岩手復興ドラマの撮影現場に行ってきた。撮影場所は大船渡で一番の歴史を誇る老舗理容室と聞いて、盛あたりの古い町並みに残った建物かと勝手に想像していたのだが、訪ねていくとそこは大船渡市大船渡町の仮設店舗。加茂神社への登り口近くに建つ大同理容さんだった。
老舗という呼称とプレハブの仮設店舗のありように若干の違和感を覚えながら店内に入ると、そこは明治の香りが漂う、まさしく老舗の理容室だった。
まず目を引くのは、入口の脇に置かれたレトロな椅子。この椅子は明治時代か大正時代に使われていた理容専用の椅子だった。撮影スタッフに「どうぞ座ってみたら?」と勧められ、ちょっと怖々着座してみると、クッションの柔らかさ具合が絶妙で、ソファでもないのに体が包み込まれるような、なんとも言えない幸せな感覚。
椅子の横には明治後期の理容椅子の使用写真も飾られている。1世紀もの時代を越える理容椅子が、この町で最も古い理容室がたどってきた歴史を思い起こさせる。
写真の人物は腕章の線の数からして、帝国海軍の士官殿かあるいは商船の高級船員か。レトロな理容椅子が明治、大正、昭和と戦争の時代を乗り越え、さらに三陸津波やチリ津波など幾多の災害や昭和の大飢饉など、苦難の時代を見つめてきたのだと考えると感慨もひとしおだ。そして東日本大震災の津波で店を流されてしまった後、震災直後から仮設店舗で営業を再開し、さらにいま、復興ドラマが撮影される様子を見つめている。
ドラマの内容は来春の公開までは明らかにできないが、ドラマの第2部「冬のホタル」のシナリオは、大同理容の佐々木俊夫さんの原作によるもの。震災の年に佐々木さんたち大船渡の多くの人たちが経験した出来事をモチーフにしたドキュメンタリードラマだ。
主演は盛岡市出身、盛岡市在住の刈屋真優さん。脇を固めるキャストには、特別出演の村上弘明さん、長谷川初範さんの他、理容室の主人役にはエフエム東京の人気ドラマ「NISSAN あ、安部礼司〜BEYOND THE AVERAGE」で安部礼司をつとめる小林タカ鹿さん、物語のキーを握る住職役には初代ウルトラマンの“中身”を熱演した古谷敏さんと、魅力的な役者が揃っている。
もう1人の主役と言えるのが、大同理容の店の前に鎮座する「あたま地蔵」さま。頭を3回なでると願いが叶うとされるお地蔵様が、物語を動かしていく。
「冬のホタル」では、震災で亡くなった人、いまも苦しんでいる人、前に向かっている人たちと「わたし」。苦しみを乗り越えようとする人々の姿が描かれる。撮影現場の雰囲気や詳しいストーリーをお伝えできないのは心苦しいところだが、ぜひ作品の公開をお待ちいただきたい。
佐々木さんの原作ストーリーは下のリンクでご覧頂けます。
大同理容 紳士流
岩手県大船渡市大船渡町字明神前13-5
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