東京電力が保有する3カ所の原子力発電所で相次いだ重大な人身事故発生を受けて、東京電力福島第一原発では、1月21日から廃炉作業を中断して安全確認を行ってきた。1月26日付で発表された「福島第一原子力発電所における安全点検是正処置の実施状況について」はその中間報告的ものだ。ページには3カ所の現場での是正前後の写真合計6点が掲載されている。その中の1点に、考えれば考えるほど状況がよく分からないものがある。
いくらなんでもこれは危ない!
直観的に「これは危ない」と思える状況だろう。角材で引っ掛けただけのマンホールの蓋は、まるで落とし穴だ。もちろん工事現場でもこの状況はありえない。
しかもこのマンホールの蓋にはロック機構が着いているように見えない。その上、よく見ると通常よく見かける重たい鋳物製の蓋ではなくグレーチンング(網)だ。
なぜロック機構のついていないグレーチングの蓋が使われて、なおかつ半開きの状態で放置されたりしているのか、その理由を考えていくと、この状況の「ありえなさ」がより鮮明になる。というか、ますます訳が分からなくなる。
フェーシングは雨水の地面への浸透を防ぐ工事
フェーシング工事とは、福島第一原発の海に近いエリアを中心に、地面を舗装するなどして被覆するために行われている工事。その目的は、雨水が浸透することでの地下水位の変動を抑えること。また原子炉爆発などで周囲に飛散・降下した放射性物質が発する放射線を防ぎ、作業環境の安全性を高めることや、放射性物質が雨水とともに地中にしみ込まないようにとの狙いもある。
工事現場は「地下水バイパス周辺」とのことだが、揚水井から一時貯留タンク、さらに排水口まで発電所内の広い範囲に地下水バイパスの施設があるわけだから、この場所がどこなのかは示されていないのも同然だ。地下水バイパスの管路からは離れているが、たとえば護岸近くのフェーシング工事では、雨水だけを既存護岸と遮水壁の間の砕石を敷き詰めた場所に導いて、海に流し込むための工事が進められている。(下図参照)
いずれにしろ、地中に水が染みこまないようにするのがフェーシング工事の主眼である。
謎が謎を呼ぶあまりに不可解な状況
安全点検で是正処置が行われた後の写真を見ても、単管を組み合わせたガードが設置されただけでマンホールの形状もホースやコードの状況は変わらない。このマンホールで行われている作業は今後も継続されるということなのだろう。
この状況がどれほど不可解なものなのかを読み解くヒントは、ホースとコードにある。ホースとコードがマンホールの中でつながっているとしたら、そこには水中ポンプが設置されていると考えるのが妥当だ。水中ポンプは水を吸い込む側に設置するものだから、マンホールの中にはポンプを使ってでも排出したい、何らかの種類の水が溜まっているということになる。
マンホールが設置されているということは、管路などの地下構造物があるとか、やむを得ない事情があるのかもしれない。しかし、コンクリート製の管路は継ぎ目の目地の部分からどうしても水が漏れる(トレンチでもそうだったように)。できれば地下の管路に水を入れたくないはずだ。
そうだからこそ、マンホール内に溜まった水を汲み出すために水中ポンプが入れられ、そのためにマンホール蓋が半開き状態で放置されるという、安全上きわめて危険な状況があったわけで、単管のガードまで設置されたということだ。
しかし、思い出してほしい。このマンホールの蓋は金網だ。当然のことながらグレーチングには排水という機能が持たされている。
例えてみれば防水のための板の真ん中に穴を開けてザルを嵌め、ザルから漏れた水をわざわざポンプで吸い出すという仕組みを、ガードまで設置して守っている図なわけだ。この工事は一体何を意図したものなのだろうか。
マンホールの蓋が半分開けられた状態だったことは、労働安全上ありえない事だ。しかし同様にこの写真の状況そのものがありえない。
この写真はいったい何のために発表されたものなのだろうか。疑問しか残らない。