東京電力は12月3日付で2種類の地下水バイパス一時貯留タンク分析結果を発表した。ひとつは12月4日以後直近での海洋排出が予想される[11月23日サンプル採取]のデータ。もうひとつは[11月3日サンプル採取]の詳細データで、こちらのタンク水はすでに海洋排出が実施されている。
放射性核種の中には分析に時間がかかるものもあるので、簡易的な測定で放射性物質濃度が十分に低いことを確認した上で海への排水は行い、その一方で、後追いになっても詳細な分析を行うという運用になっているようだ。
今回発表された[11月3日サンプル採取]について、海洋排出が実施される前に発表されたデータと、海洋排出後の詳細分析について比較してみよう。
検査に時間をかけて、より詳細な測定値を出そうという姿勢は見られるが…
上の表は、同日同時刻にサンプル採取されたグループ2タンク水の分析結果。左は11月11日に発表されたもの。右は本日12月3日付で発表された詳細分析結果。上記の通りこの水はすでに11月12日に海洋排出が実施されている(通算33回目)。
比較すると、右の詳細分析では「全アルファ」「ストロンチウム90」が追加され、左の表からは「貯水量」と「その他ガンマ核種」の2項目が削られている。
また、セシウム134、セシウム137では検出限界値(ND表記の後のカッコ内の数値)が数ケタ引き下げられている。これはより長い測定時間をかけたことを示している。
ストロンチウムの分析には時間が掛かる
しかし、左右の表の全ベータの検出限界値は、セシウムと違ってほとんど違いがなく、「詳細分析」とは言い難いものになっている。その理由はなんなのか。
海洋排出でストロンチウム90の濃度が注目を集めているのはご存知の通りだ。たとえば海水1リットルあたり1ベクレルのストロンチウム90が存在すれば、魚類ではキロ当たり100ベクレルを超える可能性があるとも言われている。100ベクレルは国の定めた基準値だから、食用の魚類でこれを超えるものが出ると大変な騒ぎになることは間違いない。だから、地下水の海洋排出では、セシウムとともにストロンチウムが排出されないことが極めて重要視されている。誰もが納得する高いレベルの安全性を担保しなければ海洋排出など認められない。
ここで不都合なのは、ストロンチウム90の検出に通常約4週間という長い時間が掛かることだ。これでは地下水の排出が進まないからというわけなのかどうか、排出直前発表の左データではストロンチウム90の測定値はなく、「全ベータ」の数値が発表されている。全ベータが低ければ、その線量の一部を占めるストロンチウム90が高いことはありえない。だから、海に排出してもいいという方針で地下水バイパスは実施されてきたということだ。
しかし、全ベータの測定では核種を特定することができないので、海に排水してから約3週間経過した後になってでもいいから、ストロンチウム90が「本当に低かった」ことを発表しているということなのだろう。
大切なことは「安心」を担保すること
理屈は理解できる。それに、測定結果が「0.0014」まで計っても検出されなかったというのは相当低い値なのだろう。
しかし全ベータは2ケタ違う「0.85」だ。これではデータとしての整合性がとれない。検出限界というのは、その数値未満の放射線量がありうるということだから、「それ未満については判りません」ということだからだ。
このような検査データからでは、ストロンチウム60以外のベータ核種の存在を推測することすらできない。問題として注目を集めているストロンチウムやセシウムだけではなく、あらゆるベータ核種について個別に測定するくらいの取り組みが必要なのではないか。すでに、現状の運用でも詳細分析の結果公開は海への排出が行われてしまった後という運用が行われているのだ。時間が掛かってでも、もっと詳細な分析情報を出してくれる方が、漁業関係者のみならず人類共通の財産である海に対する「安心」を担保することにつながると考える。
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