【シリーズ・この人に聞く!第133回】精神科医、作家 岡田尊司さん

「愛着障害」というテーマで多くの著書を世に送り出している岡田尊司先生。親子関係に着目して、どのように改善すればより良い関係性を築けるのか?を指南する最新刊は、特に子どもに関わるすべての人におススメです。この「愛着障害」とはどういう症状を指すのでしょう?それを知ることで何がどのように変化するのでしょう?数多くの症例に向き合う岡田先生にじっくりお聞きしました。

岡田 尊司(おかだ たかし)

1960年香川県生まれ。精神科医、作家。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。山形大学客員教授。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院高次脳科学講座神経生物学教室、脳病態生理学講座精神医学教室にて研究に従事。著書に『愛着障害』『回避性愛着障害』『愛着障害の克服』(以上、光文社新書)、『ストレスと適応障害』『発達障害と呼ばないで』(以上、幻冬舎新書)、『働く人のための精神医学』『パーソナリティ障害』(以上、PHP新書)、『母という病』(ポプラ社)、『マインドコントロール』(文藝春秋)、『愛着崩壊』(角川選書)など多数。小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『DZ』『手のひらの蝶』『風の音が聞こえませんか』(以上、角川文庫)などの作品がある。

子どもの問題解決には、まず親の変化から。

――「愛着障害」というテーマでたくさんご著書がございます。何がきっかけで執筆を始められましたか?

医療少年院で精神科医として長く務め、そこで罪と病という二重の困難を抱えた少年たちと向き合ってきました。精神障害や発達障害をもち、育った環境も過酷で、大変な子が多かったです。でも、初めは強がって突っ張っていても、だんだん彼らが育ってきた中で傷ついてきたことがわかります。家庭環境の問題は大きいと昔から言われ、単なる「環境の問題」と捉えられてきた。しかし「愛着障害」という視点をもつと、もっと深い意味が見えてきました。子どもたちへのアプローチも変わり、難しいケースの回復にも役立ちました。4年前にクリニックを開業し、子どもの症状だけを診るのではなく、親子の関係を見直すことで、根本的な改善をはかっています。一般家庭のケースでは、ずっと容易に回復することを実感しています。

――具体的にどのような親子関係になると、問題が改善されるのでしょうか?

虐待までいかなくとも、親の期待やルールで子どもを縛って、子どもが行き詰まりを感じているケースが多いのですが、そこに親は気づいていない。子どもの問題というより親が子どもの「安全基地」になれず、その結果、愛着が不安定になっている。大人は何か問題が起こった時に「問題を解決すればいい」と思いがち。症状があったらそれを改善すればいいという、いわば対症療法です。でも、それでは改善しない。むしろ、肝心なのは親が「安全基地」になって、愛着を安定化することなのです。

――例えば、子どもの不登校という問題に直面した時にはどうすべきですか?

とにかく学校へ行ければ問題は解決するので、そのために何か方法はないか?と、心配された親御さんが訪ねてこられます。しかし、子どもの背景をよく探ってみると学校や家庭が安全基地になっていない場合が多い。愛着の面で傷を受けてしんどくなっている。その現れ方の一つとして、学校に行けなくなっている。安全基地としての機能を高めていく働きかけをすると自然に元気になっていく。学校がそもそもその子に合わないというケースもありますから、学校へ行けるようになるのが、必ずしも解決ではなく、その子がその子らしく生きていけることが大事。そのためには、子どもが親に本音を出せるような関係を作っていくのが大切です。

――子どもに良かれと思って言ったりやったりすることが逆に足枷になるのでしょうか?

親の期待、こうすべきだということが子どもはわかっているので、そこに呪縛されてしまう。安全基地としての機能を高めることで関係改善して愛着の土台がしっかりしてくると元気になる。愛着は「執着」という捉え方をされることもあります。なぜそこまでこだわるのかというと、命の源そのものだからです。たとえば植物にとったら水や太陽と同じような命の源。しっかりと養分を与えられていれば放っておいても伸びていくものです。

自信満々な時より、振り返りながら人は成長する。

――愛着は命そのものなのですね。わが家の息子は文句を言う癖に、私が作ったご飯はぺロリと完食します。家で食べることが安心感になっているのでしょうか?

生物学的な意味で、安心感は生きる土台でもあり、命を支える力を持っています。愛着が安定したなかで育ってきた子どもは、持っている力を最大限に発揮できる。愛着が不安定な中で育ってきた子は100の能力を持っていても、50も発揮できない。知能すら左右する。だから「勉強しろ」と口うるさくいうのはあまり意味がない。むしろその子が安定して気持ちを吐露できる関係があれば、その子にとって支えになるのです。

大阪府枚方市で、こころの「安全基地」を提供する心と発達の専門クリニックを営む岡田先生。

――親も手探りでしかないのですが、思春期の子にはどのような心掛けが必要ですか?

その子の支えになるためには、どういうことをすればいいのか?をわかっていくと自然と改善されます。中には親が自分の価値観やルールに囚われてなかなか関係性を変えられないケースもありますが、押し付けや指導ではなく、「安全基地」に徹することが、子どもを最大限エンパワーすることが理解されれば、徐々にかかわり方が変わっていきます。

『誇大自己症候群』あなたを脅かす暴君の正体(朝日文庫)

――読み進めるうちに何度も繰り返し読んでしまう文章がたくさんあって、涙がたくさん出てしまいました。自分自身を振り返るとむしろ子どもが小さな頃の方が、これでいいんだと自信をもっていたのですが、成長した今となってみると、あの時こうしていればよかったのでは?と思うことも多くて。全力で応援してきたつもりでも、他にどうすればよかったのだろうか?と。

子どもの本音に向き合えているか?自分の考えを押し付けていないか?と振り返って考えることはとても大事だと思います。自信満々でこれでいいと思っている時の方が、全く見当はずれのことをしている場合が多い。親がこうすればうまくいくのに…と思いこんでいるところに案外落とし穴があるものです。迷ったり、悩むことがむしろ大事です。自分の子どもだから、親に従えばいいではなく、何を感じ、何を求めているのか、本人も手探りですし、親も、本人が「主役」だということを忘れず、遠慮がちに見守ることです。

――強がって素直になれないタイプの一方で、気持ちに蓋をするタイプの子には関わりを持とうと試み続けることが大切ですか?

誰だって、本当は心を開きたいのです。ただ、鎧を解くためには、こちらではなく、その子自身の関心に焦点を合わせることが大事です。こちらが聞きたいからと、本人に気持ちを話すように強いてもしんどいだけです。愛着の基本は「応答性」で、求められたら応えるという関係。少しずつ言葉をやり取りして相手の反応をみて、それにチューニングしていく。他人ならできても、親子など近い関係だとつい忘れて侵害してしまう。思春期になってくると一人の人間として尊重することが必要です。

やりたいことを持てる主体性を育む。

――先生のお話しのされ方は包容力があって心開いて語りたくなるのですが、小さな頃から温和な物腰でいらしたのですか?

もともと話をするのが好きでしたが、大学時代に精神的に悩んでいる仲間と「語り合う」ことをよくしていました。合計10年間大学に通っていましたのでね。前半の5年くらいは語り合う経験を重ねて、その頃のことが自分のベースになったのだと思います。高校卒業するまでのんびりした香川県の環境で過ごしました。野山を駆け巡る子ども時代で、当時は塾もなくて、書道教室はあったかな。小学校は1学年1クラスしかなくて30名のクラスメートでした。最近になって遂に廃校になってしまい残念です。

「安全基地」とは、春のひだまりのような存在。

――のんびりした環境でお育ちになられて、今の子どもたちをどのようにお感じになられていますか?

どんどん変動する社会の中で何よりも大事なのは、やりたいことを持てるかどうか。今の子どもがかわいそうだなと思うのは、「これがやりたい」という子が少ないこと。小さな頃はあっても、本当に進路を決めなくてはならない時には、「別にやりたいことはない」となってしまう。主体的な進路決定ができない背景をみると、親の価値観が優先され、その子の個性が腐食されている。もともとやりたいことがあっても、いつしか薄まってしまう。苦労してまで夢を叶えるより、これ以上面倒なことはしたくないと、親が示す舗装された道を進んでしまう。別にそちらに進みたいわけではないから、簡単にやめてしまったりする。親は子どもを誘導するのをいかに克服できるか?ではないでしょうか。

――「愛着障害」を拝読して感じたのは、親の言いなりに従う良い子が、自我の芽生えと共に無気力になったり、気持ちを伝えられなかったりするように思いました。良い子が必ずしも良いわけでない、というか…。

たとえば強制収容所にいる人が、看守の顔色だけ見て暮らすように、親が安全基地でない子どもは、人の顔色に合わせるようになる。主体性をもてず、対人関係にも問題が生じやすい。本音を言ったり、自分の気持ちを伝えたりできない。家庭という収容所で、親という看守の顔色を窺いながら過ごす癖が身についてしまっている。ずっと強い支配を受け続けてくると、感情を失ってしまうのです。たとえ支配から解放されても、自分で何かを決めたりできなくなってしまう。そこから回復するのに、10年、20年かかることもある。それくらいマイナスの影響があるものなのです。

――先生から子どもを育てる親へ、これだけは押さえてほしいというアドバイスをお願いできますか?

子どもの一番の応援団長でいてほしい。そのためには、子どもの安全基地になること。いちいち細かな口出しをして野次ったりするのはいけません。細かいことを言い過ぎると主体性を侵害してしまう。親がどれだけ自分を振り返ることができているか。何か問題が起きた時に、すぐ解決できるようなアドバイスや助言をしてしまう親は要注意です。もちろん子どもがそれを求めているのでしたら一緒に考えてあげればいい。子どもが求めていないのに、つい親が改善策を提示してしまうタイプは、仕事ができる人に多いのです。仕事ができる親が子育てでつまずきやすいのは、ビジネスと同様に問題解決をしたがるから。子どもが自分で問題解決できるようにするのが、いい安全基地。それには、求められていることだけに応えればいい。子どもが何を求めているのかをよく見極めて、ちょっと控えめに応えてゆく。常に過剰反応しないという心掛けが大切です。親の道は修行ですよ。

編集後記

――ありがとうございました!以前に岡田先生の本を拝読し、これは絶対お目に掛かってお話をお聞きしたい!と熱望しておりました。子どもが小さな頃はかわいいので無条件にすべてを受け入れて自信をもって「私が安全基地」といえたと思うのですが、まもなく成人する我が子をみて今、自分はどうだったろう?と振り返ることが多々あり、取材でありながら半ばカウンセリング的なインタビューとなりました。百の励ましの言葉より、伴走してくれる一言を頂けたことでとても力をもらえました。気づきは先生の著書からも感じて頂けます。これからも人生のバイブルとして読み返していきたいと思います。ありがとうございました。