息子へ。東北からの手紙(2013年8月28日)

iRyota25

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ロシナンテス・大嶋さんの長靴

長靴は特別なアイテムだ。
ボランティアの足元は長靴で決まりだし、
農作業や船の上の作業、土木作業や災害復旧工事現場にも欠かせない。

頑張るゼ!

そんな時の足元を固めてくれるのが長靴ってぇもんだ。

今日は、そんな長靴の中でもとびっきりガッツを感じさせてくれるヤツに再会した。

いくら何でも、ここまでデカデカじゃなくても!

人によってはビックリするだろう。ドキモを抜かれるかもしれない。ギョッとして飛び上がっちゃうかも。父さんは最初に見た瞬間、たちまちゴカイした。

「長靴を履いて行う作業への意気込みに比例してデカいシールにしてるんですか?」

まじめな顔でそう聞いちゃったよ。特定非営利活動法人ロシナンテス・東北事業部の大嶋一馬さんに。

あっけない答えだった。

「いや、長靴を間違えないようにスタッフにラベルを頼んだら、こんなのができてきたんです」

ラベルを作ったという女性スタッフの田地野茜さんに聞いてみると、

「頼まれたのが夜11時すぎだったのでムカッときて。で、パッと見て分かるようにって指示だったから、一番デカいラベルに最大のサイズで印字しちゃいました」

そんなこと言われてますけど大嶋さん、デカすぎて恥ずかしかったりしないんですか?

「いや、分かりやすくてこれはこれでいいんです」

ケロッと応えてくれるわけだ。

スタッフから飛び出すちょっと過激な言葉。淡々と受け止めるボス。と、次の瞬間には「でもなぁ、これはないよな。目立つようにって言っても限度があるだろう~!」などとおどけたりもする。

ロシナンテスはアフリカのスーダンで医療活動、学校・教育事業、水・衛生事業、交流事業、スポーツ事業に取り組んできたNGO団体だ。震災が起きた時、日本に滞在していた代表で医師の川原尚行さんはすぐに宮城県南部に入り、医療などの支援活動を開始した。現場入りしたその時から、一時的な支援ではなく長く関わっていくことが必要と考えて設立されたのがロシナンテス東北事業部。その拠点を預かるボスが大嶋さんだ。

今日はロシナンテス東北事業部の事業のひとつ「健康農業 亘理いちご畑」という活動を手伝わせてもらった。詳しくは別の記事に書いたので読んでほしいけど、仮設住宅のおばあちゃんたちに、農作業を通して居場所と生きがいを提供しようという活動だ。

【ぽたるページ】ロシナンテスな日々
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ということで本日は、仮設住宅のおばあちゃんたちと農作業をして、お昼を一緒につくって食べるという活動。畑へ向かう車中で、ロシナンテスの大嶋さんが話してくれたのは、現代医療の問題だった。

農作業できる環境の提供といったって、場所なり道具なりを準備して「はいどうぞ」なんてやり方じゃない。自らも作業着に身を固め、頭にはタオルを巻いて、もちろん足元は長靴をビシッと決めて、おばあちゃんたち、おじいちゃんたちと一緒に畑に入って働いて、あーだこーだお喋りして、農作業の後はみんなで一緒にお昼ご飯を食べて、

「今日も楽しかったよ。ありがとう。また来週ね~」

ってまでの時間をいっしょに過ごすのがロシナンテスだ。

おばあちゃんたちが生活する仮設住宅は狭い。仮設は狭いだけではなく様々な制約があるから以前と同じような生活なんて無理だ。昔は農家だった人も多いけれど、農地がなくなり家にこもりがちな人も多いらしい。家にいても「おばあさんは何もしなくていいんですよ」なんて言われる場面もあるんだとか。状況は想像以上にキツイ。

だからこそ「健康農業 亘理いちご畑」なんだ。
ロシナンテスが行っているのは、太陽の下で体を動かして、生きる希望を見つけることのお手伝い。みんなが元気に生きていくためのお手伝い。農業の力を借りた元気ケア。

宮城県で三番目に大きいとされる仮設団地で、40人くらいのおばあちゃんたちが登録していて、月火水木金の5日間の開催だから、1日当たりの参加者は7~8人。参加する人たちにとっては週1回のお楽しみ行事だけれど、ロシナンテスのみんなは休みなし。今日1日手伝っただけだが、けっこうなハードワークだった。これがウィークデイの毎日。しかも午後はデスクワーク。土日はイベントにかり出されることが多いとか。

そんな毎日、大嶋さんの足元には巨大ネームラベルが光っている。

「意気込みに比例してデカい?」という父さんの誤解もあながち的外れではなかったかな、なんて思ったりもしたが、もっと大切なことに気付いた。

それは、ロシナンテス東北事業部のキャッチフレーズである、

『わたしたちは、ここにいる。』

という思いを体現しているということだ。

この土地に生きるロシナンテにとって、名前のラベルが大きすぎたからって貼り替える理由などない。むしろ、農作業中におばあちゃんたちが長靴見ただけで「あ、大嶋さんだ」って分かって便利だろう。視力が落ちている人も多いだろうからデカすぎるくらいがいい。見通しが良くなってしまった被災地だから、遠くからでも長靴を見て「大嶋さんだ」って分かってもらえることもあるだろう。

繰り返しになるが、
ロシナンテにとって、ラベルを貼り替える理由などないんだと思う。
でも想像してみてよ。お前はこんな長靴を履けるかな? どうかな?

この長靴は大嶋さんだからこそ。
まっとうな道をゆこうとするロシナンテだからこその長靴なんだと思う。

『わたしたちは、ここにいる。』

大嶋さんの長靴のラベルはまっとうであることの意味をまっすぐに表していた。

★追伸
ロシナンテは、セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」に登場する馬の名前。自分のことを伝説の騎士だと思い込んだ主人公が痩せこけた駄馬のロシナンテにまたがり風車に突進するというイメージが強いが、ググってみるとロシナンテという名前は「駄馬」と「かつて」の造語らしい。「かつての駄馬」ということは、いまや駄馬ではないということだ。人はいつでも、自分の中の駄馬的なものと決別しロシナンテになれる。ぜひお前にも会ってほしいな。ロシナンテスの人たちは、そんな勇気をくれる人たちだったんだよ。

NPO ROCINANTES / 特定非営利活動法人ロシナンテス
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www.rocinantes.org  
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