時間がゆっくり流れていく。
夏の終わり、ランチタイムを少し過ぎた頃。
お店にはお客さんがまだたくさんいて、あちこちでお喋りの花が咲いていた。
やっと歩けるようになったくらいの女の子がふたり、
隣の席に坐った女性の方へ、よちよち歩いたり、ばたんとこけて、はいはいしたり。
女性のバッグの動物のマスコットに関心があるのかと思ったら、
どうやら家族以外の人が気になって仕方ない時期らしい。
ネットや雑誌の情報を頼りに東京からやってくるお客さんがいる。
すぐ近所から時々ランチに来るという人もいる。
遠方からのお客さんを案内してくる地元の人もいるみたい。
ざわざわ、ちょっとにぎやかな雰囲気もあるのだが、
Cafe はまぐり堂には小さなこどもの遊ぶ姿もよく似合う。
ざわざわ、ちょっとにぎやかな雰囲気もあるのだが、
不思議と空気の静謐さは保たれている。
小さなレディふたりと遊んでいた女性のお連れさんたちは、
縁側で伸びをしたり、椅子の座り心地を味わったり。
流れていく時間を思い思いにたのしんでいるみたい。
ふと気づいたら、オーダーしてからけっこうな時間が経っていたけれど、
今日はキッチンとフロアを3人で回していて大変だなってわかっていたから
気にならない。
いや、それ以前に、カフェの中、さまざまな場所に記された、たくさんの物語をひとつひとつ楽しんでいたら、
時間が経つのを忘れてしまう。
アンティークな家具、大きな神棚、
アジアンテイストなランプシェイド、
縁側に置かれた将棋盤(テーブルとしてもどうぞ)、海が見える特等席のソファ、
玄関わきに置かれた大きな時計(何某さんが水産高校に寄贈した物を水産高校からプレゼントしてもらったらしい)、平井慶祐さんの海の写真…。
ここには物語のないものが何一つ存在しない。
革表紙の本を開いていくように、未知の世界にどきどきしながら、
たくさんの品々や、家そのものに込められた物語を読み進めていけばいい。
そんな空気の中、こどもたちの声が、すーと吸い込まれていく。
そうかと思えば、
オープンの日のコンサートのこととか、
キャンドルナイトのこと、
そして、
その夜、畳の上にぽたりと記された綺麗なしずくのこととか、
自分がこの場所で体験した物語までもが、
家そのものや調度からあふれ出してくる。
まるで時間と記憶を呼吸しているかのような場所。
そう、あれはこの畳の上だったな…と感慨にふけっていたら注文の料理が出てきた。
注文したのはキッシュプレート。
料理を運んでくれたきょんちゃんに料理の説明をお願いすると、
「今日のキッシュはひき肉とジャガイモ。味付けにクミンを使っています」
もしかして、キッシュの生地は? と尋ねたら、
「はい、生地は私が焼いてます。中身はヒロ兄作ですよ」
まるで「エヘッ」と言うみたいな表情で答えてくれました。
できるだけ地元の食材を使い、徹底して手作りにこだわっているはまぐり堂の料理。
和食の達人ヒロ兄と、きょんちゃんパンの移動販売でも有名なきょんちゃんの合作。
ね、Cafe はまぐり堂には物語のないものなんて、何ひとつないのです。
住所:宮城県石巻市桃浦字蛤浜18
カフェの営業時間 Open 10:30 Close 17:00
営業日:毎日(水曜定休)
Cafe はまぐり堂
牡鹿半島の付け根の小さな浜ではじまった物語に参加しよう!
●TEXT+PHOTO:井上良太(ライター)
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