久之浜で震災後初の試験操業(今日のニュースから)

iRyota25

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いわき市沖の漁場で、東日本大震災後初めて試験的な漁が行われたとのニュースが各紙で伝えられました。

魚や貝などの放射線量を調べるサンプリング調査の測定値が低かった福島県北部の沖合では、昨年から試験操業が行われていますが、いわき市沖での漁は2年7カ月ぶりとのこと。漁師さんたちは3年近くも漁ができない状態だったのです。

このニュースに、いわき市久之浜でこれまで知人や友人から聞いてきた話をたくさん思い出しました。

まずは、NHKのNEWS WEBが伝えた記事から引用します。

今回の試験的な漁で、最も多い7隻の漁船が出漁したいわき市北部の久之浜漁港では、午前3時前に漁業者たちが集まり、漁協の職員から、一部の認められた魚介類以外は水揚げできない点などの説明を受けていました。
そして、準備が整うと次々に沖に向けて漁に出発しました。
三誠丸の船長の北郷輝夫さんは漁に出発する前に、「期待3割、不安7割です。不安の7割というのは汚染水問題で消費者がどのようにこの試験操業をとらえるかですがとにかく頑張ります」と話していました。

いわき沖 震災後初の試験操業 NHKニュース

久之浜漁港と聞いて真っ先に目に浮かんだのが、この写真。
港に漁船がずらっと並んで係留されています。

撮影したのは今から約1年前、2012年11月のこと。
たくさんの船が勢ぞろいしているのは、一見とても壮観に思えますが、港があふれるほどの船がいるのは、放射能の影響で漁に出ることができないから。

久之浜で町の再生と復活に向けて活動を続けてきた、諏訪神社の高木優美(まさはる)さんは、

漁に出ても魚が売れないから、漁には出ない。仕方なく日払いの仕事で海中の瓦礫撤去をやっている。そんな毎日が、気高い彼らの尊厳を少しずつ削いでいっていることを想像したことがありますか。

【ぽたるページ】久之浜の復興は「夢物語」なんかではないのです。

と話してくれたことがあります。

漁港で津波に襲われ、市場の建物の柱にしがみついて難を逃れた吉田キミヱさん(久之浜町婦人会常任委員)の話に、どんな言葉を返したらいいのか分からなかったことも思い出しました。

「自分の船で海に出て、自分の腕で魚を獲って、どれだけいい魚を獲れるか、獲った魚がいくらになるかが生きがいでずっとやってきたのに、そんな漁師が黙って海中の瓦礫を拾ってるのよ。どんな気持ちだか分かる? いつになったら漁に出られるんだろうって、答の出ないことを毎日毎日考えて過ごしているのって、拷問みたいなのよ」

久之浜の浜風商店街に魚屋さんを出店している石井良和さんが、

これまで地元産100%でやってきましたからね。目の前に海があるのに、その魚を獲れない、地元の魚を扱えないのは悔しい。なんていうか、とにかく、

「不本意なんです」

【ぽたるページ】久之浜の“ 一心太助 ”のねがい

と、言った時の、表現できないくらい悲しい表情も目に浮かびます。

風光明媚な海辺の町で、美味しい地場の魚を食べて生きてきた町の人たちは、久之浜の魚が食べられない日がくるなんて、考えたことすらなかったのです。

「復興、復興つぅたって、まずは海で獲れた魚と畑で採れた野菜、庭になってる柿とか山のきのこ、イノシシとか、そういうものが食べれるようになってからのことだろ。当たり前のことだったんだけどな」

久之浜で話をした何人から、同じ言葉を聞いたことか。

NHKニュースでコメントした北郷輝夫さんにお会いしたことはありませんでしたが、昨年撮影した写真には北郷さんの船「三誠丸」が写っていました
NHKニュースでコメントした北郷輝夫さんにお会いしたことはありませんでしたが、昨年撮影した写真には北郷さんの船「三誠丸」が写っていました

再びNHKのNEWS WEBからの引用です。

初日の漁には、市内の4つの港から13隻の底引き網漁船が参加することになっていて、このうち久之浜漁港では、午前3時ごろ漁船が次々と沖合に向かいました。
今回の試験的な漁は、漁を行う海域を福島第一原発から40キロ以上離れた海域に限定したうえで対象の魚介類もタコや毛ガニ、それにいわき市特産のメヒカリなど16種類に絞っています。
昼前には水揚げして、魚介類ごとにサンプルを抜き取って放射性物質の検査を行い、値が国の食品基準を大幅に下回っていることを確認したうえで、19日、県内各地に出荷される予定です。

いわき沖 震災後初の試験操業 NHKニュース

久之浜といえば「タコ」。築地でも最上級に評価されていたそうです。
メヒカリは脂の乗った柔らかな身の味わいが特徴で、いわき市が地場の魚として強力にプッシュしている魚です。刺身、天ぷら、干物などいろんな食べ方ができますが、こんなところにも。

イメージキャラクター「メピカリ」が描かれたメヒカリクッキーがさりげなく。奥で作業するのは、佐藤三栄さん(右)と谷平浩さん
イメージキャラクター「メピカリ」が描かれたメヒカリクッキーがさりげなく。奥で作業するのは、佐藤三栄さん(右)と谷平浩さん

2013年6月21日、いわき市北部で放射能に負けない農業を追求する「安全な米作り研究会」のみなさんが、慣れない宛名書き作業に悪戦苦闘していた現場にも、お菓子のトレーの中にメヒカリクッキー。

「ダメだ、目がダブって見える!」
「七十歳にして、初めて四十肩に
なっちゃったよ!」
「あっー、普段自分の名前しか書かないから、
自分の名前書いちゃったよ!!」

【ぽたるページ】宛名書き大作戦 - By sKenji

農家の人たちの会合に、魚の象徴であるメヒカリがさりげなく登場する。久之浜漁港から2年7カ月ぶりに出漁したことは、海についてだけの話題ではない。原発事故に負けずにがんばっている町全体のことなんだと思います。

ニュースで北郷さんが言った「期待3割、不安7割」はずしりと重い。東京電力の原発で、好ましからざる出来事が頻発するいま、消費者としての不安はもちろんあります。でも、タコやメヒカリ、ヤナギガレイの干物などなど久之浜の魚は食べてみたい。

安全性への信頼が世の中の様々なところで失墜している時だから、獲れた魚介類の検査を厳格に行い、データをしっかり公表してほしいと願っています。

安全な米作り研究会の人たちが実践しているのと同じく、徹底的な「公開」、たとえ都合の悪いデータも公表することこそが風評を跳ねのける唯一の力です。

そろそろ漁船が帰ってきて、水揚げが始まった頃でしょう。
港に笑顔が広がっていますように!
福島の地場の海が一日も早く復活することを祈ります。

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●TEXT+PHOTO:井上良太

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