石巻の狐崎浜から岬を回ったところに「ひみつのビーチ」があります。
三日月のような浜辺の先に岩が3つ。
海の中にはクチバシカジカなどダイバーに人気の生き物たち。
浜辺は小学校の野外学習に使われたり、家族連れの憩いの場だったり。
おっと、狐崎浜の若者たちのデート場所だったなんて情報も。
でもこのビーチも震災の津波で大きな被害を受けました。
浜辺の地形が変わったり、津波によって運ばれてきたがれきが
海中や浜辺の砂の中深くに埋まってしまったり。
そんなビーチを美しい浜によみがえらせるボランティア活動「石巻海さくらumihama大そうじ」が、3月9日・10日の日程で開催されました。
1日目!(3月9日)
小さな浜辺を埋め尽くすほどの人々!
この日集まったボランティアはなんと約100人。
ビーチクリーン活動の動員としては歴史的な多人数でした。
作業内容を説明するのは、石巻・海さくら代表の高橋正祥さん。
そう、ダイビングSHOPハイブリッジの高橋さんです。
去年11月の海底調査の後、狐崎浜の皆さんとの交流を深め、いろいろなボランティア団体にも呼びかけて、この日の活動が実現しました。
ビーチはこんな状況です。
がれき、流木、石、ずっと昔からのゴミなどなど…
みんなが楽しめるビーチとして再開するのに相応しからぬ物どもが、砂浜の上や中に埋まっています。(実はさらにやっかいな埋設物があるのですが、それは後ほど)
海の中も大変です。とくに、この近くにタイヤを満載した大型コンテナが流れついたせいで、海中にはたくさんのタイヤが泥に埋もれているのだとか。
これらのがれきを、海中班(ダイバー)と引き揚げ部隊、地上班(大物チーム、小物チームなどさらにチーム分け)など役割分担して片付けていきます。
風光明媚な場所で、仕分けしながらゴミ拾い。これがなかなか大変なんです。
発泡スチロールの破片と、牡蠣などの貝殻の区別がつきにくくて、いちいち確認してから拾います。
ひとりで何種類ものごみ袋は持てないから、空き缶を拾ったら「空き缶袋持ってる人、どこ~」と探して渡して、どこかで「瓶の袋ある~?」なんて声がしたら「はーい、こっちだよ」と受け取りに行ったり。
そんなこんなで、作業しながらちょっとずつ、ボランティア同士が知り合っていけるしくみなのです。
海の方を見てみましょう。
浜で作業している人の向こうの海の上に浮かんでいるのは「あまさん」たちじゃありませんよ。海中でがれき撤去作業中のダイバーたちです。
当初の作戦は、タイヤなどのがれきにダイバーがロープを掛け、それを地上から引っ張るというもの。でも、がれきは海中の泥の中に埋もれているので、引っ張るだけではウンともスンとも言いません。
けっきょく、ダイバーたちは海の中でスコップなどを使ってがれきを掘り起こすことになりました。
「これキツイよ。ぜんぜん思うように掘れないんだから」
海から揚がってきたダイバーに話を聞くと、水中でスコップを使うのは大変な作業だったようです。水の中に体が浮かんだ状態なので、踏ん張ることができず、力が入らないのです。
ダイバーは引き揚げ部隊が引っ張りやすいように何とか頑張って泥を掘る。
引き揚げ部隊はダイバーの作業を軽減するために渾身の力を込めて引っ張る。
海中と波打ち際の間をつなぐロープが、文字通り「きずな」に見えました。
苦労の末に引っ張り上げたタイヤの内側にはヘドロがどっさり。
ヘドロを出さなければ重すぎてタイヤを転がすことすらできませんでした。
でも、水ですすいだくらいではヘドロはとれません。手でかき出して、水ですすいで、またかき出してを繰り返してから集積場に運びました。
重たくて、海水が冷たくて、ヘドロは臭いし手に着いた汚れが取れないしで、大変な作業でした。
その頃、地上班大物チームが何をしていたかと言うと、流木の搬出です。
浜に打ち上げられた流木や、津波で土が侵食されて発生した倒木を運び出します。
長い時間水に浸かっていたせいか、ふつうの木とは重さがぜんぜん違います!
大きな木は運びやすいようにチェーンソーで切ってから。
風光明媚な海岸に唸るチェーンソーのエンジン音。ちょっと不思議な感じでした。
大物チームに課せられたもうひとつの大仕事がこれ。
木の根の掘り出しです。
地盤沈下で浜辺の面積が減少しただけでなく、かつては海から一段高い場所にあった木が、ビーチの真ん中に位置するようになっているのです。
浜辺で遊ぶときに、木の根っこなんかあったら危ないから掘り出そうということになったのですが、根が深いこと深いこと。さらに横に張り出した太い根も数多く、歯が立ちません。
スコップの鉄製のシャフトも折れてしまい、万事休す。
午前中の作業では掘り出すことができませんでした。
いっしょに作業した宮城県水産高校の平塚先生は、「この浜辺にずっといたいって言ってるのかな、この根っこ」としみじみ話していました。
3月9日のお昼!~午後のボランティア
お昼休みは高台でランチ。狐崎復興漁業部の漁師さんたちが焼き牡蠣をふるまってくれました。
手前は支部長の阿部さん。奥の赤いカッパは漁師の善さん。牡蠣を焼きながら、牡蠣を食べながら、狐崎浜の海のこと、牡蠣養殖のこと、おいしい牡蠣の見分け方などなど、漁師さんにしか語れない話を聞けた至福の時間でした。
写真は地上班のリーダー魚谷浩さん、通称ひろにい。
太陽の下、焼きたての牡蠣をペロリ。やっぱり至福の時です。
(ボランティア参加費から狐崎復興漁業部に支援金も送られています)
あっ、キッチンカーの前でサコちゃん(竹内久古さん)発見!
現地で知り合った人に再開できるのも、ボランティア活動の楽しみですね。
この日のお昼は焼き牡蠣だけでも大満足なのに、おでんやムール貝の煮物、おにぎり、ワカメなどなど、うれしくなるようなメニューが並びました。
昼ごはんの時間帯は、まるでランチバイキングに来たかのような楽しさです。
さて、作業再開です。
地上班にとって最大の難敵はこれでした。写真の右に見える黒いパイプ状のもの。海苔養殖のポールです。ポールには養殖用のネットやロープもまとわりついています。
それがどういうことかと言うと・・・
スコップでポールを掘り出そうとすると、ロープやネットが邪魔をしてスコップが砂の中に入らないのです。
スコップはシャフトが曲がり、ロープを切るための刃物は切れが悪くなり、力づくで掘り返そうとバールを使っても鋼鉄製のバールの方が曲がってしまう――。
やってみると分かると思いますが、「徒労感」とか「無力感」、「絶望感」といった文字が心の中にしみ出してくるような感じがしました。
狐崎浜では海苔の養殖は行われていません。ずっと遠くの海岸から津波によってはるばる運ばれてきて、このビーチの砂の中に堆積したものです。
ビーチクリーン。
浜辺に何が埋まっているかによって、大変な作業が発生します。
でもそこは、これまで数々のボランティア活動をリードしてきた猛者たちがずらりと集まった今回のこと、
「よーし、今日の作業の最後にみんなで力を合わせて綱引きしましょう!」
とひろにいから声が掛かります。
「掘り出しチームが悪戦苦闘してきた海苔養殖のポール、みんなの力で1本でも抜きましょう! それよいしょ!」
「よいしょ!」
あら、思いのほか、あっさり抜けちゃった!
なんだ、最初からこの方法でやればよかったのか!
さっきまでと表情が一変。充実感と達成感の笑顔が広がりました。
作業を終えてビーチで記念写真を撮った後は、高台に上って今日の反省会。各チーム、漁師さん、宮城県水産高校の生徒さんや先生が感想を語ります。
高台からビーチを見下ろすと、
だいぶキレイになったなという達成感と、
もっともっとキレイにしたいなという思い。
ちょっと微妙な感じだけれど、ひとつ確かなことがある。
それは――、
動けば動いた分だけ、たとえ少しでも何かが変わる。
たくさんの人が動けば、それだけ変化も大きくなる。
ほら、ひろにいの笑顔を見たら分かるでしょ。
ボランティアのやりがいって、こんな感じなのかもしれません。
1日目と2日目のあいだで
2日間通しての参加で宿泊希望の人たちの宿舎になったのはここ。
蛤浜再生プロジェクトが進行中の石巻市蛤浜。3月11日のオープンに向けて作業が進められているcafe はまぐり堂と、レジデンスとして改装途中の建物が宿泊場所でした。
オープン前の施設を利用できるなんて。ボランティアの役得です。
カフェの内部はもうほぼ完成状態ですが…
2日後のオープンを目指して追い込みの作業が続きます。
工事をしている皆さんは、蛤浜の物語に共感して働いているボランティアさんです。
海に手が届きそうなカウンターには、工事を続けるボランティアさんの帽子。
日も暮れて真っ暗になっても、作業は続いていました。
ボランティアと一言でいいますが、
いろいろな仕事がまだまだたくさんあるのです。
もちろん、これから先もずっと。東北だけじゃなくて、いろいろな場所で。
2日目!!(3月10日)
2日目の朝です。
天気は曇り。午後から大荒れという予報が出ていた宮城県東部地方。曇り空に急に光が差し込んできたかと思ったら強い風が吹いたり、一瞬ばらばらっと雨が降ってきたり。嵐を予感させる天候でした。
でも、ひみつのビーチに集合したみなさんは今日も元気いっぱい。
まずはラジオ体操からスタート。
ビーチに流れる体操の音楽はもちろん「おらほのラジオ体操」です!
おらほのラジオ体操というのは…
大好きな東北の、その方言のラジオ体操で、
日本全国でラジオ体操しませんか。
いつも東北が身近に感じられるように。
東北の方々の元気な姿をともに感じられるように。
私たちはきっと、一緒にラジオ体操ができる。
きっと日本の笑顔が一緒になる。
「おらほのラジオ体操」動画のエンディングメッセージより
あの「ラジオ体操第一」を石巻弁の号令(歌詞)でやっちゃおう!というごきげんなプロジェクトなのです。歌詞はこんな感じ。
ンデば メーガラ 上サ アゲデ オッキグ 背伸びッコ スッペシ
(腕を 前から 上に 上げて のびのびと 背伸びの運動~)
こちらの動画もどうぞ。
おらほのラジオ体操 字幕入り
YouTube
震災半年後の2011年9日10日、11日に石巻市内で撮影された動画です。CD販売の売上は震災地の復興義援金に当てられています。
楽しくラジオ体操した後は、今日もビーチクリーン作戦開始のはずでしたが、その時、2日目だけ参加の人から「あれ何?」の声が。
おー、よくぞ気づいてくれました。
これはベンチ。昨日大物チームが搬出した流木の中から、形が絶妙なのを利用して据え付けたベンチです。
……以下、昨日の回想シーン……
流木をバラして運び出すなんていう地味な作業を続けていると、誰からともなくこんな声が聞こえてきた。
「この木のこのライン、なんかアートっぽくね?」
「木の皮をはがしたらツルツルで気持ちいいー」
「組み合わせてベンチでも作ろっか」
海苔養殖ポールを砂から掘り出す大変な作業をしている人たちの手前、あからさまに楽しそうにはできなかったけど、
やっぱ、仕事は面白くやらなくっちゃね!
木の向きや高さを調整して、最初に試乗したのは漁師の管野さん。
「流木のカーブが背中や腰のラインにぴったりで、気持ちいい~」
管野さん、イケメン台無しの至福の表情。
次に至福の表情で流木ベンチに寝そべったのは写真家ケースケさん。
世にも稀な光景を漁師のお二人が熱写!激写!撮りまくる!
まだまだビーチクリーンの途中だけれど、急遽編成された流木ベンチチームのみんなには、復活なったひみつのビーチの姿がはっきりと見えていたのでした。
……回想シーン、終わり!……
とにかくお役に立ちたいとストイックになりがちなボランティア活動だからこそ、「無理せず笑顔で楽しく」という気持ちが大切なのです。
曇り空でも海はきれいです。写真じゃ聞こえませんが、リーダーのダジャレもさえています。
綱引き攻撃が効果的と分かったから、今日は作業も順調です。
がんばったから時間が経つのが早いのか?
あっという間にランチタイム。
今日のお昼は狐崎浜の作業小屋(震災後に寄付してもらったそうです)で、浜の漁師のお母さんたちの手料理と、仙台のお寿司屋さんがお届けの寿司、そして狐崎浜名物の焼き牡蠣です。「ボランティアに来てよかった~」と今日も思った瞬間でした。
浜の料理は豪快です。カニがこんな風にカゴにどっさり入って出てきたり。
かと思えばナマコやカキフライは繊細な薄味だったり。
浜の漁師さん、お母さんたちに感謝です!!
そして、もちろんこれ!
狐崎浜の牡蠣って、あっさりしているのに滋味深いからいくつでも食べられちゃう!
「いっぱい食べてよ。どんどん焼くからね」と笑顔の管野さん。
そして、午後も作業続行です。
浜辺で拾ったゴミをバケツリレー式に高台に上げたり、高台のゴミを拾ったり。
大きな流木を運ぶのも難儀ですが、小さなゴミを拾うのも大変です。
立ち上がって背中を伸ばしながら周囲を見わたすと、ひみつのビーチの名に相応しい美しい海。あらためて「いいところだなあ」と感じます。
でも足元にはまだまだたくさんのゴミ。砂浜には海苔養殖のポールやロープ。このビーチが早くキレイになって、もう一度みんなの憩いの海辺になればいい。ビーチクリーンに参加したみんながそう思っていることでしょう。
その時にはぜひ、もう一度遊びにきたい。この浜辺でバーベキューしたり、シーカヤックに乗ったり、シュノーケリングしたり。最高だろうな。
でも、この2日間の作業だけじゃ、まだそんな未来がやって来ないことは明らかです。
そっか、しょうがないなあ。またボランティアに来るかな。とうれしい気分でつぶやいてしまうのでした。
街でがれきを片付けたり、泥を出したりといったボランティア活動は、たしかに少なくなっています。でも復活を目指す海水浴場のビーチクリーンや、人口が減少した集落に観光客を呼び込むための施設づくりやイベント運営、こどもたちの遊び場づくりなど、被災した地域ではまだまだたくさんのニーズがあります。
見えにくいニーズは、地元の人たちとの関わりの中で具体化していくもの。たとえば今回のビーチクリーンは、ダイビングSHOPハイブリッジの高橋正祥さんや写真家の平井慶祐さんが、狐崎浜の皆さんとしっかり深く付き合ってこられたからこそ実現した活動でした。その関わりがなければ、ひみつのビーチが被害を受けていることすら知られなかったかもしれません。
被災した東北に行きましょう!
友だちや知り合いをつくりに行きましょう!
きっと見えてくるはずです。わたしたちにできることが。
でも、最初からあまり大きく構えなくてもいいかもしれません。たとえば、「おらほのラジオ体操」の動画の中に知ってる人や風景を見つけるだけでも、なんだかとってもうれしく思えるものですよ。
●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)
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