このニュース、どう受け止められるのだろうか。日本が世界各国で防災インフラ整備を支援する方針を国連の防災世界会議で発表するのだという。
政府は、仙台市で14日に開幕する第3回国連防災世界会議で「防災協力イニシアティブ」を発表する方針を固めた。今後4年間で、各国に日本の技術を生かして防災インフラを整備することや、防災システムづくり、人材育成などを掲げる。このほか会議で採択する各国の取り組み指針「行動枠組」に数値目標を盛り込むことも検討している。
日本が防災インフラ整備を支援 国連防災会議で発表へ:朝日新聞デジタル(2015年3月5日08時34分)明楽麻子、桑山敏成
記事によると、あらゆる開発に防災の視点を導入し、「防災先進国」としての技術を生かして災害に負けない強靭な社会づくりに貢献するのだとか。そのため2018年までの4年間、各国にソフト、ハードを支援。「ソフト面では防災関連法令の制定や防災に携わる人材育成など、ハード面では、事前の防災投資としてのインフラ整備や災害発生後の緊急支援、復興支援を行う。」(同記事より)
ちょっと待ってくださいよ。防災先進国などと謳っているが、東日本大震災で防災に役立ったハードがどれほどあっただろうか。ソフト面で見ても、さまざまな法律・規則・行政の慣習・一部企業の特別扱い等が、復興への大きな障壁になっているではないか。
今年の防災世界会議は仙台で開催されるそうだ。東北を訪れた約100カ国の人たちは、きっとエクスカーション(視察ツアー)として、被災地や復興工事の現場に出掛けることだろう。はるばる海外からやって来た賢い人たちは「防災先進国」で何を見、何を感じることになるのか。震災後4年経っても復興住宅がせいぜい各自治体に数カ所程度しか完成していない状況、今も続く仮設住宅での生活、高さ14.7m(奈良の大仏に匹敵)、基底幅80mのマンモス防潮堤…。
繰り返すが、東日本大震災の巨大津波で破壊されなかった海岸施設は皆無だ。ほぼ全滅と言っていい。壊れなかった物は施設が堅牢だったからではなく、たまたま津波の威力が比較的小さかった場所だったのだと考えるべきだろう。にもかかわらず被災した海岸線では、目下、予算垂れ流しの巨大防潮堤建設が進められている。巨大防潮堤は海岸の景観を破壊し、海の様子が見えなくなることで却って津波襲来時の危険を増大するばかりでなく、基礎部分の幅が高さの5倍にもなるため海岸の自然を破壊する。そんなハード優先の考え方を海外に輸出しようというのか。
あるいは、津波が到来したとき、水の重さで自動的に閉まる水門などの新技術も開発されているが、それらが本当に有効に機能するかは未知数だ。とてもじゃないが、胸を張って輸出できるようなものではない。
せっかく仙台で防災会議が開かれるのなら、その機会を活かして、いかに日本では東日本大震災からの復旧が遅れているか、その原因や問題点、インフラでは人々の命を守れなかったこと、将来発生する災害にどう対処するかといった課題にフォーカスし、世界中の賢い人たちを交えてともに議論する場にすべきだろう。
それがどうして海外に対して防災の支援なんて発想になるのか。その背景に何があるのか。そうまでして援助(まさか紐付き?)したいのか。日本人として恥ずかしい。少々品はないが「どの面さげて」という言葉まで想起される。
防災先進国だなんて恥ずかしいことを言わないでほしい。その前に、被災地のことをしっかりやってほしい。
天災地変は人の力をもって予防しがたく
最後に92年前、関東大震災の直後に摂政殿下(のちの昭和天皇)が詔書で示された言葉を引用します。ここには、本当になすべきことと厳に慎まなければならないことが明記されています。
惟フニ天災地変ハ人力ヲ以テ予防シ難ク只速ニ人事ヲ尽シテ民心ヲ安定スルノ一途アルノミ凡ソ非常ノ秋ニ際シテハ非常ノ果断ナカルヘカラス若シ夫レ平時ノ条規ニ膠柱シテ活用スルコトヲ悟ラス緩急其ノ宜ヲ失シテ前後ヲ誤リ或ハ個人若ハ一会社ノ利益保障ノ為ニ多衆災民ノ安固ヲ脅スカ如キアラハ人心動揺シテ抵止スル所ヲ知ラス
「関東大震災直後ノ詔書」1923年(大正12年)9月12日
天災地変は人の力をもって予防しがたく、ただ速やかに人事を尽くして民心を安定するの一途あるのみ。およそ非常の時に際しては非常の果断なかるべからず。もしそれ平時の条規に膠柱(琴柱を膠糊で固定してしまい、音の調子を合わすことすらできなくなること。状況に柔軟に対応できないこと)して、活用することを悟らず、緩急そのよろしきを失して前後を誤り、あるいは個人もしくは一会社の利益保障のために多くの人々、被災者の(生活の、心の)安固を脅かすごときあらば、人身動揺して抵止するところを知らず。
まさに92年前に摂政殿下が危惧して示された通りの状況が繰り返され、今日までも続いているのです。
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