あらためて津波の高さを考える

iRyota25

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スマホのカメラを望遠にして撮ったら、すごく恐ろしげな写真になってしまった。どこか昭和の時代のゴジラ映画に出て来そうな雰囲気に見えてしまうのは気のせいか。それは余談として、あらためて津波の高さについて考えたい。

この写真は陸前高田の国道45号線沿いにあるガソリンスタンド「オカモト」の看板。奇跡の一本松からもすぐ近くの場所だ。2013年1月につくられた追悼施設を今年の正月に訪れた時、向かい側のオカモトの看板を見て「あれ?」と気づいたんだ。

いつもオカモトを利用している地元の人も、「いつできたんだろう」とつぶやいていた。陸前高田で津波到達の高さを示す建物といえば、駅近くにあった米沢商会のビルを思い出すが、その周辺はかさ上げ工事の真っ最中。その代わりに、高田の町を襲った津波の高さを示すために、ほぼすべての建物がなくなった海岸沿いのスタンドの看板に高さ表示が設置されたということなのだろうか。

15.1Mという高さ。高さを比べてしまう感覚

オカモトの看板を見上げて、周囲の何もなくなった町の様子を見渡して、また看板を見上げていると高田の町を襲った津波の巨大さをあらためて思い知らされる気がした。それと同時に、苦い苦い記憶もよみがえってきた。

あそこは何メートルだったから被害も大きかったのだろうとか、10メートルにも満たない津波の高さだったのに、どうしてあんなに被害が大きいのだろうとか。

震災の被害状況がだんだん明らかになっていっていた時期、自分は津波の高さと犠牲者の数を結び付けて考えることが何度もあった。もちろん無意識にだったろうが。

たとえば3メートルの津波の高さというのが、歩行者用信号ほどの高さだとか、50センチの津波でも人は流されるとか、知識としては知っていても、被害を考える時に津波の高さをセットにして考えてしまっていた。

研究者の言葉にも同じような傾向が見られることもある。たとえば、昨年新しく原子力規制委員会委員になった石渡明(いしわたりあきら)さんは、次のように書いている。

1. 死者・行方不明者が最も多かったのは宮城県石巻市(4043人)であり,岩手県陸前高田市(2122人)がこれに次ぐ.石巻市は津波の浸水面積が最大であり(73km2),陸前高田市では18mの高さの津波が市街を襲った.死者・行方不明者が1000人以上に達するのは岩手県大槌町から宮城県東松島市までの6つの市町村で…

(中略)

4. 深刻な津波被害を受けた岩手県宮古市から宮城県東松島市までの範囲内では,岩手県大船渡市の人的被害が比較的小さかったことが目立つ.同市綾里(りょうり)の白浜では津波の高さが26.7mに達し,これは宮古市田老の37.9mに次ぐ高さであり,大船渡港にも10mを超える高さの津波が来ていて,これは山田町や釜石,気仙沼と同程度である.死者・行方不明者の数(448人)においても,その人口比(1.0%)においても,大船渡市の被害が周辺市町村に比べて顕著に少なかった…

(中略)

末筆ながら,今回の地震・津波で亡くなられた方々のご冥福をお祈りし,被災された方々にお見舞い申し上げる.

日本地質学会 - 東日本の太平洋沿岸各市町村の2011.3.11津波による人的被害について

「東日本の太平洋沿岸各市町村の2011.3.11津波による人的被害について」の資料
「東日本の太平洋沿岸各市町村の2011.3.11津波による人的被害について」の資料

www.geosociety.jp

客観的なデータに基づいて考える必要があるから仕方がないのかもしれないが、亡くなられた方への冥福をお祈りし、被災された方々にお見舞い申し上げるような気持ちを持っていても、数値から何かを引き出そうとする。石渡さんがどうのということを言いたのではない。たとえ、研究者でなくても、数字と数字を引き合わせて何かを理解しようとする傾向はあるように思う。

データも何も無力化させるほどの猛威

もちろん客観的なデータから新たな知見が得られることもあるだろう。しかし、そうでないケースもある。

自然災害が振るう猛威はあまりにも大きく、人の知を無力の極みに追いやってしまうことを私たちは知っている。東日本大震災からは離れるが、関東大震災で発生した火災旋風では、火がまだ回っていない周辺でも突風が吹き荒れ、鉄板やトタン板が空中を舞い飛び、避難しようとする人々は刀で切られたようにして亡くなっていったという。周囲が火焔に包まれると、ふっと踊るように伸びてくる火の手に触れた途端に、人間が生きたまま発火したという。火災の関連でいうなら、2009年に発生したオーストラリアの巨大な森林火災では、時速100キロのスピードで火の手が延焼していったという話もある。

想像を絶する猛威。その前に立つと人間はあまりにも無力だ。トタン板が刀のように舞い飛ぶ状況や、時速100キロで延焼する火災を目前にした人のほとんどは、おそらく命を落としてしまうだろう。私たちがそれを知る事ができるのは、奇跡的に生還した人の言葉だけで、そのような状況からどうすればサバイバルできるのかということは、もちろんそれが可能なら言い伝えていきたいが、とにかく猛威の届かぬ場所に逃げるしか、生き延びる方法はないだろう。

陸前高田では新たな町を造るため、かさ上げ工事が進められている。人工衛星からでも間違いなく見える驚くほど巨大なベルトコンベアーを使って、通常の何倍ものスピードでかさ上げが進められている。その高さは14メートル前後。オカモトの看板に記された15.1Mにほぼ等しい。巨大な工事システムを導入したことで、工期は通常の何分の一にも短縮され、2年半で工事は完了予定だという。

しかし、かさ上げに匹敵する高さの津波を地球の自然は一瞬のうちにつくり出し、地震から30分ほど後に陸前高田の町は破滅的な津波に襲われた…。

自然の力は桁が違う。その前にあって人間は無力に等しい。オカモトの看板を引きで撮影するとこんな感じだ。この高さで津波が襲ってきたという。それも静かに水を溜めていくようにではないのは誰もが知っているところ。

人知をはるかに超える脅威。看板にゴジラ映画のような禍々しさを感じたのも、故なきことではないのかもしれない。

いまあらためて津波の高さを考えたい。

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