屋久島・宮之浦岳(1936m)
離島ながら九州地方最高峰を誇り、日本百名山にも選ばれた山だ。あの有名な縄文杉、ウィルソン株、花之江河といった景勝地ももちろん、この登山ルートの中にある。8月のある日、僕は数人の友人と共にこの山を登った。次から次へと登場した島の自然が織りなす芸術に「さすが世界遺産!」と言いたくなるほどだったが、圧巻だったのはそれら景勝地ばかりではなかった!
淀川小屋に泊まる
ひと口に屋久島の登山ルートと言っても色々あるのだが、僕らは山小屋に泊まりながら2泊3日かけて淀川(よどごう)コースを縦走することにした。初日はバスで紀元杉まで進み、淀川入口から淀川小屋を目指す。
歩いた時間で言えば、1時間程度だろうか。樹齢が何百年かも知れない杉の木に圧倒されつつ、ゆっくり歩いた。雨の多い屋久島にしてこの日は快晴だったが、それでも道中はどこか涼しく、湿った空気をまとっていた。平坦で気楽な道を進むと淀川小屋が見えてくる。時刻は16時。運動を終えるには速い時間かも知れないが、これ以上は進めないので、淀川小屋にて宿泊である。
僕らは持参したコッヘルで米を炊き、おにぎりを作った。明日の朝は3時起き。おにぎりはその朝食である。屋久島登山の朝は早いのだ。定員約60名の山小屋はいつしかいっぱいになり、山小屋周辺にもテントが溢れている。そうしているうち、18時を過ぎたころには早くも暗くなり始めていた。もう就寝だ。
家主からの洗礼
翌朝。といっても周辺は真っ暗な午前3時だが、小屋の中で懐中電灯を点し、異変に気付いて驚愕した。おにぎりがないのだ!いや、正確にはあるのだが、包んだアルミホイルが破れ、米が散っている。
「あー、ネズミにやられたね。ここは出るんだよ。」
「ネズミ!?」
登山慣れしているのだろうおじさんが、そんなことを教えてくれた。なんでもこの小屋はヤクシマヒメネズミの棲み家らしく、屋久島ファンの間では常識らしかった。素人の僕らはそんなことをまったく気にせず、作ったおにぎりを放置していた。山小屋の壁にも注意書きがあったらしいのだが、暗くて気が付かなかったらしい。無防備にもおにぎりを枕元に置いていたということは、まさに頭の近くでネズミがおにぎりを食べていたということである。ひぃぃ。
知らぬが仏とはこのことで、「この山小屋にネズミが出る」ということを知っていた登山客からすれば、昨晩は活発にモソモソ、モソモソと動いていたらしい。口の開いたカバンであれば平気でもぐりこむ行動力だそうで、持参した食料はファスナー付きのカバンに入れるのが徹底した対処法だという。
「ひゃあっ!」
友達が悲鳴をあげた。なんと、カバンの中に包んでいたお菓子まで、見るも無残な状態になっていたのだ。おにぎりの代わりになるはずだった“カロリーメイト”はすっかり砕けて、粉がカバンの底に溜まっていた。
幸い、今後炊く分の米だけは無事だったが、今朝はまさかの食事抜き。2泊3日の登山は始まったばかり。大自然・屋久島の思わぬ洗礼を受けてしまった。
「でも、全然そんな気配無かったよね。」
仲間の一人がそう呟き、僕らは山小屋を出発しようとした。その時、
「チィチィ、チィチィ」
「ひぃぃ!」
最後まで姿を見せなかったネズミが「いってらっしゃい」と言ってくれた。
淀川小屋
ネズミに注意!
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