東北の友人たちが言うことには。その7「淡々となすべきことを」

iRyota25

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今回は聞いた話ではなく、知り合いとして見ていて感じることです。

福島の『ほよーん』に込められたもの

2012年6月21日に国会で成立した「原発事故子ども・被災者支援法」(正式名称:東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律。)が、1年近くたなざらしにされています。

昨年5月、子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク(子ども福島)の吉野裕之さんに会った時、

「この法律が国会を通れば、福島のこどもたちを県外での保養に送り出す上で、大きな力になる。」

と期待を込めて話していました。国会では超党派の賛成で可決される可能性が高い、とも言っていました。そして吉野さんの言葉どおり法律は成立。成立はしましたが、放射能に汚染された地域で生活している人たちを支援する具体的な動きには至っていないのです。

吉野さんが「保養」と呼ぶのは、県外などへの一時避難のことです。空間線量が高い地域では、こどもたちは外遊びを制限されるなど、大きなストレスがたまっています。

「放射能を心配しなくてもいい環境で、のびのびと生活することで、精神的にも肉体的にもリフレッシュできます。何年という長さで避難することができない人でも、一時的に避難することで、生活の場所を移すことなく、放射能の影響を抑えることができるのです。だから私たちは、受け入れを希望してくれる県外の人たちと、一時避難したい人たちを橋渡しする活動を行っています。」

吉野さんによると、できれば2カ月、少なくとも1カ月ほど避難すると、とくにこどもたちには肉体的にも被ばく線量が低下する効果がみられるといいます。
「おそらく――」と吉野さんが解説してくれたのはこんな理由でした。

体内に取り込まれた放射性物質は、すべてが体の中に蓄積されるのではなく、核種によりますが体外に排出される分も少なくありません。しかし、放射線量が高い場所で生活していると、体内に放射性物質を新たに取り込み続ける状態になるので、せっかく体から排出されても、トータルとして減りにくくなると考えられます。だから、放射線量が低い場所で数カ月間生活することで、自然に体外に排出される放射性物資の分だけ内部被ばくを減らせるのでは――というのです。

避難先から戻った後は、
・放射性物質を取り込まないように、いっそう気を付けて生活する
・内部被ばくを定期的にチェックし続ける
・定期的に一時避難に参加する
などの方法を提案しています。いずれも吉野さんの仲間たちの活動を利用することで実現可能なメニューなのです。

となれば、仕事の都合など様々な理由から、放射線量が高い場所で生活し続けなければならない人たちにとって、もう迷うことはないのではと思えてきます。しかし、吉野さんは「そうじゃない」と言います。

「避難したくない。避難したいけれどできないなど、線量が高い場所から避難しない理由は人それぞれです。それにたとえ一時的なものであっても『避難』という言葉を使うと、避難しなければならないという強いニュアンスを与えてしまう。避難しない自分たちは何なんだ、という気持ちにさせてしまってはダメなんです。だから『保養』。この言葉ならバカンスみたいで楽しそうなイメージに感じてもらえるでしょう?」

さらに、保養にとどまらず、吉野さんは『ほよーん』との呼び方まで提唱し、実践している。

本当のことを言うと、吉野さんは2011年3月11日、東電の原発事故が起きる前の福島に戻してほしいのです。それができないと分かっているから、危ない場所に住んでいる人たち、とくにこどもたちには、何とかして避難してほしい。放射能の影響を極力抑えられるような生活を送ってほしいと切望しているのです。

まるでおどけたような『ほよーん』という言葉ですが、ぎりぎりまで突き詰めた上でのものなのです。

たなざらしにされても、やるべきことを淡々と

先に「たなざらし」と書きましたが、正確には法律成立から約9カ月後の2013年3月15日、原発事故子ども・被災者支援法を実施する上での政策パッケージが、復興庁から発表されています。
しかし、その内容はあまりにも不十分。法律が成立する以前から実施されている施策がほとんどでした。ほとんど何も変わっていないものが示されただけだから、たなざらしと何ら変わりありません。

吉野さんたちは、復興庁がパッケージを発表したその日に、

「原子力災害による被災者支援施策パッケージ」に関する緊急声明
~原発事故子ども・被災者支援法の理念と
深刻な被害実態を踏まえていません~

との声明文を公表。

みんなすごく怒っているのです。

そして、いま。こども福島のホームページ上では、これまでどおり淡々と、保養や計測結果などの情報が掲載され続けています。たとえば、

さっぽろで夏休み2013        05/23 14:07
~五頭の森・お宝探し道草調査隊~  05/22 10:41
4月12日郡山市磐梯熱海温泉計測  05/19 20:36
平成25年4,5月の福島市汚染マップ  05/19 16:29

といった感じ。ほよーん情報も、北海道、新潟、岩手、兵庫、沖縄、韓国など、夏休みを控えて充実しています。

原発事故子ども・被災者支援法を実のあるものとして機能させることは、必ず成し遂げなければならない重大事です。しかし、だからといって、いま目の前にある仕事を放り出すことはできません。

昨年の同じ時期のホームページと変わりなく、ほよーんを中心に、こどもたちのために為すべきことを淡々と行う。

私は、吉野さんたちの、そんな姿勢にうたれてしまうのです。

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文●井上良太

最終更新:

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  • H

    habihabi64

    福島の人はふる里をあきらめて避難するべきただいう意見を聞き違和感を感じたことあります。避難したくてもそこから動けない人もいるはずだからです。ふるさとを離れた人残る人、どちらが正しいかなんて話してはいけないと思ってしまいます。福島の子供たちが元気に外で遊べる機会が増えることを願っています。ほよーんの取組すごいです!応援しています。

    • I

      iRyota25

      ホント、そこがポイントなんだと思います。自分もね、
      「最愛の親友と南相馬を離れるかどうかで意見が分かれて、それ以降、親友なのに話をできなくなったという話を聞いた。あってはならないことが、当たり前のようにあるのです。どうする?俺たち?