青春18きっぷを手にすると、どれだけ電車に乗っていても平気になってしまう。
--------------------------------------------------------------------------------------- ■青春18きっぷ
・JR北海道からJR九州まで、すべてのJRの普通列車が乗り放題になる。
(特急列車は不可)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・使用期間は大まかに春、夏、冬。学生の休暇時期と重なるように設定される。
・5枚つづり11,500円で販売されるため、1日あたり2,300円で乗り放題。
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見た目は違うけど、去年と同じ景色
網走市内のネットカフェで一夜を過ごし、翌朝。快晴。セミが鳴く8月の朝も、北海道というだけで何だか気持ちがいい。
昨日は網走駅からネットカフェまで、3kmの道のりを歩いた。が、よくよく調べてみると、このネットカフェには、網走駅の1駅隣の桂台駅の方が近いらしい。久しぶりに充電が満タンになった携帯電話を片手に、桂台駅まで歩いた。
午前9時。今日の予定は、桂台駅から3駅進んだ北浜駅へ行き、駅に併設された喫茶店「停車場」で昼食をとる、だけ。
北浜駅は網走~釧路を結ぶ釧網本線(せんもうほんせん)の駅。2~3時間に1本しか走らない列車は、しばらくオホーツク海の海岸沿いを走り、そのあと釧路方面へと南下していく。北浜駅はその「オホーツク海にもっとも近い駅」であり、「日本で最も海に近い駅」として有名らしい。去年、初めて北浜駅を訪れた時点ではそんなことも知らなかった僕だが、去年の旅を終えたあと、そのことを知った。
旅を終えたあとの方が、訪れた場所について知りたくなるもので、
「実はあの場所、○○な場所だったんだ!」
と、後から知ることが意外と多いのだ。去年は旅仲間と会話を楽しみ、景色なんてロクに見ちゃいない。だからこそ今回は、気持ちを改めて景色を眺める。国道と並走する単線のワンマン列車。海の向こうには、言語も人種も違う人たちが当たり前のように暮らしているらしい。……なんて、ふだんは考えもしないことを考える。
北浜駅へは、10分ちょっとであっさりと到着した。昨日、丸一日かけて札幌から網走まで大移動したくせに、ようやく北浜駅に着いたら「あ、もう着いたのか」なんて気分になるから不思議だ。
すぐ目の前は大海原。去年見た景色は線路に雪が積もり、流氷がごろごろしていたが、今回は緑の雑草が元気に伸びていて、海は水平線の向こうまで穏やかだ。見た目は違うけど、同じ景色。
確か去年、僕は北浜駅近くの白鳥展望公園の湖で、財布を落とした。そう、湖にいた白鳥たちにみんなでエサをやっていたところ、調子に乗った僕は、エサをいちいち力いっぱい遠くへ投げていたのだ。すると、身に着けていたポーチのベルトが何かの拍子に切れてしまい、ポーチごと冬の北海道の湖へドボン。そのままポーチは湖と繋がっている海の方向へどんぶらこ……。
あぁ、そう言えば慌てて電話してカードの紛失手続きをしたっけ。財布とは別の場所にまとまったお金を持っていたのが不幸中の幸いだった……。
―――こうして同じ景色をなぞると、忘れていた記憶まで甦ってくるから不思議である。あまり良い思い出ではないが、1年も経てばちょっとした笑い話だ。
1年ぶりの喫茶「停車場」
そんな思いを馳せつつ、北浜駅の駅舎をくぐり、1年ぶりの喫茶「停車場」へ。相変わらずレトロな雰囲気で、木造りのテーブルと古い列車の椅子のような座席が印象的だった。
改めてメニューを眺める。もちろん、去年食べたオホーツクラーメンを選ぶつもりなのだが、実はこの「停車場」、メニューがかなり多い。
ビーフカレー、シーフードカレー、カツカレー、ヒレカツカレー、ホタテカレー……、シーフードリゾット、オムライス、カニピラフ(スープ付)シーフードピラフ(スープ付)、ハムピラフ(スープ付)、停車場ランチ、カツランチ、ポークジンジャー、シーフードスパゲッティ、和風シーフードスパゲッティ、ナポリタンスパゲッティ…………。
去年、僕は迷わずラーメンを頼んだが、よく見ると、食べ物だけでもメニューがたくさんある。それにどう見ても、このお店のメインはラーメンではなく洋食だ。さらに気になったのは、メニューの端に書かれてあった「フランス料理(予約制)時間17:00~」。よくわからないが、ここの主人はもの凄く腕の立つ人なのかもしれない。僕は直感的にそう思った。
実は、ラーメンよりも洋食の方が旨いのではないか。いや、ラーメンだってめちゃくちゃ旨かった。そもそも、あのラーメンが食べたくて、ここまで来たんじゃないか!いや、しかし……。僕は土壇場で迷いだす。
ふと、香ばしいイイ匂いが鼻をくすぐる。ジュワ―!と、具が焼ける音が聞こえ、コック帽を被った、恐らくここの主人だろう男性が盛り付け作業をしている。ダンディな眉毛と髭をたくわえた、コックコートの似合う男性。黄色くフワフワの玉子が乗ったオムライス。遠目に覗き込んでも、その玉子がフワフワだとわかる。きっと箸でつつけば、柔らかい半熟がとろっとこぼれるのだろう。見ているだけでたまらない。
オムライスは、僕の後ろに座る若い女性に運ばれ、
「きゃー!これ超おいしいー!」
と、女性の黄色い声が聞こえてきた。
さて、僕はどうしようか。悩んでばかりもいられない。北浜駅にやってくる列車は2~3時間に1本。次に乗る列車まではまだ時間があるが、店内は満席。おそらく調理人もあの男性一人だ。あまり悩んでいる暇はない。
とは言え……、うーん。
いただきます!
ああ、やっぱりこれこれ!
どれを取ってもプリップリ!ひと口噛めば歯ごたえがバツン!旨味がじわー!あっさりベースの塩味スープに鮭、ホタテ、エビ、カニといった魚介の旨味がからみ、口の中でイクラが弾けた瞬間、去年食べた味の記憶を鮮明に思い出した。
旅を終えたあとの方が、訪れた場所について知りたくなるもので、僕は改めて北浜駅の喫茶「停車場」について調べてみた。
「停車場ランチのハンバーグが本格的でとってもおいしい」
「ホタテカレーが絶妙。これだけ立派なホタテをカレーで味わえるなんて!」
「ガトーショコラのケーキセット。ケーキのほろ苦さとクリームの濃厚さが絶妙でとてもおいしかった」
ラーメンも人気なのだが、それよりも気になったのが、ラーメン以外のメニューを絶賛する口コミ。旅のあとで改めて知る美味しい情報の数々……。
今度はラーメン以外を食べに行ってみるか?
また、青春18きっぷの季節に。
(おわり)
北浜駅、喫茶「停車場」
駅舎に併設した喫茶店!レトロでお洒落な雰囲気も魅力だが、注目したいのは料理の味!
旅の記事、いろいろあります。
「これさえあれば、1日中JRの普通列車が乗り放題」という、青春18きっぷ。この夢のようなきっぷが導くスローな旅には、「ちょっとしたドラマ」が詰まっています。
記事中で登場した喫茶「停車場」の公式HPです。
豊富なメニュー一覧も載っています!