[コラム]漏れたのは雨水ではない

iRyota25

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東京電力は、6月3日付の「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」と報道各位一斉メールで「タンクエリアに設置してある4,000トンノッチタンクからの水漏れについて」公表した。

漏えいを起こしたタンクの中の水の検査結果は示されているものの、溢れたのが雨水だととられかねない表現があるので、その点について。

※平成26年6月2日午後3時頃、汚染水タンクエリアに設置してある4,000トンノッチタンク群における2つのタンクの側面上部のボルト付近から水が漏れていることを、パトロール中の原子力規制庁保安検査官が発見。

その後、当社社員による現場確認において、当該ボルト部から1秒に1滴程度の水漏れがあることを確認。当該ノッチタンクには汚染水タンク堰内に溜まった雨水を溜めている。漏えいした水は堰内に留まっており、堰外への漏えいはない。午後7時40分頃、当該タンク群の水を別のタンク群に移送して水位を低下させたことにより、漏えいが停止したことを確認。

当該タンク内水および堰内溜まり水を分析した結果、セシウム134と137はいずれも検出限界値未満、全ベータ値は当該タンク内水では72,000Bq/L、当該タンク堰内溜まり水では9,800Bq/Lだった。

なお、堰内雨水の排出基準(※)と比較すると、セシウム134と137は排出基準を下回っているが、全ベータ値については、堰内雨水のストロンチウム90の排出基準と照らし合わせて高い値となっている。

(中略:「参考 堰内雨水排出基準」)

また、当該タンク内水の分析結果に比べ堰内溜まり水の分析結果の値が小さくなっているのは、タンクから漏えいした水が堰内に溜まっていた雨水と混ざり薄まったものと考えている。

<当該タンク内水の分析結果(6月2日採取)>
セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:13Bq/L)
セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:18Bq/L)
全ベータ:72,000Bq/L
<当該タンク堰内溜まり水の分析結果(6月2日採取)>
セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:12Bq/L)
セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:17Bq/L)
全ベータ:9,800Bq/L

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成26年6月3日

漏れた場所は、雨水ノッチタンクらしい。ノッチタンクとは箱のような形をした鋼製タンクで、昨年5月に緊急受け入れ用タンクとして地下貯水槽とHタンクエリアの間に増設された。当初は「あくまでも緊急」ということだったが、昨年秋の大雨や台風でタンクエリアの堰内の水が溢れたり、溢れそうになった際の移送先として使われた。以後、雨水用ノッチタンクと呼ばれることもある。

福島第一原子力発電所 緊急受け入れ用タンクの増設について(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_130502_03-j.pdf)に加筆
福島第一原子力発電所 緊急受け入れ用タンクの増設について(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2013/images/handouts_130502_03-j.pdf)に加筆

問題は、漏水についての記載だ。漏れたのは雨水だと言わんがばまりの表現に疑念を覚える。漏えいが起こったノッチタンク内の全ベータは72,000Bq/Lだ。いくらセシウム134と137が検出限界値未満とはいえ、全ベータは極めて高い。この測定結果を示しつつ、「当該ノッチタンクには汚染水タンク堰内に溜まった雨水を溜めている」と表現するのにはどのような意図があったのだろうか。

【理由】
4,000トンノッチタンク群に移送されたとされる堰内溜まり水、過去の分析データは次のようになっている。

(H4タンクエリア堰内:2013年10月20日)
セシウム134:検出限界値未満(検出限界値:12 Bq/L)
セシウム137:検出限界値未満(検出限界値:17 Bq/L)
全ベータ:26 Bq/L

突出して高い数値が計測されるH4北タンクエリアでは、同じ日に
セシウム134:30 Bq/L
セシウム137:80 Bq/L
ストロンチウム90(ベータ核種):12,000 Bq/L

同日採取のデータでは、全ベータ:490,000 Bq/Lという驚くほどの数値も記録している。H4エリア程度の数値なら、原発事故でまき散らされた放射性物質が雨水に混ざったという解釈も成り立つかもしれないが、水道水の基準の5万倍近い放射線量の水は、とてもじゃないが雨水なんかではない。

H4北エリアは、昨年8月にベータ核種を多量に含むRO濃縮水(原子炉建屋地下の高濃度滞留水からセシウムを取り除いた上で、約2倍に濃縮した汚染水。セシウム濃度が低く全ベータが高い性質がある)が300トン漏れ出して、レベル3(重大な異常事象)とされた場所だ。

雨で溢れそうになった堰の中の水を集めたとはいえ、そこに高濃度の汚染物質が存在していたのは明らかだ。

しかも、昨年の大雨や台風で堰から水が溢れたトラブルを受けて、タンクエリアの雨水のうち、H4北エリアなどとくに汚染度が高い水をノッチタンクに一時貯蔵→速やかに3号機タービン建屋地下の「高濃度汚染水」のたまり場に移送、という運用が行われている。比較的線量の低い堰内の水を、問題が指摘されて久しい地下貯水槽や堰を開放して敷地内に流したりしたのとは違い、「危ない水」という認識があったことは疑いようもないだろう。

 10月20日の大雨に伴う福島第一原子力発電所タンクエリア毎の対応状況(10月21日17時30分更新)|東京電力 平成25年10月21日
www.tepco.co.jp  

たしかに雨水への対応に使われてきたタンクかもしれない。しかし、溜められていたのは実質的に中程度の汚染水。

斜め読みでは見落としかねない。少しでも引っかかるところがあれば、しっかり調べてみなければ。

 [続報]ノッチタンク群からの漏えいで写真公開
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[New!]今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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文●井上良太

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