トレッキングで学ぶ小笠原と外来種【旅レポ】

どれも可憐で美しい固有種。しかし、どこか弱々しい。

グァバの一種、キバンジロウ(別名テリハバンジロウ)。

 「これはキバンジロウっていうんだけど、甘くて美味いんだよ。」 「へぇー、それがこんなにたくさん生えてて素晴らしいですね!」

 「でも、こいつもさっき言った侵略的外来種でね。固有種にとっては良い存在ではないんだけど・・・。」 「・・・素晴らしくないですね。」

 ジャングルトレッキングガイドの松原さんは、都度丁寧に説明してくれた。小笠原でのトレッキングは、ガイド付きツアーが基本。世界遺産登録を目指す島ゆえ(当時は登録前の2008年、その後2011年に登録)、森林生態系保護地域への立ち入りを制限した「利用ルール」が設けられており、一般の立ち入りを制限している区域が多いのだ。ガイド付きで入ることが可能な指定ルートを歩き、小笠原の魅力を教わることになる。 「これはコバノトベラって木。小笠原の固有種だけど、もう父島にはここに4本あるだけかな。」

 今まで何気なく過ごしていた小笠原が、歩を進めるたび新鮮に感じる。クジラやイルカなど海ばかり注目が集まりがちの小笠原。しかし、本当の顔は陸上にある。「小笠原は固有の動植物の宝庫で、同時に絶滅危惧種も多い」とはよく聞く話だが、残り4本という木を目の前にすると、急にその重みを感じた。 小笠原の植物は400種の維管束植物が生育し、その中の150種余りが固有種だ。そのうち80種近い植物が絶滅危惧に指定されている。島を歩いていてふと目につく植物のなかにも、きっと固有種が含まれているはずだ。

 「小笠原では“ムニン”って付く名前の植物が多いでしょ?もともと小笠原が無人島だったことの名残なんだよ。“ムニン”って付いたら小笠原の固有種だね。」 ムニンヒメツバキ、ムニンセンニンソウ、ムニンタツナミソウ・・・、どれも白くて可憐で美しい。しかし、どこか弱々しくも見える。

ムニンヒメツバキ。村の花に指定されている。

固有種を脅かす外来種。持ちこんだのはすべて人間

 例えばいかにも南の島らしい、モクマオウという木は東南アジアから太平洋の島々が原産。一見小笠原によく似合っているモクマオウだが、小笠原ではかつて存在しなかったものだ。1872年に荒廃地復旧のために導入されたと言われている。しかし、今ではモクマオウの落葉が他の固有種の生育を阻害しているから皮肉な話だ。そのほかリュウキュウマツ、ホナガソウなど、代表的なものを挙げるだけでもきりがない。これらをいかに駆除するか、研究が進められている。 鬱蒼としたジャングルを引き立てるギンネムも、外来生物法によって要注意外来生物に指定されている。荒れた土地でもたくましく育つことから導入されたものの、他の作物の成長を阻害する存在だとわかり、世界遺産登録が意識し始められたころから、繁殖抑制対策が検討されているらしい。その昔、隣島・母島に持ちこまれたアカギは、成長が速いあまり、周辺の固有種に届くべき太陽光を遮断した。やはり現在は繁殖抑制が急がれており、伐採したアカギを木材や看板などに有効活用すべく、ボランティアによる活動が進められている。

 いずれにしても、外来種を持ちこんだのはすべて人間である。しかし、その人間が過去を反省し、今度は生態系を崩すまいと試行錯誤しているのだ。

右上に見えるのがモクマオウ。マツと良く間違えられるが、分類上、針葉樹でもない。

やっぱりこの景色がたまんない

 そうこう学びながらも、ガイドコースは随分荒々しかった。道中に登場する固有種や外来種問題について学びながらも、山を越え、ガケを越え、勉強と運動が同時進行する。

 「さぁ、間もなく絶景です。どんな景色が見られるでしょうか!」 松原さんが煽る。いつの間にか汗もびっしょり。実はかなり歩いていた。あと少し。

 「ほわぁー・・・」 崖の上から見渡す景色は父島を360度、水平線までを一望できた。ゆるやかに吹く風は熱もった身体を優しく冷ます。

 「なんだかんだ説明したけど、やっぱりこの景色がたまんないよね!」 確かにたまらない。疲れも間違いなく吹っ飛んだ。目の前に広がる景色、ただひと口に絶景と言いたいが、その構成要素は固有種に恵まれたこの島の風土にある。この景色を守るため、今なお試行錯誤が続いているのだ。

崖の上から見渡した父島。絶景!

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