伊豆大島と言えば、都内でもっともアクセスの容易な島だ。内地との距離もそれほど遠くなく、フェリー、高速船、ヘリコプターといった交通手段はもちろんのこと、羽田や調布からは飛行機さえも飛んでいる。訪れるという意味では日本でも指折りの敷居の低さではないだろうか。
そんな人の出入りの伊豆大島だからこそ、島の様子がとても気になった。1日数本の定期航路に委ねるほかの島々とは、少し性質が異なる気がしたのだ。
そこで、バイクで島をまわることにした。島の西側、中心集落である元町から一周道路が通っており、30km/hでバイクを順調に走らせたとすれば、2時間とかからない。僕は元町港付近にある「らんぶる」というお店でバイクを借り、島を時計回りに走り始めた。
元町集落周辺
何よりもまず驚いたのは、伊豆大島には「何でもある」ということ。大きいスーパーにホームセンター、携帯ショップにフィットネスクラブ、カトリック教会、パチンコ、書道教室、洋菓子店、ペット用品店、自動車教習所、司法書士事務所まで!もはやこれだけあれば、離島ながら何ら不足なくやっていけそうと思えてしまう。
そのうえ、今はインターネットも充実し、欲しいものは何でもネットで買える時代でもある。この島で過ごしていると、わざわざ都会に出向いてまで買いたいものなんて無いのかも知れない。
岡田集落を抜け、オオシマザクラへ
元町集落から岡田集落へ進むにつれ、徐々に火山島らしい緑濃い木々が目立ち始める。5月のこの日は爽やかな晴れの日で、雲ひとつない薄青の空に濃いめの木々が映えるものだから、さながら南国のような気分すら感じた。緯度は決して低くないが、この島が都心部から少し離れた程度であることを思えば、そのギャップがたまらない。
さらにバイクを進めると、国指定の天然記念物である、大島のサクラ株に出くわした。このあたりは先ほどの「何でもある」雰囲気とはまるで真逆。たくましい自然がちょいちょい見られるのだが、このサクラ株はその中でも一番印象的だった。
島の固有種であるオオシマザクラの中でも、このサクラ株は樹齢800年と推定されているらしい。来航する船が目印にしたほどの巨木だったそうだ。ところが、育ちすぎて重くなった太枝が倒れ、しかも、その太枝が新たに根付いて育ち、大きなサクラ株になったという。自然の営みの中でしか作り出せない圧巻のサクラ株は、ここが東京都であることを忘れさせてくれた。
火山の雰囲気が増す島の東側
島の東側に広がる自然は、一見雑然としている。ところが、それが人間の想像し得ない姿かたちをしているだけに、侮れない。
伊豆大島は、1986年に噴火した三原山を中心とした火山島だ。元町集落付近ではそれを感じさせないほどに華やかな印象だったが、島の東側、都立大島公園から南へ進むにつれ、この島が火山島であることを思わせてくれる。車道脇の土の色が分かりやすいほど黒く、触ってみると石でさえ軽いのだ。車道からは海も見える。土の黒と海の青というコントラストは伊豆大島のような火山島ならではだろう。
昔ながらの港町、波浮集落
そんなことを考えていると、波浮集落が見えてきた。こちらはどちらかと言うと静かな、昔ながらの港町という印象。無人販売所に野菜の苗が売られ、民家の庭先で猫がくつろぎ、接岸している漁船だけが少しカラフルに見えた。
ほとんど人を見かけない集落だったが、集落内にある高校から生徒と思しき男女が2人、どこかへ歩いて行った。整った制服と、木々が繁る島の道路。国内でも、島内に高校を備える離島はそう多くない。僕は比較的生徒の多い都会よりの高校を出たが、高校生活を島で暮らすことはどういうものなのだろうか。
それまで見てきたように、自然に溢れた大島をフィールドに暮らせることはとてもうらやましい。ではそのぶん不便かと言えば、元町集落を中心に、生活に必要なものは揃っている。それでいて都心部へのアクセスも容易なのだから、考えようによっては良いことづくめにも見える。
地層切断面から再び元町集落へ
波浮集落を抜けると、差木地、間伏、野増と小さな集落が続き、一周を終える。元町集落へ近づくほどに車の数も増え、先ほどまでの静けさが打って変わり、にぎやかな様相を増してきた。道路は広々としており、左側に広がる海には利島や新島の島影がうっすらと見えていた。
そんななかで最後に見たのが地層切断面だ。遠目から見てもインパクト大な地層切断面は、長い年月をかけて断続的に降り注いだ火山灰から成る。その層は90層にも及ぶらしく、この島の道路の工事中に偶然発見されたものなのだそう。さきほどのサクラ株の見たときに抱いた気持ちがより強くなった。この島はなんだか自然との距離が近い。
そうして感動しているのも束の間、いよいよ一周を終え、元町集落へ到着した。
伊豆大島
この元町集落より、外周道路を時計回りに一周した。
まだまだ「島記事」あります。
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