閑話休題。田植えを迎える季節に関連して写真を繰った。最近撮ったものから何年か前に撮影したものまでさかのぼって。
最近の写真では、「田んぼのカモメ」で触れた山間の田んぼのオタマジャクシの写真があった。その数日前に見たカエルの卵の写真もあった。追加で紹介しようかとも思ったが止めた。理由は美しくないから。といって、世の中に「ムシヘン」が付くものの画像を異様に嫌う人があるから、という理由からではない。水が張られた黒褐色の田んぼに、小さな黒いオタマジャクシがうようよしていても、絵柄としてはっきりしないからだ。カエルの卵にしてもそうだ。写真全体が一面に褐色なばかりでは、見る人にしてみればじっと写真を見て、「あぁなるほど、ここに写ってるツブツブが卵なんだ」と確認しただけで終わってしまうと思ったからだ。
東北の季節の移りかわりをお伝えしようと田んぼ関係で記事をつくろうと写真を探していたのだが、ここは閑話休題。東北ではなく静岡県の伊豆地方の田おこしの様子から1枚を取り上げることにした。
写真撮影の日時は、2014年4月16日午前7時半過ぎ。駅に向かう途中にスマホで撮影したものだ。当時、国道沿いに並ぶ民家と駅の間にはけっこうな大きさの田んぼが広がっていた。国道沿いの民家や床屋、お寺なんかが密集した路地を歩いていると、何十羽もの白い鳥が空を旋回しているのが見えた。そこからはまだ田んぼは見えない。見えたのは家々の屋根の向こう、高い空から白い鳥たちが旋回しながら舞い降りていく姿だけだ。白鷺、青鷺のたぐいがたくさん棲んでいる土地柄ではあったが、このときほど多くの鷺類が集まるのは見たことがない。異様な光景だった。ヒッチコックの映画「鳥」とか、エヴァンゲリオンで鳥のような羽根を持った使徒が舞い降りてくるシーンを思い出してしまったほど。
路地を抜けて目の前に田んぼが広がると、田んぼは白鷺(おそらくダイサギ)でいっぱいだった。写真に写っていないものも含めると50羽以上、ほとんど100羽近くいた。たくさんのダイサギたちが次々と舞い降りていくのは、田植え前の田んぼを掘り返しているトラクターのまわりだった。
遠くの方で控えているサギたちも、隙をみては舞い上がり、トラクターの周りに舞い降りてくる。もちろん、トラクターが動けば鳥たちは避けるのだが、あまりの多さに運転席のおじさんも困ったような表情だ。
たぶん、トラクターが掘り返したの田んぼには、ミミズとかオケラとか土の中に隠れていた小動物が土といっしょに掘り返されるのだろう。それを狙って、百羽に達せんとするほどのダイサギが次々とトラクターを取り囲むように舞い降りて来たのだろう。
ゴンベが種まきゃカラスがつっつく、みたいな景色はどこの田んぼや畑でもふつうに見られる。或る意味、鳥は人間を利用しているといってもいい。それにしても、このダイサギの数は恐ろしいほどだった。
日本で一年中見られる白くて大きな鳥といえば白鷺だろう。その姿は農村風景の一部にもなっていて印象としては美しいものだ。しかし彼らもWILDLIFEとして生きている。
そんないわば当たり前のことを、まるで「カサブタを剥がしたら血が出ちゃった」といったくらいに当たり前な感じで気づかせてもらった4年前の朝だった。