【ことばのガバナンスがおかしくなっていませんか?】
日本中で「えっ?」とか「あっ!」とかいう声
普天間基地の辺野古沖への移設問題で、日本国政府の菅官房長官が沖縄県の翁長知事と会談した後、菅長官は4月6日の記者会見で話していた。
「粛々」という言葉が不快感を与えているのであれば使うべきではないだろう、と。たぶん日本中の人たちが確かに聞いたはずだ。
そのわずか2日後、日本国の最高責任者を自認されている安倍総理大臣が、参議院予算委員会で辺野古移設について「粛々と進めている」と答弁したのは、毎度おなじみのスチャラカで押し通せたかもしれないが、「粛々は止めます宣言」をした本人である菅官房長官が4月14日、福井地方裁判所が高浜原子力発電所3・4号機の再稼働を認めない仮処分の決定を出したことに関して、「粛々と(再稼働を)進めていきたい」と強調(北海道新聞)してしまった。
私たち大人は、こどもたちに「三権分立」というものをどう教えたらいいのだろうか?
ことの経緯はNHKのオンラインニュースに詳しいので、一部引用して紹介させていただきます。
高浜原発 再稼働認めない仮処分決定
4月14日 14時04分
福井県にある高浜原子力発電所の3号機と4号機について、福井地方裁判所は「国の新しい規制基準は緩やかすぎて原発の安全性は確保されていない」という判断を示し、関西電力に再稼働を認めない仮処分の決定を出しました。
異議申し立てなどによって改めて審理が行われ決定が覆らなければ、高浜原発は再稼働できなくなりました。
(中略)
決定では「10年足らずの間に各地の原発で5回にわたって想定される最大の揺れの強さを示す『基準地震動』をさらに超える地震が起きたのに、高浜原発では起きないというのは楽観的な見通しにすぎない」と指摘しました。
そして原子力規制委員会の新しい規制基準について触れ、「『基準地震動』を見直して耐震工事をすることや、使用済み核燃料プールなどの耐震性を引き上げることなどの対策をとらなければ、高浜原発3号機と4号機のぜい弱性は解消できない。それなのに、これらの点をいずれも規制の対象としておらず、合理性がない」という判断を示しました。
そのうえで、「深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないと言えるような厳格な基準にすべきだが、新しい規制基準は緩やかすぎて高浜原発の安全性は確保されていない」と結論づけました。
長い記事なので、以下、小見出しを抜粋して引用。
仮処分手続きと決定の効力
住民側代表「脱原発へ歴史的な一歩」
関電「速やかに異議申し立てを検討したい」
高浜町長「再稼働の同意は現在の規制基準で判断」
地震の専門家「誤った理解」
いろいろな異なる意見を紹介しているように見えて、関電、高浜町長、地震の専門家とも地裁の決定に否定的な意見なのでバランスを欠くものではある。だが、それはいったん措くとして、官房長官のコメント内容を紹介する最後の部分だ。
官房長官「再稼働の方針変わらない」
菅官房長官は午後の記者会見で、「独立した原子力規制委員会が十分に時間をかけて世界で最も厳しいと言われる新基準に適合するかどうかという判断をしたものであり、政府としてはそれを尊重して再稼働を進めていくという方針は変わらない」と述べました。
そのうえで、菅官房長官は「国は本件の当事者ではなく、あくまで仮処分であり、当事者である事業者の今後の対応を国としては注視していきたい」と述べました。
また、菅官房長官は、記者団が「ほかの原子力発電所の再稼働やエネルギー政策への影響はないか」と質問したのに対し、「そこはないと思う。そこは『粛々と』進めていきたい。法令に基づいてということだ」と述べました。
司法は、想定している高浜原発の基準地震動を「楽観的見通しにすぎない」と指摘。規制委員会の新基準については「合理性がない」とした。さらに「新しい規制基準は緩やかすぎて高浜原発の安全性は確保されていない」と結論づけている。
これに対して、行政のトップ直下に位置する官房長官は司法の指摘には触れず、「世界で最も厳しいと言われる新基準」というイメージ先行で根拠に乏しい表現を繰り返した挙げ句、原発再稼働やエネルギー政策を「粛々」と進めたいと述べているのだ。
地裁の決定とはいえ、行政のトップ周縁にある高級行政官が司法判断をまったく顧みもしない姿勢を示すというのはどういうことなのだろう。
たとえ反対意見があろうとも、たとえば「世界で最も厳しい」といったイメージを繰り返すことで、何とでもできると考えているのだろうか。