[疑問解決?]マンガン-54が謎の急上昇

iRyota25

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11月12日、東京電力は「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」で、マンガン-14という放射性物質の濃度が、該当する井戸で最高値を記録したと発表しました。

※11月10日に採取した1,2号機ウェルポイント汲み上げ水について、マンガン54および全ベータの分析値が、前回値と比較して高い値で検出され、過去最高値となっている。当該汲み上げ水については、測定値の変動が大きい傾向にあることから、再度サンプリングを行い、異常のないことを監視していく。

<今回(11月10日)採取分>
 ・マンガン54:54 Bq/L〔前回分析値(11月3日採取):5.0 Bq/L)〕
 ・全ベータ :210万 Bq/L〔前回分析値(11月3日採取):23万 Bq/L〕
<参考:過去最高値>
 ・マンガン54:8.5 Bq/L(平成26年4月28日採取分)
 ・全ベータ :190万 Bq/L(平成25年9月23日採取分)

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成26年11月12日

 福島第一港湾内、放水口付近、護岸の詳細分析結果(護岸地下水サンプリング箇所) | 東京電力 平成26年11月11日
www.tepco.co.jp  

ページ(2/4)に記載

東京電力の発表では「測定値の変動が大きい傾向にある」井戸ということですが、前回の数値は5.0ベクレル(11月3日)、前々回4.4ベクレル(10月27日)、その前が2.2ベクレル(10月20日)、さらにその前が4.3ベクレル(10月13日)と一桁台で推移しています。そもそも、この井戸での過去最高値は8.5ベクレル(今年2014年4月28日)です。

1,2号機ウェルポイントの位置(東京電力の資料とGoogle Mapを合成)
1,2号機ウェルポイントの位置(東京電力の資料とGoogle Mapを合成)

汲み上げられた井戸は、元からの海岸からは20数メートル、海側遮水壁という新たに設けられた壁からも30メートルほどしか離れていない場所に位置しています。

原子炉の奥深く、炉心でできる放射化生成物

これまでも何度か東京電力の「日報」などに登場してきた「マンガン-54」という放射性核種ですが、いったいどのようなものなのでしょうか。

東京電力が平成19年に柏崎刈羽原発の地元での会合の説明資料を見ても、原子力資料情報室による資料でも、原子炉の1次冷却水(原子炉の炉心で熱せられタービンを回した後、炉心へと循環する水)に不純物として溶け込んでいる鉄が中性子を浴びてつくられる放射化生成物という説明がなされています。

マンガン 54、コバルト 58、コバルト 60
いずれも人工放射性物質(核種)であり、原子炉水中の不純物(鉄、ニッケル等の金属材料)の中性子照射による放射化生成物。マンガン 54 の半減期は約 312 日、コバルト 58の半減期は約 71 日、コバルト 60 の半減期は約 5.3 年。

柏崎刈羽原子力発電所敷地内における環境試料(松葉)からの極微量な人工放射性物質の検出に 伴う追加調査結果について|東京電力 平成19年5月10日

人工的につくられる放射能。鉄を中性子で照射すると、鉄-54(54Fe、同位体存在比5.8%)と中性子の反応によって生成する放射化生成物である。
大気圏内核兵器実験では、構造材の中で生成する。大気中に放出され、放射性降下物の中から検出されている。地上で核兵器が爆発すると、土の中にかなりの量が生成する。
軽水炉の運転では、一次冷却水配管の中で生成するのと同時に一次冷却水の中にある鉄からも生成する。一次冷却水中で生成したものが配管の内側に付着し、定期検査の際に剥げ落ちることもある。それが床にばら撒かれ、さらに粉塵として施設外に放出されることもある。

マンガン-54(54Mn) | 原子力資料情報室(CNIC)

マンガンといえば電池によく使われていたり、中学の理科で過酸化水素水から酸素を取り出す実験で触媒で使われたりする物質ですが、マンガン-54となると、それは核反応が起こっている場所でしかつくられないものなのです。

井戸水のマンガン-54濃度は燃料プール水と同レベル

そんなマンガン-54が、事故原発1、2号機の間で港湾に突き出した場所に掘られたウェルポイント(連続的に水を汲み上げている井戸。後でもう少し詳しく説明します)で、過去最高の1リットルあたり54 Bqを記録。54という数値が高いのか低いのかよく分からないので、事故後れまでに発表された資料から近い数値を探してみると、今年2014年7月19日の日報にありました。

5号機の燃料プール近くの弁に水溜りが見つかり、調べてみたら燃料プールの水と同程度の濃度だと確認されたという東京電力の発表です。

当該弁2箇所(A系およびB系)の水溜りについて、放射能分析結果は以下の通り。
(A系:水溜り深さ約9cm)
 ・コバルト-60  2.1×100 Bq/cm3
 ・マンガン-54  7.3×10-2 Bq/cm3
(B系:水溜まり深さ約18cm)
 ・コバルト-60 3.4×100 Bq/cm3
 ・マンガン-54 7.3×10-2 Bq/cm3

このコバルト-60の放射能濃度レベルは、使用済燃料プールにおける濃度と同程度であることを確認。

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成26年7月19日

弁ボックス内水たまり(汲み上げ前)
弁ボックス内水たまり(汲み上げ前)

photo.tepco.co.jp

「7.3×10^-2 Bq/cm3」をリットルあたりに換算すると73ベクレルになります。312日という半減期を考えると、海の近くの井戸で今回汲み出された54ベクレルと非常に似通った濃度と考えていいでしょう。

燃料プールは炉心の燃料交換の際などに圧力容器と一体化する構造なので、中の水は炉心の冷却水とほぼ同じものと考えられます。つまり、海のすぐ近くの地下水から一次冷却水と同レベルの汚染された水が出たということです。

疑問1:汚染源はどこにあるのか?

ウェルポイントで汲み上げられた地下水が、原子炉一次冷却水とほぼ同じ濃度だからといって、冷却水がそのまま井戸まで流れて来たかどうかは分かりません。むしろそうでない蓋然性の方が高いと思われます。なぜなら、10月13日には、今回の井戸のすぐ近くにある地下水観測孔No.1-6という井戸で、さらに一桁高い濃度のマンガン-54が検出されているからです。

<最新のサンプリング実績>
10月13日に採取した地下水観測孔No.1-6の地下水の分析値について以下の通り変動がみられた。

<今回(10月13日)採取分>
セシウム134 61,000Bq/L(過去最大値)
セシウム137 190,000Bq/L(過去最大値)
マンガン54 700Bq/L(過去最大値)
コバルト60 3,600Bq/L(過去最大値)
全ベータ  7,800,000Bq/L(過去最大値)

<前回(10月9日)採取分>
セシウム134 17,000Bq/L
セシウム137 51,000Bq/L
マンガン54 290Bq/L
コバルト60 2,100Bq/L
全ベータ  2,100,000Bq/L

なお、その他の分析結果については、前回採取した測定結果と比較して大きな変動は確認されていない。今後も監視を継続していく。また、地下水観測孔No.1-6の位置する1・2号機取水口間では、海洋への流出防止を目的として、ウェルポイントにおける地下水の汲み上げを継続している。

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成26年10月14日

上の地図とは天地が逆さまですが、地下水観測孔No.1-6の位置を示します。

全ベータの780万ベクレルに比べると小さな数字に見えるかもしれませんが、核燃料が分裂してできるのではなく、連鎖反応に漏れた中性子が偶然鉄原子に衝突して形成されるのがマンガン-54なのですから、700ベクレルも相当高い数値だと考えられます。このように高濃度の放射性物質は、トレンチに溜まっている高濃度滞留水に由来し、それが何らかの原因で時々サンプリングに引っかかって高濃度が発覚すると見られます。

そこで疑問なのは、発電時に炉心に触れている一次冷却水とほぼ同じプール水と比べても、1ケタ高いマンガン-54はどこから来たのかという問題です。

核分裂反応が停止した状態だとすると、新たに追加されるマンガン-54はないと考えられるので、今回検出されたマンガン-54も、プール水のものも同様に312日という半減期に従って徐々に減少しきたはずです。それなのになぜ1ケタ高い数値のマンガン-54が検出されたのか。

今回検出された地下水とほぼ同等のプール水のマンガン-54の濃度が、原発事故が発生した当時どれくらいの値だったかを試算すると次のような数値が出てきます。

プール水が検査された今年の7月18日は、原発事故から1,236日目です。マンガン-54の半減期は312日なので、おおむね半減期4回分に相当します。現在の数値は元の数値の16分の1というわけです。ということは、事故発生当時、原子の中を循環していた一次冷却水のマンガン-54濃度は約1,160ベクレルということになります。

2号機タービン建屋海側の地下水観測孔No.1-6で観測された700ベクレルを、同じように計算すると11,200ベクレル以上という、やはり桁違いの数値です。炉心を回っていた冷却水でここまで大きな違いが生じる理由はいったい何なのか。

原子炉自体が破壊まで至らなかった5号機と、建屋の外見こそ無事に見えても空間線量が高すぎて人が近づけないほどの2号機とで、内部配管などの壊れ方に重大な違いがあるのでしょうか。配管内部に沈殿していたマンガン-54が大量に外部に流れ出るような事態が発生しているということも考えられます。

あるいは、1974年7月に稼働した2号機と、1978年4月から運転が始められた5号機との間で、配管など鉄の放射線による劣化に大きな違いがあったのか。

理由はよく分かりません。しかし、破壊に至らなかった5号機プールの状態を健全だと仮定すると、その10倍もの放射化生成物が、閉じ込められてあるべき場所の外に、現在もあり続けているという現実に違いはありません。

考えられないこと、あってはならないことが継続しているのです。

疑問2:高濃度滞留水が混ざった地下水が溢れそうになっているのか?

またしても画像が逆さまですが、ウェルポイントの位置関係です。クリーム色の地に「1号機」「2号機」とあるのはそれぞれの号機の取水口で、その間のでっぱった土地の海寄りに水ガラスによる止水を施した上で、ウェルポイントは設置されました。

東京電力の資料(地下水汚染の現状に対する現在の対策 平成25年8月8日)より引用
東京電力の資料(地下水汚染の現状に対する現在の対策 平成25年8月8日)より引用
 地下水汚染の現状に対する現在の対策|東京電力 平成25年8月8日
www.tepco.co.jp  

ウェルポイントは一直線に並べた深さ3メートルの井戸28本から、ポンプで地下水を吸い出す設備です。建屋周辺のサブドレンなどの井戸が10メートル規模なのに比べると深さ3メートルは驚くほどの浅さです。外側に設置されたガラス固化体による止水壁を地下水が乗り越えて海に流入しないように汲み上げる、いわば最後の砦ともいうべき井戸なのです。

先行削孔の様子
先行削孔の様子

photo.tepco.co.jp

集水パイプの接続状況
集水パイプの接続状況

photo.tepco.co.jp

集水パイプの敷設状況
集水パイプの敷設状況

photo.tepco.co.jp

 福島第一原子力発電所1-2号機取水口間のウェルポイント(一部)からの地下水 汲 み上げ開始について|東京電力 平成25年8月15日
www.tepco.co.jp  

これに対して10月に10倍の濃度のマンガン-54を検出した地下水観測孔No.1-6の深さは16メートルです。

 タービン建屋東側における地下水及び海水中の放射性物質濃度の状況について|東京電力 平成26年9月25日(経産省による公開)
www.meti.go.jp  

とすると、深い場所にあった高濃度のマンガン-54を含む地下水が、別の系統の地下水と混ざり合いながら、徐々に薄められながら護岸近くで水位を上げていって、ついには深さ3メートルのウェルポイントから汲み出されたということなのでしょうか。

机上の理屈なら、このように考えたくなります。しかし、周辺に幾つも設置されているその他の観測孔では、大きな意味を示すような変動は示されていないのです。それどころか11月6日採取の地下水観測孔No.1-6の分析結果では、マンガン-54は検出限界以下となっています。

マンガン-54はどこから来て、どこへ行ったのか。

「疑問解決」どころか謎は深まるばかりです。

この先、ウェルポイントや観測孔の放射性物質濃度は高まるかもしれません。逆に低くなることもあるでしょう。しかし、数値の高低よりもさらに大きな問題なのは、高濃度に汚染された地下水の挙動がまったくと言っていいほど理解されていないということだと思います。

もしも数値が高まっても、これまでのパターンでは徐々に低下して、何もなかったような平静な状態に戻ることが多かったと感じます。しかし、いったん高い数値を示した汚染地下水は、どこかに消えたわけではないのです。

目で見ることができない地面の下で、予想不能な動きを続ける汚染された地下水。

絶望的な気持ちになりそうなくらいな状況だと思いますが、現場の人達には粘り強く対応を続けてほしいと願います。私たちも、数値が下がったから大丈夫などと安易に考えることなく見守っていきます。

【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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