海岸から町に進出した、ちょっと渋めのメタリック
春の香りがただよう河原で、季節の変化をさがして歩いていたら、この辺ではあまり見かけない鳥が川面をすーっと直線的に飛んでいきました。大きさはヒヨドリを少し小さくしたくらい。上面は黒っぽいけれど光を受けると青くメタリックに輝きます。そしてお腹はレンガ色。
ぱっと見た目は地味なんだけど、なかなかのお洒落さんです。たとえるなら、羽織の裏地にこだわった江戸の町衆の粋な趣味に通じる、とでも言ったところ。姿かたちも粋だけど、声がまたいいんですね。少し離れた護岸の上に留ってチー、チヨ、ヒヨと綺麗な声で複雑にさえずりました。その鳥の名はイソヒヨドリ。「イソ」に住む「ヒヨドリ」ということで名づけられたんですね。でも、ヒヨドリとは飛び方も鳴き方も違っていて、実はツグミの仲間。だからさえずる声も美しいんです。「イソ」の方はほぼ正解で、もともとは海岸沿いでよく見られる鳥でした。
でも、その時イソヒヨドリに出会ったのは、伊豆半島を流れる狩野川の支流の大場川のさらに支流の沢地川の中流。海から川を遡ること10キロほど。沼津や三島といった町を通り抜けた田園風景の中でした。そうなのです。イソヒヨドリは生息域拡大中の鳥なのです。もともとは岩礁や荒磯を好んで住んでいましたが、河口付近の岩地、川の上流の岩地、石切り場や石垣などへと生活の場を広げ、最近では海に近い都市のビルなどでも繁殖するようになったのだとか。
どうりで、海の鳥というイメージの強いイソヒヨドリを町中などでも見かける機会が増えてきたわけです。ところが調べてみて驚きました。イソヒヨドリの学名は「Monticola solitarius」と言います。これはなんと、山に住む独り者という意味なのです。イソヒヨドリはヨーロッパからアジアにかけて広く分布していて、海外に住む仲間たちはの住み家は2,000メートル以上の高山帯。ヒマラヤ山脈の4,000メートルの岩場に住んでいるイソヒヨドリもいるそうです。
「イソ」なんて名付けたのは人間の勝手な思い込みで、本当は環境適応能力が高い鳥なのですね。もしかしたら、今後さらに生息域を広げて、今よりずっとメジャーな存在になるかもしれません。東京や横浜といった大都市で、濃紺と褐色を合わせたような渋~いメタリックカラーと、ちょっと小粋なレンガ色のお腹で美しくさえずる鳥を見かけたら、「これからよろしく!」と挨拶してあげてください。
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冒頭写真の解説
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Monticola_solitarius_philippensis.JPG?uselang=ja
利用者の知人による撮影 (2006年5月14日、京都府丹後町経ヶ岬で撮影) (知人の承認済)
日付:2006年5月15日 (当初のアップロード日)
原典:Originally from ja.wikipedia; description page is/was here.
作者:Original uploader was Jojo2000 at ja.wikipedia
最終更新: