写真の中にくるみの実があるの、わかるかな?
ほら、こっちの写真には、1ッコ、2コ、3コ… 6個は写っているみたい。
くるみの樹は川や沢の近くの日当りのいい場所で大きく成長するそうで、東北の川沿い、たとえば写真を撮影した気仙川の岸辺にもたくさん生えている。大きな立派な樹も少なくない。陸前高田や大船渡、住田町がある岩手県南部の気仙地方と呼ばれる地方川でもそう。くるみがたくさん自生しているから、この地域のお菓子(お菓子屋さんで売っているものはもちろん、地元のお母さんたちがつくる手作り菓子も含めて)には、くるみが入っていることが多い。東北地方でくるみは、地元を代表する食材でもある。
といって、くるみの実を採るための専用の果樹園なんて話は聞かない。地元の人たちはみんな、川や沢の土手に生えているくるみの樹から、くるみの実を拾ってきて食べてきた。それが地域に受け継がれてきた文化だった。
くるみの樹は自然に生えているものだから、とうぜん人間だけが食べているわけじゃない。
だけど、くるみには頑丈は殻がある。殻さえ割れば、中にはおいしい実が詰まっているのだけれど、殻を割ることができなければ誰もその美味にありつくことができないんだ。
くるみの殻はとても厚くて固いから、人間だって専用のくるみ割り器でもなければ殻を割っておいしい実を食べることができない。くるみ割り人形っていう道具を兼ねた人形もあるほど。頭のいい動物の代表格と思われているサルだって、クルミを割るのは大変だ。奥歯で力任せにガリガリなんとか噛み割ろうとして、諦めて放り出すこともある。木の実が大好きなリスだって、あの頑丈な歯で殻を削るのは大仕事。
だから、山や野に食べ物が減ってしまう真冬になっても、雪の間に誰にも食べられていないくるみの実が、ころころと転がっているというようなことになる。このページの写真で紹介したようにね。
そこで登場するのがカラス。
たしかにカラスのくちばしは大きくて頑丈だけど、カラスはくるみの固い殻をくちばしで割るわけじゃない。
地震と大津波でたいへんな被害を受けた東北地方の沿岸部では、大震災から6年たとうとしている今も、町中を大型ダンプや、大型ダンプよりさらに大きな建設機械を積んだ巨大なトレーラーが行き来している。
そんな巨大な車両が頻繁に通行する道路の近くの電柱や、電線の上にはカラスが止まって、じっと道路を見つめている光景を時々、いやけっこうしょっちゅう目にするんだ。そしてカラスが見つめる道路の上には、小さな黒っぽい実が転がっている。くるみの実だ。
固いくるみの実をくちばしで割ることができないカラスは、大型ダンプやトレーラーの力を借りて、くるみの実を割ろうとしているわけ。
だから、大型車両がくるみの実を踏んでくれなかったり、対向車線を走る車の風でくるみがころころ転がってしまったりすると、車の通行の合間を見て、「うまいこと大型車両が踏んづけて」くれるように、くるみの実の場所を微調整したり、移動させたりするために路面まで降りていく。
カラスだからって、誰だって轢いたりしたくはないから、ダンプの運転手なんかがクラクションを鳴らすくらいまで車が近づくまで、くるみの実がうまくタイヤで轢いてもらえるように微調整して、ギリギリのタイミングでそばの電柱や電線まで飛び上がる。
上の写真は、電柱に止まったカラスがくるみの実を絶妙な位置に置いた時の写真。こっちも慌てていたのでカメラのレンズが曇ったままだったが、センターラインとくるみの実の位置から、カラスの意図が伝わってくるだろう?
なにしろ大型の車両が行き来する道路だから、写真を撮る方もたいへんだ。だけどカメラを構えてくるみの実に近づいていくと、
「グワー、カカカー、グルガワー、グワグルグワワ~」と威嚇されてしまった。たぶん、「こらー、オレのくるみにいたずらするな~」って言ったのだろう。
10数年前だったか、テレビの動物番組でやはりくるみの実を自動車に割らせる賢いカラスの様子をおさめた視聴者提供動画を見た記憶がある。
その番組の紹介では、とある頭のいい一羽のカラスがやっているスゴいことという紹介だった。だけど、大型ダンプがひっきりなしに行き来する東北の被災地では、大型自動車にくるみの実を割らせるカラスはたくさんいる。見事に二つに割れて、中の美味しい実をくり抜かれたくるみの実が道路脇に転がっているのもよく見かける。
とある一個体が始めた工夫というわけではなく、被災地のカラスたちの中では、「くるみ→大きな車に踏ませて割る」という知恵が伝承され広まっているのか、あるいは生態の一部として定着しているかのようにも感じられる。
それくらい、くるみの実をくわえて飛んでいるカラスや、道路の上で「ここがいいかな」って感じで場所を調整したりしているカラスをたくさん見かけるのだ。
カラスはとても頭のいい生き物だから、くるみの実を置く場所を微調整しているところなんか、なかなか近くで写真を撮らせてもらえないけれど、いつかチャンスがあれば決定的瞬間を画像か動画におさめたいと考えている。
最終更新: