演劇・映画・写真作品等幅広い媒体での身体表現に積極的に取り組む森山開次さん。世代を超えて楽しめるダンス作品2015年『サーカス』で大好評を得て、今夏は第二弾『NINJA』(忍者)を公演予定。大好評につき追加公演決定という注目の舞台。表現の源についてお聞きしました。
森山 開次(もりやま かいじ)
ダンサー、振付家。21歳でダンスを始め、2001年ソロ作品の発表を開始。2005年『KATANA』で「驚異のダンサー」(ニューヨークタイムズ紙)と評され、2007年ベネチアビエンナーレ招聘。2012年新国立劇場ダンス公演『曼荼羅の宇宙』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、江口隆哉賞、松山バレエ団顕彰・芸術奨励賞を受賞。演劇・映画・写真作品等幅広い媒体での身体表現に積極的に取り組んでいる。「情熱大陸」「からだであそぼ」等メディア出演も多い。2013年度文化庁文化交流使。
忍者ごっこの体験も作品にいかす。
――森山さんはダンサーでありながら、今度の公演では演出も振付もアートディレクションもなさる多才っぷりですが、ダンサーになったのはいつ頃から?
元々はミュージカルがスタートで21歳の時にダンスを始めて4年位、そこからダンサーに転向しました。ダンスに惹かれて創作するようになって、最初はソロダンスを発表していて、ここ数年は大勢の振付やいろいろなジャンルの方々とコラボレーションして作品を創ることをさせていただいています。日本をテーマにしたり、子ども達と接点が生まれる作品を創ったり、さまざまな機会をいただいています。たまたまNHKの「からだであそぼ」という番組に関わったのをきっかけに、子ども達とつながっていたいと思うようになり、2015年は新国立劇場で「サーカス」をやらせていただきました。その第二弾が今回の「NINJA」です。絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きで、身体表現とセットでやってきました。もちろんそれぞれのプロフェッショナルの方のサポートも得ながらで、全部自分でやっているわけではないのです。大変ですが楽しんでやりたい。
――大人も子どもも楽しめるダンス作品ということですが、特にタイトルからも「え?忍者?」と惹かれる方も多いのでは。なぜ忍者を選ばれたのですか?
昔から僕は忍者みたいと言われることが多くて(笑)、音もなく忍ぶ忍者の存在がなぜかしっくりくる。子どもの頃、忍者ごっこをした経験もあって、子どもに何を見せるか考えた時に興味をもってもらえるテーマかな?と思って忍者を選びました。2015年の「サーカス」も、子どもの頃に商店街でピエロと遭遇したことがあって怖いけれど惹かれた。そういう気持ちを作品づくりに入れ込んで、昔の自分を回想するのもおもしろく、有意義な時間でした。
――神奈川県相模原市でお育ちになった小さな頃はどんなことが好きでした?
いろんな面がありました。わんぱくな頃も、静かな時期も。おもてに出るタイプというより、心の中にいろいろ溜めて思うタイプでした。小さな頃の自分からすれば、今のように舞台で立っている自分が意外で、どうしてダンスやっているんだろう?と思うこともあります。導かれてこうなったような感じで不思議ですね。
――習い事も体を動かすスポーツ系をされていましたか?
習い事は色々やっていて、最初は書道。近所の小さな書道教室に小学校低学年から通いました。字を書くのは好きでしたし、今でも振付を考えるときに書道のハネや払いを参考にするなど影響を受けています。その後にサッカーを始めました。家の事情でサッカーはすぐ辞めなくてはならなくて続かなかった。その後、体操教室へ通いましたが、怪我をしてこれもすぐに辞めることに。中学生になってバレーボール部、高校ではサッカー部。体を動かすのは好きでしたが、スポーツを極めようとは思わず、今思うと、体で表現することのほうが好きだったのかもしれません。
一枚のミュージカルチケットが運命を変えた。
――勝ち負けのチームスポーツから、クリエイティブな表現の世界へ転向したのはおもしろいですね。
自分では表現することを職業にしようとは思っていませんでした。そこに一歩踏み出す勇気はなかった。大学へ進んで自分の進路を考えた時、堅実にまっとうに仕事をしていかなければという思いがありました。自分で表現したい気持ちを少しずつため込んで、二十歳過ぎて爆発して飛び込んでしまった。内向的だったからこそ、表に出てアウトプットすることに想いがあった。
――ダンサーになったのは、何がきっかけになりましたか?
きっかけになったのは、2歳違いの兄が「マドモアゼル・モーツァルト」というミュージカルのチケットをくれたことです。兄はアクロ体操の選手で、体操をやりながら舞台を観るのが好きでした。彼は音楽座の体操講師を臨時で務めていて、僕がその当時、進路に悩んでいたのを知っていて気晴らしに、とチケットをくれた。僕はそれまで学校の演劇鑑賞会くらいでしか舞台を観たことがなく、あまりの衝撃と感動で大学は中退して劇団のオーディションを受けました。歌ったことも演技したこともない状態で、何も知らずに飛び込んだスタートでした。
――卒業せずに中退されたというのは、相当な覚悟でしたね?
大学では国際関係学部でダンスとは関係ない分野で、飛び込んだ世界で「ここで何とかしなければ」と必死でした。50名ちょっと同期の研究生がいて、歌やダンスで評価され舞台に出られるのは数名。大学で演劇を学んでいた人や、専門学校を経て研究生になる人、幼少期からバレエを習っていた人、いろいろな人がいましたが僕は何もなかった。ここで生きていくぞという決意だけは大きかった。ただ決意だけではどうにもならないことも多く、寝る間を惜しんで稽古に没頭しました。その時期があったからこそ、いろいろな出会いに恵まれ、今があるのだと思います。
――お子さんを育てているうえで、教育方針は?
自分でも意外でしたが、子どもが産まれてから視点やアンテナが変わりました。娘は今14歳、中学3年生です。ダンスは好きだけど仕事にはしないと言っています。いろんな道を見つけていってほしい。習い事も本人の意思を尊重しいろいろさせてきましたが、途中でやめたとしても経験は生きる。習い事を通して、自分がどんなことが好きで興味があるのか、知る機会になると思います。小さな頃に自分の道を見定めることができる人はすごい。僕は大人になってからようやく自分の道をみつけ、苦労も多い一方で、その分いろんなことを経験してきた良さを感じています。子どもの進路を一緒に考える時も、『人それぞれで、何かを見つけるタイミングは違う。押し付けるものではない』と思っています。内心気が気ではありませんが(笑)。
忍ぶものとリンクする身体表現。
――ダンサーとして、そして父として、たくさんの経験が人を惹きつける創作につながっている気がします。「NINJA」は全国各地で上演されますね。
ありがたいことに全国各地からお声掛けいただいて、これまで新国立劇場で積み重ねてきたことを披露できることをうれしく思うのと同時に、責任も感じています。どの地域の子どももかわいいし、彼らに会いに行く感覚です。僕を変えてくれた劇場という空間で、何か感じてもらって、舞台の世界に入らずとも何かの刺激を受けてもらう場になるといいなと思います。
――夏休み前までの初夏にかけての公演ですが、森山さんご自身の子ども時代の体験が作品に盛り込まれている?
公民館とか、神社とか、小さな川っぺりに子どもたちで集まって忍者ごっこをしたり、クワガタを捕ったりできた自然環境がありました。作品では忍者って何だろう?という想像から始めようと。固定された忍者のイメージから少し離れて空想して、ダンスという身体表現で忍者を演じる。いろんな発想で忍者に迫っていきたい。それが創作ダンスの魅力でもあります。幼少期の経験があるからこそ、発想につながります。
――言葉ではなく、しゃべらない身体表現ならではの忍者。どんなのだろう?って楽しみです。
小道具や衣裳、照明など、舞台を創るうえでいろいろな要素を加え、使いながら身体表現を軸に忍者を生みだし、発見や驚きがあったらいいなと思っています。忍者とは「忍ぶもの」。昆虫、動物など自然界に生きるいろんなものとリンクしているかもしれませんね。
――今後ダンスを通じて、どのように活動を広めていかれたいとお考えですか。
年齢、経験を重ねる中で感覚も変わってきて、ダンスの喜びや豊かさを伝えたいと思うようになりました。40代になり、これから迎える50代,60代は未知数で楽しみでもあり不安でもある。そういう意味ではまだまだダンスを語れない。ひとつずつ舞台を大切に続けてゆきたい。僕は手取り足取り教えるのが苦手なので、子ども達にダンスの楽しさを見せられることが救いです。そういう機会を持ち続けたい、と思っています。体を動かそうとすることが大事。ダンスは地面から吸い上げたエネルギーを体の中を通して枝葉となって出し、それが落ちてまた吸い上げて踊る。
エネルギーを循環させているんです。動かないと途端に精神が崩れます。頭の中で考えすぎていると回っていかないものです。
大人が必死になって夢中になって生きている姿を、子どもたちに見せることができたらいいな、と思っています。そして共に一緒に楽しんで生きていきたい。
編集後記
――ありがとうございました!静かな語り口で、あまり多くは語らない森山さんでしたが、インタビュー後半で体が動いた途端、ふわっと空気が変わって表情もイキイキとされたのがおもしろかったです。身体表現があるから言葉もいきる。40代でも20代と変わらない美しい体型。「NINJA」でどんな舞台が繰り広げられるのか、とても楽しみです!
2019年4月取材・文/マザール あべみちこ
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