外周堰内に溜まった雨水の分析結果」との比較により、外周堰内に溜まった水の放射能濃度については、内周堰内からの影響ではないものと判断。
現場調査の一環として、外周堰の外側において、70μm線量当量率の測定を行ったところ、H4エリア南西側付近に高線量当量率箇所があることを確認。測定結果は以下のとおり。
<H4エリア南西側付近(地表面から5~10cm離れた位置から測定)>
70μm線量当量率(ベータ線):約35mSv/h
1cm線量当量率(ガンマ線):約0.12 mSv/h
降雨の際に、当該高線量当量率箇所から外周堰内へ汚染した雨水が流入している可能性があることから、引き続き調査を実施。
また、当該高線量当量率箇所付近は、過去(平成24年3月)に汚染水の漏えい事象があったことから、その因果関係も含め、調査を実施する予定。
タンクエリアから地下水バイパス揚水井にかけてのエリアに設置されている地下水観測孔では、現に高線量が計測されている。日報では堰の内外の線量比較から「タンク漏洩はない」としているが、では高い線量の水はどこから来たのか。
理由の推定すらできない状況で、地下水バイパスや雨水の自然排出で敷地内の水を海に流していいものなのだろうか。
側溝や枝管も含めた排水路のサンプリング結果を公開
排水路である以上、当然なのかもしれないが、爆発によりフォールアウト(死の灰)が降下した事故原発敷地内の排水が海へ流れ込むことが、管路配置図の公開で改めて明らかに。
1号機~6号機
新規事項なし
◆1号機
・復水貯蔵タンク(CST)を水源とする淡水を原子炉へ注水中
・原子炉および原子炉格納容器へ窒素封入中
・原子炉格納容器ガス管理システム運転中
・使用済燃料プール循環冷却系運転中
※滞留水移送は停止中
◆2号機
1号機と同じ4項目の記載。加えて、
・2号機タービン建屋地下→集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ高濃度滞留水を移送中(平成27年3月2日午前10時25分~)
※滞留水移送は稼働
◆3号機
1号機と同じ4項目の記載。加えて、
・3号機タービン建屋地下→集中廃棄物処理施設(プロセス主建屋)へ高濃度滞留水を移送中(平成27年3月11日午前10時48分~)
※滞留水移送は稼働
◆4号機
・原子炉内に燃料なし
・平成26年12月22日、使用済燃料プールに保管されていた全ての燃料の移動作業が終了。
◆5号機
・冷温停止中
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
◆6号機
・冷温停止中(燃料は全て使用済燃料プールに保管中)
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
共用プール・水処理設備および貯蔵設備
新規事項なし
◆共用プール
・使用済燃料プール冷却浄化系運転中
・共用プール低電導度廃液受タンク水について、同タンクから集中廃棄物処理施設(高温焼却炉建屋)へ適宜移送を実施。
◆水処理設備および貯蔵設備の状況
・セシウム吸着装置運転中
・第二セシウム吸着装置(サリー)運転中
・淡水化装置 水バランスをみて断続運転中
・多核種除去設備(ALPS)ホット試験中
・増設多核種除去設備ホット試験中
・高性能多核種除去設備ホット試験中
・モバイル型ストロンチウム除去装置運転中
・第二モバイル型ストロンチウム除去装置運転中
・RO濃縮水処理設備運転中
地下水バイパス ~通算53回目となる海洋への排出を終了。排出量は1,204トン
3月12日午前10時7分、海洋への排水を開始。同日午前10時15分に漏えい等の異常がないことを確認。(既出)
同日午後2時57分に排水を停止。排水停止状態に異常のないことを確認。排水量は1,204m3。
H4,H6エリアタンク周辺観測孔(周辺排水路含む)の状況、タンクパトロール結果
◆最新のパトロール
3月12日のパトロールにおいて、タンクからの漏えいの兆候を早期に発見する目的で70μm線量当量率の測定を行っているが、一部実施できない箇所を除き、新たな高線量当量率箇所(β線による70μm線量当量率)は確認されなかった。堰床部に雨水が溜まった箇所については、雨水による遮へい効果により引き続き線量当量率は低い状態となっている。また、目視点検によりタンク全数に漏えい等がないこと(漏えい確認ができない堰内溜まり水内を除く)、汚染水タンク水位計による常時監視(警報監視)においても異常がないことを確認。
◆H4エリア
<最新のサンプリング実績>
地下水観測孔E-9を除き、前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
E-1の全ベータ値
2月27日採取 14,000Bq/L ※前日までの動きとは桁違いに上昇
2月28日採取 4,100Bq/L ※一昨日のトレンドに戻る
3月1日採取 4,300Bq/L
3月2日採取 44,000Bq/L ※前日から10倍規模の上昇
3月3日採取 16,000Bq/L
3月4日採取 21,000Bq/L
3月5日採取 19,000Bq/L
3月6日採取 9,200Bq/L
3月7日採取 7,500Bq/L
3月8日採取 7,500Bq/L
3月9日採取 18,000Bq/L
3月10日採取 38,000Bq/L ※前日から2倍以上に上昇
3月11日採取 34,000Bq/L
◆H6エリア
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
G-2のトリチウム値
2月26日採取 170Bq/L
2月27日採取 1,200Bq/L ※前日までとは桁違いに上昇
2月28日採取 610Bq/L ※前日から約半減
3月1日採取 220Bq/L ※急上昇以前の状態に近づく
3月2日採取 2,000Bq/L ※地下水バイパスの運票目標値をはるかに上回る
3月3日採取 1,600Bq/L
3月4日採取 1,700Bq/L
3月5日採取 900Bq/L
3月6日採取 960Bq/L
3月7日採取 4,800Bq/L ※前日までとは桁違いに上昇
3月8日採取 480Bq/L ※前日の10分の1に
3月9日採取 3,600Bq/L ※前日までとは桁違いに上昇
3月10日採取 1,100Bq/L
3月11日採取 1,800Bq/L
測定値が変動する理由がよく分からない。原発の隣町にある気象庁の観測点「浪江」の降雨量データを見ると、3月9日は89.5mmとかなりの雨が降っているが、10日は5.0mm、11日は0.0mm。東京電力は常々、測定値の変動と降雨量の連関を指摘しているが、線量の変動を降雨量以外の要素の存在も否定できない。数値変動のランダムさ加減は、地下貯水槽のデータの変動にも似ている。
1~4号機タービン建屋東側
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
1~4号機サブドレン観測井
新規事項なし
※「福島第一原子力発電所周辺の放射性物質の分析結果」のページでの該当するデータ公開も行われていない。
地下貯水槽
<最新のサンプリング実績>
前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。
1号機放水路 ~極めて高濃度の汚染を示す1号機放水路立坑の測定結果(3月12日採取分)「ゼオライト土嚢を設置しているから海への流出はない」という記載は誤り
<最新のサンプリング実績>
当該放水路上流側立坑水については、セシウム134、セシウム137および全ベータ放射能ともに再度上昇傾向にあることを確認。現在、当該放水路立坑水の放射能の上昇について調査を実施しているが、特定に至っていない。
引き続き、監視および調査を継続。
なお、当該放水路出口付近は既に埋め立てられており、またゼオライト土嚢も設置してあることから、放水路内の水が海へ流出することはないと考えている。
◆採取日(3月2日)→ (3月5日)→ (3月9日)→ 最新(3月12日)
<1号機放水路立坑水(上流側)>
セシウム134: 5,900 Bq/L → 11,000 Bq/L → 18,000 Bq/L → 23,000 Bq/L
セシウム137:20,000 Bq/L → 38,000 Bq/L → 63,000 Bq/L → 79,000 Bq/L
全ベータ: 26,000 Bq/L → 49,000 Bq/L → 70,000 Bq/L → 98,000 Bq/L
トリチウム: 360 Bq/L → 360 Bq/L → 390 Bq/L → (分析中)
<1号機放水路立坑水(下流側)>
セシウム134: 270 Bq/L → 380 Bq/L → 410 Bq/L → 2,100 Bq/L
セシウム137:1,100 Bq/L → 1,300 Bq/L → 1,500 Bq/L → 6,800 Bq/L
全ベータ: 3,100 Bq/L → 3,400 Bq/L → 3,300 Bq/L →10,000 Bq/L
トリチウム: 1,900 Bq/L → 2,000 Bq/L → 1,700 Bq/L → (分析中)
上流側の上昇に加えて、とくに下流側の増加が著しい。
東京電力は「ゼオライト土嚢も設置してあることから、放水路内の水が海へ流出することはない」としているが、ゼオライト土嚢は水を止めるための通常の土嚢とは違い、多孔質のゼオライトという鉱物をネット状の袋に詰めたもので、水を通しながら主にセシウムを吸着するもの。水を止めるものではない。1号機放水路出口付近には、トン袋に詰めたゼオライトが放水路の汚染水に底部が浸かるように設置されているが、汚染水は土嚢の間を通ってさらに下流側に滞留している。また、ゼオライトはすべての放射性物質を吸着することもできない。
ゼオライト土嚢を設置しているから流出はないというのは、明らかに誤謬である。
また、過去には、「1号機放水路の水位は地下水位より低い」「当該放水路は土砂により閉塞」と説明されたが(平成26年10月24日)、出口が埋め立てられて静水となっているとしたら、放射性物質の顕著な変動は説明できない。ゆっくりであっても何らかの水の動きがあるのは明らかだ。また、放水路よりも低い地層にも地下水の層があり、遮水壁基部よりもさらに低い場所で海につながっていると考えられるため、「海へ流出することはないと考えている」という根拠は薄弱だ。希望的観測に近いものにも見えてくる。
関連データ(東京電力以外のサイト)
以上、「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」平成27年3月13日分の変更箇所を中心にピックアップしました。
構成●井上良太
最終更新: